3-2 復讐鬼再潜入
乱暴にチャイムが鳴らされまくったのでドアを開ける。
誰と誰が来ているのかは確認しなくても分かっていた。
と思ったが、
「今日はアマノひとりか」
ヨシキは拍子抜けした声を上げた。
するとアマノは腕を組んで目を細める。
「そうよ。悪い?」
「悪くはない。
ヒナタがついてこないのが珍しいだけだ」
「ヒナタはミコと遊びに行ったわ。
まったく今どきの遊びにハマちゃって」
肩をすくめながら言った。
同じ妖怪として思うところがあるのだろうか。
それとも大妖怪として、古参の妖怪として、
人間の文明に染まることを嫌っているのだろうか。にしては、
「アマノだってゲーム楽しんでるだろう?」
「あたしはヒナタほどじゃないわ。
勝ち負けにあんなにワーキャーできるなんてすごいって思うほど」
「だが今日もやるだろう?」
「とうぜん!
今のうちにヒナタよりもうまくなってやるんだから!」
アマノはニヤリとしながら意気込みを見せてきた。
いつもよりもテンション高めだと感じる。
「んじゃやるか」
ヨシキとしてもこのテンションと意気込みに答えたい。
強くうなずいてアマノを家に招き入れた。
アマノは元気な足取りで中へ。
「飲み物いるか?」
「いいわ。さっさと始めましょう」
アマノはヨシキより先にコントローラーを手にとった。
ゲームの起動やメニュー画面の操作はまだ覚えてないのか、
結局ヨシキを待っている。
データの消し方は分かったくせに。
「はいはい」
ヨシキは自分の分だけ麦茶を用意して
テレビの前へと座った。
アマノは大げさに体を揺らしながら、
煽ってくる。
「早くしなさいよ」
「なんだ今日は落ち着かないな」
休みの間になにかあったのか。
何気なく聞いてみた。
するとアマノは図星でも突かれたように目を泳がせ始める。
「そ、そう? いつもどおりよあたしは」
若干声も上ずっていた。
緊張のようなものが見え隠れするので、ヨシキも目を細める。
ヨシキはとりあえずゲームを立ち上げた。
ふたりは無言で操作をする。
(もしかして先日の覗き見のときに、
パンツを見てなんか思ったのか?)
少し眉をひそめてアマノを見る。
アマノの目はまだ泳いでいた。
(いや、今日学校では
アマノもヒナタもいつもどおりだった。
思い返してみればアマノは
少し落ち着きがなかったかもしれない。
すでにやったことのあるイタズラを仕掛けてきたし)
おかげで以前より簡単にあしらえてしまい、
物足りなかった。
ヨシキは適当にキャラクターとカートを選んで、
アマノの顔をより注意深く見る。
(もしかして俺のパンツを見て動揺してる?
だから落ち着きがないと考えられないか?)
そう考えるとヨシキの背中に寒気が走った。
大げさだが本人にとっては戦慄と言ってもいい。
おかげでスタートダッシュに失敗。
混戦の中一位に飛び出る。
(いやもし引いていたら、
そもそも近寄って来ないはず。
それに学校でいつもどおりになるとは思えない。
ってことは他になにか考えてることがあるのか?)
「あー! えぬぴーしーのくせに生意気よ!
一位のヨシキを狙いなさいよ!」
しばらく黙っていたが
アマノのカートが甲羅に当てられた。
アマノのギャアギャアとした様子を見て、
ヨシキは軽く一息。
(……いつもどおりか)
「眼の前にいたから撃ったんだ。
それに順位が下がったらいいアイテムがでるかもしれないぞ」
「でもヨシキに全然当てられないじゃない!」
「こんだけ差をつけてたらな。
苦手なカート選んだんだが、
手加減には足りなかったか」
「手加減なんてムカつく……」
「でも前よりうまくなってるぞ。
今ならヒナタと張り合えるんじゃないか?」
「あたしはヨシキに勝ちたいの。
あんたの得意なげえむで打ち負かして、
悔しい顔をさせてやるんだからね」
アマノがそんなことを言っている間に、
ヨシキは一位でゴールした。
ヒナタがいない分アマノと喋っているせいか喉が渇く。
麦茶に口をつけてからアマノの方を見る。
「現状、悔しい顔をしているのはアマノだけどな」
「イーっだ!」
悔しそうな声を上げながら
アマノが歯をむき出しにした。
ちょうどそこでアマノもゴールする。
なんとかギリギリ二位だ。
キリがいいと思ったところで
ヨシキはコントローラーを置いて立ち上がる。
「ちょっとお手洗いに」
「はいはい」
アマノは適当に返事をした。
ヨシキはアマノの顔を見つめたまま、
「データ消さないでくれよ?
アマノだっていい順位なんだから」
「分かってるわよ。
同じ復讐は二度しないわ」
「今日やったじゃないか。
上履き隠したやつ」
「あれは……。思いつかなかったの!
でもやらないと気がすまないからやったの!」
「気がすまないってノルマ制かよ」
アマノの言葉に目を細めつつヨシキはお手洗いへ。
#
「今だ」
お手洗いのドアが閉まったのを確認すると、
アマノはコントローラーを放り出した。
迷わずヨシキの部屋へと入る。
ポケットから鍵開け用の道具を取り出し、
針金を鍵穴へ。
「よし、やっぱりかんたんね」
時間もかからずにカチャリと鍵が開いた。
さっそく引き出しを開ける。
「なによこれ……パンツ?
やっぱり貴重品なんて入ってないじゃない?」
大きな声をあげそうになったが、
なんとかこらえた。
それでも驚きの声は漏れる。
タンスの中は白いパンツが入っていた。
少し漁ってみるが宝石もお金も入っていない。
アマノは改めてパンツを手に取りまじまじと見つめる。
「でもこれ、かっこいい……。
やっぱりあのとき見たのは見間違えじゃなかった」
アマノはパンツを宝石でも見つめるように
目を輝かせて見ていた。
「白くてステキ……。
男物のパンツにもこんなにいいものがあったなんて」
女子の白いパンツもなかなかいいとは感じていたが、
これはそれと一線を画する。
シンプルな白、鼠径部のラインがとてもかっこいい。
「それにこれをヨシキがはいている……。
あいつははいてなかった。
そこはぜんぜん違う」
今までは顔が似ていた、
自分への態度が似ていた、
だから陰陽師のことを重ねてヨシキを見ていた。
子孫だという事実を知っていながら、
照らしあわあせたり、
ヨシキの後ろにその影を重ねていた。
だがあのときこのパンツを見て
違うことに気がついた。
気のせいかもしれないと思っていたが、
こうしてちゃんとパンツを見ることで分かる。
「そっか。やっぱりあいつとヨシキは違うんだ。
ってことはもしかしたらヨシキは悪いヤツじゃないのかも……」
いつの間にか強くパンツを握っていた手を緩めた。
「こんなのはいていたなら
もっと早く言ってほしかったわ。
それならば復讐なんて言わなかったのに」
アマノがそう思いながらうつむくと、
同じようなパンツがいっぱいあった。
アマノにとっては宝の山だ。
「でもどうしてヨシキはこれを隠していたの?
わざわざ鍵までかけて……。
あたしが知らないだけで
ホントに貴重なパンツだったりする?
だったらこんなにたくさんないし、
いつもはいてたりはしないはず――」
「おい、何をしてるんだ?」
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