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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
25/31

3-3 感心しない復讐

 時間は少し戻る。


お手洗いから戻って来ると、

アマノが握っていたコントローラーは放置されていた。

プレイ画面もヨシキが目を離したときから変わっていない。

どこに行ったのだろうと思う前に、

部屋のドアが開いていたことに気がつく。


(いやまさかな。だって鍵かけてたし――)


と思ったがヨシキはすぐに部屋へ駆け出した。

下にバタバタと響いたかもしれないが、

そんなことを考えている余裕はない。


(そうだ。アマノは先日ベランダの鍵を開けたんだ。

 もしかしたら、南京錠くらい開けてしまうかもしれない)


予想したとおりだった。

アマノが見ていたのは南京錠をかけていたタンス。

手に持っていたのはヨシキのブリーフだ


「おい、何してるんだ?」


そう聞いたヨシキも、

こちらを振り向いたアマノも固まって動かない。


(どうしてアマノがタンスを開けて俺のパンツを見ているんだ?

 この中に本当に金目のものが入っていると思ったのか?

 いつものイタズラのために開けたのか?

 別に盗む気はなくても俺を驚かせることはできる。

 いやそれ以上に、

 俺の秘密を探ろうとして開けたんじゃないか?

 そのほうがアマノらしい。それで俺のパンツを見ていた。

 だがどうしてそんなにまじまじと見ているんだ?)


考えながらも強いいらだちを覚える。

こんないらだちを感じたのはいつ以来か分からない。


どうしていらだっているのか。

秘密を見られたからか。

アマノが自分への復讐を果たすかもしれないからか。


「あの、ヨシキこれはその」


アマノの方から慌てた声が上がった。

両手をバタバタと振って、

なにか言い訳をさがしている。

当然パンツもバタバタとする。


ようやくいらだちの理由が分かった。


「俺の部屋の不法侵入は別によかったんだが、

 鍵のかかってる場所をわざわざ開けるのは関心しないな」


腕を組んでアマノをまっすぐ見つめた。


わざわざ鍵のかかった場所を開けること。

そこには貴重品が入っていると言っておきながら開けた。

これは窃盗の未遂になりえる。

今まではイタズラ――と少なくともヨシキは思っている――で済む。

冗談の範疇で済んだのに、

今回ばかりは本当によくない。


もちろん自分の秘密を見られたという

焦りや緊張から怒りがないことはない。

だがヨシキにはアマノが

こんなに悲しいことをしたことがショックだった。


「だっ! だって!

 こんな不自然な鍵のかけ方したら気になるでしょ!

 あんたの秘密が隠してあるって思うじゃない!」


対しアマノは今までにないヒステリックな声で返した。

今までされてこなかった反応を拒否しているのだろう。


「気になるのは分かる。

 だが俺のパンツなら、先日覗いただろう?」


「ちゃんと見てなかったの!

 それにまさか鍵をかけてまで隠しておくことが、

 下着だなんて誰が思うのよ!?」


「それはそうかもしれない。

 だが鍵をかけてあるものを勝手に開けて、

 まじまじ見るのは良くないな。

 キミはそんなことをする子じゃない」


「な! なによ!

 あんたまであいつと同じこと言って!

 あたしに説教しようっての!」


するとまるで逆鱗に触れたように

アマノは文字通り『鬼の血相』を見せた。

まさに大妖怪たる鬼の顔だ。

普通のひとならば怖がるだろう。


さすがにこれは見たことがない顔、

普通に生きていて見ることができなかったかもしれない。


だがそれでもヨシキは全くひるまなかった。

もしここで殺されても

アマノに言わないといけないことがあると強く感じている。


「俺へのイタズラはおもしろかったからいくらでもよかった。

 部屋に勝手に入ってきたのも驚いたが、

 そこまで怒ることだとは思ってもいない。

 だが、こればかりは良くない。

 昔はそうしていたのかもしれないが、

 今は妖和の時代。

 妖怪も人間の決まりを受け入れて、

 同じ場所で生活しているんだ。

 だからアマノもちゃんと守らないと」


「なによ! なによなによなによ!」


すると一転、

叱られたことを受け入れられない子供のようなわめき声を上げた。


「あんたのことなんか大嫌い!」


そう言ってアマノは

パンツを床に叩きつけて、家を出ていった。


「…………はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


ヨシキは座り込んで、

人生で一番でかいため息をついた。

「あんなに言わなくてよかったかもな」



「いいひとかもしれないって思った。

 だってあんなステキなパンツをはいているから。

 なのになんなのあの説教は」


自分の家に戻ると、

逃げるようにアマノは布団に潜った。


夕飯も食べる気はしないし、用意もなかった。

だって、今日もヨシキが用意してくれると思ったから。


だがこんなことがあってはそれはお預けだろう。

普段だったら復讐のあとでも図々しくたかりにいけた。


誰が悪い? ヨシキが悪いに決まってる。


「隠しておくのがいけないのよ。

 人間はいっつもそう!

 大切なことははっきり言わないし、隠してばっかり。

 いいものなんだから堂々と見せればいいのよ!」


布団越しながらも隣の部屋に声を上げた。

このマンションは防音がしっかりしてるので、

壁でも叩かないと聞こえないだろう。

それを分かっていても叫びたい衝動が声帯を揺さぶる。


「そのくせ見ようとするとあんなに怒って!

 まるで恥でもかかされたことに逆ギレしてるみたいじゃない!

 キレたいのはこっちよ!」


返事はない。

向こうがどう思っているのかも想像ができない。


ただただあるのは、

復讐ができないまま

あいつに先立たれてしまったときと似たような怒り。


「しかもしかも、

 なんでヨシキも鬼がこんなに怒ってるのに怖がらないのよ!

 あいつといっしょ!

 弱っちくて百年くらいで

 すぐ死ぬ人間のくせに鬼を怖がらない。

 おかしいじゃない!

 あいつはともかく、

 ヨシキは陰陽師でもなんでもないんでしょう!」


これ以上言葉が出てこないと感じるまで叫び続けて、

それから逃げるように眠った。

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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