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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
21/31

2-13「お背中お流しします」は復讐か恩返しか

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでしたわ」


今日も三人そろって手を合わせた。


 すぐにヒナタが食器を重ねようとすると、

「あと俺やるぞ」


ヨシキは遮るように声をかけて、食器を集めた。

答えを聞く前にさっさと流しに持っていく。


「えっ、よろしいのでしょうか?」


心底申し訳無さそうな声で聞いてきた。

だがヨシキは手を動かしながら答える。


「ヒナタはお客さんなんだし、

 そこの鬼みたいにくつろいでていいんだぞ」


「……逆にアマノ様がくつろぎすぎだと思うのですが」


ヒナタはちらりとアマノを見た。


その先には、食後にも関わらずゴロゴロと転がり、

スカートの中も見えるのを気にしないアマノの姿がある。


今日は黄色の水玉だ。

あれではスカートや制服がしわになってしまうだろう。

そんなことは気にせず続けて、優しく聞いてみる。


「それにゲームがやりたいんだろう?」


「そ、そんなこと……」

言いながらヒナタはテレビの方へと目だけ向けた。


「ヒナタ、げえむやりたがってたじゃない。

 めんどくさいヨシキの手伝いなんかより、

 げえむやればいいでしょ」


アマノにいやらしい声で言われて、

ヒナタはビクリと背中を震わせた。

そして座禅の最中に煩悩に負けたのを指摘されたように背中をまっすぐにする。


「いいぞ。俺もゲームをいっしょにやる相手ができて嬉しいからな」


ヨシキに優しく言われて、

ヒナタは顔をほんのりと桃色に染めた。


「では、お言葉に甘えて」


ヒナタはそう言って恐縮気味な姿勢でリビングへ。

教えたとおりに操作してレースゲームを始めた。アマノも隣に座り込む。


「やるわよ。今日はあたしが勝つんだから」


「アマノ様を相手にして、

 ヨシキ様に勝つための練習になればよいのですが」


すっかりゲームスイッチが入ったようだ。

ヒナタはそんな煽りをつぶやきながら、

使用キャラクターを選ぶ。


それを確認するとヨシキは皿洗いを始める。


「あー! ようやく一位まで来たのに!」


「アマノ様はお相手の車を吹き飛ばすことを考えすぎです。

 どれだけ相手のおじゃまをしても、

 競争に勝てなければ意味ありませんわ」


「じゃあ今度はヒナタを吹き飛ばす」


「ヨシキ様のしていた防御方法がありますので、

 かんたんには順位を落としませんわ」


水や食器の音よりも騒がしい声をBGMにヨシキは皿洗いを進めた。


皿洗いがいつもより楽しい。


いつもつまらないわけではないが、

普段はひとの声なんて聞こえない。

BGM代わりにテレビや動画サイトの音を出してみるが、

水や食器の音でかきけされてしまった。


生のひとの声はそんなことがない。


だがその声を聞いていると、

肩がうずうずとしだす。

(俺もさっさと終わらせて参戦するか)


「ちょっと!? 勝ち逃げ!?」

アマノの怒った声が聞こえたかと思うと、

ヒナタが隣にやってきた。


「やっぱり手伝いますわ。

はやく終わらせてヨシキ様も参加してくださいませ」


そう言いながらスポンジを手にとった。

ヨシキは手を止めずに、

「いいんだぞ。無理しなくて」


「いいえ、わたくしはヨシキ様とげえむがしたいんですわ」


「それってあたしじゃ相手にならないってこと!?」


「さっきから勝ててなさそうだったし、

 アマノはゲームでもクソザコか」


「ヨシキ! 聞こえたわよ」

アマノの声を無視してヨシキは強くうなずいた。


「分かった。早く片付けよう」

「はい!」


ヒナタは元気に返事をした。

それにはヨシキの頬も緩む。


それを見ていたアマノは

つまらなそうな顔をしてテレビに向かった。

ヒナタにボロ負けした大会にひとりで挑戦し始める。


洗い物を終える頃にはひとりやるのに飽きたのか、

休憩しているのか、

ボーッとスタート画面を見つめていた。


「さ! ヨシキ様も始めましょう」


ヒナタはリビングへ駆け出してコントローラーを手に取った。

ひとつをヨシキに渡すと、

さっそく操作を始める。


だが表示されたのは初めてゲームを起動したときの画面だ。

まるで今までのプレイがなかったかのように

きのこ王国の住民が操作方法やルールの紹介を始める。


見たことない画面だとヒナタは首を傾げつつ、操作を続けると、

「アマノ様! げえむの記録がありませんわ!」

ヒナタは大声を上げた。


大会クリアの記録や、解禁した隠し要素、

今までのレコードがすべて消失している。


「さぁ? なんのことやら」


アマノは当然知らんぷりした。

ヒナタの言う通りどう考えてもデータを消したのはアマノだろう。


「これからお城での競争に挑戦するところでしたの!

 またきのこ大会からやりなおしなんて……。

 ヨシキ様、どういたしましょう?」


「あたしは知らないけどー?」


聞いてもないのにアマノが声を上げた。

これでは犯人は自分だと宣言しているようなものだ。

ヨシキはその間にゲーム機のホーム画面に戻ってアレコレと操作する。


「記録を消しちゃうひとなんてアマノ様しかおりませんわ!

 罪を認めなさいませ!」


「だーかーらー、あたしはなんにも――」


「戻したぞ」

「はぁ!?」「はい?」


ヨシキの思わぬ言葉に、

アマノもヒナタもすっとんきょうな声を上げた。

ヨシキはさも当たり前のように、

だけど少し誇らしげに笑って見せる。


「今のゲーム機は便利でな。

 万が一消えたとき、ゲーム機が壊れたときに

 データを戻してくれるサービスがあるんだ。

 バックアップというやつだ」


「はぁ!? なによそれ!?」

アマノは信じていなさそうな悲鳴を上げた。


「なにが起こるかわからないし、

 なにか起こることが分かっていたら、

 こういうことをするのは当然だろう」


「余裕を持った行動ステキですわ!」

ヒナタは嬉しそうにコントローラーを握り直した。


「ぐぬぬ」

「アマノも心当たりがあるだろう?」


「陰陽師の日記に落書きしたら、

 まったく同じ写しが用意されてたりしたわ」


「ほらな」

「むかつくー! 全く同じことされた!」


アマノが平安時代にも似たようなことをしていたこと。

自分のご先祖様まで同じようなことをしていた。

それがおもしろくて、ヨシキは笑いだした。


「アマノ様、そのときに学ぶべきでは……?

 いえ、そもそもイタズラをしないほうがよろしいと思うのですが」


「あたしのはイタズラじゃない! 復讐なの!」



その後はヒナタとずっとゲームをしていた。

アマノは復讐がうまくいかなかったことで、

やる気を無くしたのだろう。

部屋でゴロゴロしながら見ているだけだった。


「ヨシキ様、この後のご予定は」

プレイが一段落したところでヒナタが何気なく聞いてきた。


「風呂入って宿題してゲームするだけだけど」


「では、お風呂にわたくしもごいっしょしてよろしいでしょうか?」


「それはさすがにダメだ」

即答した。だがなぜかヒナタは不思議そうに首を傾げる。


「どうしてでしょう?」


「男女一緒に風呂に入ってたのは江戸時代までだ。

 それに裸を見せ合うのは、

 恋人関係とか、親密な関係じゃないとダメだろう」


「わたくしはヨシキ様のお世話をしたいだけです。

 でしたらわたくしは水着で入りましょう」


「それでもダメだ。俺が裸じゃないか」


「でしたらヨシキ様も水着に」


「持ってない。この学校水泳の授業がないし」


問答を繰り返すと、

売り言葉が思いつかなくなったのかヒナタは少し考え始めた。


なにか良い案はないかと周囲を見ると、

こちらに目も向けずゴロゴロしているアマノに目を留める。


「アマノ様もごいっしょしたいと思いませんか」


「そうね。ヨシキが困ってるし、

 あたしもいっしょに入ろうかしら」


アマノが振り向いてニンマリとした笑顔を向けた。

まるで三日月のように口角を上げていて気持ち悪い。


「ダメだって。ふたりとも女子なんだから恥じらいを持て」


「そういうのは前時代的なお考えだと、

 ミコ様がおっしゃられてましたわ」


「前時代的でもいいから俺はダメだ。

 それに三人も湯船に入らない」


「わたくしもアマノ様も小さいので大丈夫です」


「ダメだって」

「いいじゃない、いっしょに入れば」


「アマノは俺を困らせたくて言ってるだろう」


「もちろんよ。

 あたしはヨシキを困らせるために来たんだから」


アマノは立ち上がってやる気を見せ始めた。

ヒナタがよい流れを作ってくれたので、

便乗して復讐する気が戻ったのだろう。


だがあまりに図に乗るアマノを見たからか、

ヒナタは冷静になるように目をつむった。


「わたくしはヨシキ様のお世話をしにまいりました。

 ですが、ヨシキ様を困らせるのは不本意です。

 なので今日はこれにて。

 宿題もおじゃましてはいけませんし」


「えー、もっと遊んで行きなさいよ。

 宿題なんていいじゃない」


「アマノ様はもうちょっとお勉強したほうがよいと思います」


「そうだぞ。

 そうすればもっといいイタズラが思いつくかもしれないからな」


「イタズラじゃなくて復讐よ!

 それにどうして復讐される側のあんたに言われなくちゃならないのよ!」


「だって、あまりにクソザコすぎるし」


「クソザコ復讐鬼って言うな! おじゃましました!」


アマノは怒ってしまったのか家を出ていった。


ヒナタもペコリと一礼して、

「ではわたくしも、失礼いたします」

ゆっくりとした足取りで出ていった。


ヨシキは鍵を開けたあとも少しドアの前で構えていた。しばらくして、

「帰ったか……。さすがに強引に入ってくるようなことはないか」


とため息とともに言いながら自室へ戻った。

途中リビングで放置されていたゲームのコントローラーをしっかり充電して、

それから着替えを出すためにタンスを開ける。


「風呂はさすがにな。

 裸を見られても、

 この下着を見られるわけにはいかない」


鍵をかけた引き出しを開けて中を見た。

しっかりと洗濯してキレイな白いブリーフが揃っていれられている。

一枚とって他の着替えといっしょに脱衣所へ持っていく。

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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