3-1 復讐相手(の下着)が気になる
次の日妖怪三人娘はいつものベンチに集まった。
「そっー、秘密を見つける作戦は失敗したのねー」
「ミコってばその秘密に興味なさそうね」
「興味ないわよー。
アマノちゃんたちがおもしろいことしてるから、
協力してるだけー」
(それでいいわ……。
あれがヨシキの隠しておきたいことだったら、
ミコに言うわけにはいかないもの)
心のなかでうなずいてから、
アマノはわざと飽きたような顔を作った。
「他にヨシキを困らせる方法はない?」
「なんか飽きたっていうよりー、
蛇が出るとイタズラしたら怖い鬼に怒られたって感じねー」
ミコがアマノを覗き込んでそんなことを言った。
アマノは首を引いて、
「そんなことないわよ」
「そんなことありませんわ」
なぜかヒナタも声を出した。
これはミコも以外だったようだ。
目をパチクリとさせてから、
「なーんでヒナタちゃんもキョドるのー?
もしかしてー、ヒナタちゃんもー、
見ちゃいけないもの見ちゃった?」
次にヒナタを見つめ、
顔を覗き込んできた。
ヒナタもついつい反応してしまったことに
オドオドを隠せないでいる。
「そ、そんなことありませんわ。
あまりに恐ろしいものを見たとしたら、
イタズラなんて恐れ多くて考えられませんもの」
「復讐よ」
いつものように言い返したが、
言ったあとに力が弱いことに気がついた。
「でも、アマノちゃんは
その『恐ろしいもの』に興味あり気ねー」
アマノはうなずいた。
怖がっているというより、
真剣に気にしている。
それが伝わる目だ。
「どうしても気になるの。
あの鍵のついたタンスの中」
「あれは貴重品が入っていると、
ヨシキ様はお答えになりましたわ。
何を気にする必要があるのでしょうか?」
「気にするでしょ!」
腕をばたつかせながらアマノはヒナタに呼びかけた。
だがヒナタは首を傾げたままだ。
(ヒナタあんただって見たでしょ?
ヨシキのステキなパンツを!?
それがあのタンスに入っているなら
ちゃんと確認したいと思わないの!?)
アマノはヒナタの顔を見つめて
必死に伝えようとした。
ふたりだけならば声に出して伝えたのだが、
ミコがいる以上そういうわけにはいかない。
それでもヒナタは首を傾げたままだった。
「でもアマノちゃんがそこまで必死になるなら、
なにかあるのかもねー」
「そ、そうよ。
まあでもヒナタが興味なさげだし、
あたしひとりでどうするか考えるわ」
「そこまでして確かめる必要があるのでしょうか?」
「あるの!」
(もー! どうして分からないのよ!
価値観の違い?
男子だって女子のパンツ気にしてたでしょ!
いっしょよいっしょ!)
と心のなかで付け加えて主張した。
それでもヒナタは首をかしげるだけ。
「将来の旦那の資産とか
仕送りとか調べるのはいいかもよー」
「旦那って、そんなわけ――」
いつもならばもっと大きな声で言い返せたはずだ。
なのに、アマノは思い切った否定ができなかった。
自分でもアレっと空を見つめる。
(な、なんで今あたしはっきり否定できなかったの?
復讐の相手との結婚なんて
これっぽっちも考えられるわけないじゃない!)
「あらあら、強く言い返しませんでしたわね」
ヒナタは意外そうに口を丸くして指摘した。
煽るような口ぶりだがその目は警戒の色をしている。
アマノは顔をしかめた。
「もしかしてー。
ヨシキくんに惚れちゃうようなことでもあった?」
「そんなことないわよ!」
「そんなこと……」
なぜかヒナタも声を出した。
さっきも似たようなことがあったのを覚えている。
「どうしてヒナタちゃんも反応したの?」
「わたくしは……。そうですわね。
アマノ様に落ち着きがなく、
自分の気持ちに気がついていないのは、
平等ではありません」
アマノもミコも首を傾げた。
(あたしが気持ちに気がついてない?
あたしはあいつにムカついたから、
ヨシキに復讐する。
目的を忘れたことなんてないわ。
なにってるのヒナタのやつ)
とアマノは考えるがヒナタの言葉の意味が分からなかった。
そのままヒナタが淡々と話を続けるのを聞く。
「アマノ様がタンスの中を調べたいので
あればお止めいたしません。
わざわざ鍵をかけてあるところを破るのは、
さすがのヨシキ様もお怒りになるかもしれない
ということはご忠告いたしますわ」
「なんで分かるのよ?
ヒナタあんたはヨシキのなんなの?」
「『今の』わたくしは、
ヨシキ様に恩を勝手に感じているだけの座敷わらしですわ」
「あ、勝手だって分かってるんだー」
ミコのつぶやきににっこりとうなずいた。
勝手にやってること、
アマノの復讐が八つ当たりも当然なのと言いたげだ。
この態度にもイラっとするが、
気になる言葉遣いもあったので聞いてみる。
「『今の』ってところ強調するわね。
なにかあるの?」
「いずれ関係が変わるかもしれませんので
『今の』としておきました。
それはそうとヨシキ様がお怒りになるかもというのは、
あのお方がそうだったからとお伝えしておきます。
お金などの大切なものを盗もうとした妖怪に対しては、
さぞかし強いおしおきとお説教をしておりましたのを
強く覚えておりますので」
「知ってる。あたしも怒られたし。
それにあいつとヨシキは違うわよ。
別人だわ。同じ態度を取るとは限らないでしょ」
(そうよ、ヨシキとあいつは別なのよ。
だからそれを確かめるためにも、あのタンスの中を確認しないと)
ヒナタに答えながらも改めて決意を固く、
体に力を入れた。
「それにそこまで言うならヒナタは手を出さないほうがいいわ。
あたしは怒られなれてるし、
説教だって聞き流せる。あたしひとりでやるわ」
「分かりましたわ。
わたくしはなにもいたしません。
なにかありましたらお話は聞きますので」
「あたいもねー」
「ふん、良い成果を期待してなさい」
アマノは強がった顔を見せた。
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