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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
20/31

2-12 復讐鬼の家宅捜索

ヨシキが家に帰り、

下着を仕舞ってある引き出しに鍵を取り付けた。


いくらアマノが力持ちだったとしても、

これならば開けるのは難しいはずだ。


(まあこれだけやっておけば開けないだろう。

お金とかの貴重品って説明すれば、興味もなくすはず。

アマノはお金を盗もうとするいやらしい子じゃない)


そう思って目の前にはいないアマノにうなずいた。

するといないのにギャアギャアと反論が聞こえたような気がする。


「さて、そろそろ来るはず」

とつぶやいたところでドアを乱暴にノックする音が聞こえた。


「今日も夕飯を貰いに来たわ!」


「お、おじゃまじゃなければ、

 ごいっしょしてもよろしいでしょうか?」


ドアを開けると当然アマノとヒナタがいた。

アマノは腰に手をやり偉そうに、

ヒナタは両手をお腹に置いて恐縮気味だ。


「ああ、そう思って夕飯の買い物も済ませておいたぞ。

 パスタが安かったからな。

 それとサラダでいいか」


「あたしは肉がいい」


「その期待には添えないな。

 カレーにたくさんいれただろう?

 食事はバランス良くだ。

 イヤだったら帰っていいぞ」


「イヤよ。出されたものと、

 盗んだものは文句言っても食べるんだから」


「行儀がいいのか悪いのか分からん。

 それと盗みはよくないぞ」


「今はしてないわよ!

 やって勝手にひとの家に入ることくらいよ!」


「俺の家以外でやるなよ」


「ヨシキ様の家はいいのですね……」


ヒナタは呆れたような、

ヨシキの懐の大きさに驚くような声でつぶやいた。


「玄関先で話すのも騒がしいから、

 さっさと入ってくれ」


「おじゃまするわよ!」

「おじゃまいたします」


そうしてふたりは中へ。

アマノが早足気味で歩きながら、

「よし! いざヨシキの部屋!」


「いいぞ」

ヨシキが素直に答えると、

アマノがガクッとずっこけた。

コントのような転がりっぷり。


予想はしてたがそれ以上におもしろいリアクションに、

ヨシキは思わず鼻をならして、

「見られてまずいものはない」

と付け加えた。


アマノは顔だけ上げて信じられないという顔を見せてくる。


「本当によろしいのでしょうか?」

ヒナタも昨日との答えの違いを聞いて、

不思議そうにこちらを覗いてきた。


「昨日はあれだけ嫌がってたじゃない!」

アマノは体操選手のような身のこなしで起き上がり声を上げた。


「散らかってたから入れたくないって言っただろう?

 今は片付けたから入っていい」


「なによそれ。

 せっかく考えた作戦が台無しじゃない」


「まあまあ、ヨシキ様も快くお部屋に入れてくださると言うのですから。

 アマノ様の望み通りになったことを喜ぶべきでは?」


「あたしの目的はヨシキの秘密を握って、

 悔しそうだったりイヤそうな顔を見ることなの!

 復讐なのよ復讐!」


(やっぱりか……。

 だが下着の入った場所は鍵がかかってる。

 大丈夫だろう)


ヨシキは自分に言い聞かせてから、

リアクションを上書きするようにアマノをからかう言葉を口にする。


「そっか。ちゃんと本来の目的を覚えている。偉いぞ」


「復習される側に言われたくないわよ!」


「アマノが気に入るものがあればいいんだけどな」


そう言って自室のドアを開いた。

片付けもしてあれば、掃除もしてある。

そして一番見られたくないものは鍵をかけてある。


「その余裕がいつまで持つかしらね?

 必ずヨシキの顔を真っ赤にしてやるんだからね!」


アマノは宣言して部屋の中へ。

ヒナタはぺこりと会釈をしてから入る。


「さて、漁るわよ」

「ヨシキ様、よろしいので?」


「アマノの気が済むまでさせるさ。

 それに部屋をどう散らかしてくれるのか、楽しみだ」


ヒナタの言葉にそう答えながらも、

ヨシキは自然な動きを装ってタンスの前に立った。


さっそくアマノは勉強机の中からあさり始めた。

中は本当に予備の文房具やノートしかない。

もちろんそこにも恥ずかしい日記帳やポエム、

書きかけのマンガや小説もない。


アマノはつまらなそうに真っ白なノートを見て適当なところに置いた。


それから次に布団の下、

押入れの中をあさりだす。

ヨシキはノートを拾おうとすると、

「あたしが探した場所は分かるようにそのままにしておきなさいよ」


「はいはい。

 こんな狭い部屋なんだから覚えていてほしいものだが」


「見つけられて困るものを

 こっそり隠されないようにするため!」


ワガママを言うように声を上げた。

ヨシキは肩をすくめて、

ノートをもとに戻す。


それからも押入れの冬服や本棚などを漁ってみたものの、

満足のいくものを見つけることはできなかったようだ。

散らかした部屋を腕を組んで睨んでいる。


「ヒナタはものを隠すときどうする?」


良い知恵は浮かばなかったようだ。

ヒナタの方をちらりと見て言った。


「どうすると聞かれましても、

 わたくしは隠し事も隠したいと思うものもございませんので」


「そんなわけないでしょ。

 人間だって妖怪だって隠したいことのひとつやふたつ、

 持ってるものよ」


そう言われてからヒナタは少し考えた。

それから思い当たるフシを見つけたようだ。

ヨシキの顔を覗き込む。


「ヨシキ様、アマノ様に助言してもよろしいでしょうか?」


「別に俺に許しを求めることでもないだろう。

 助言したところで、

 アマノが活かせるとも限らないし」


言いながらちらりとアマノを見た。

腕を組んで口をとがらせている。


「バカにしてない?」


「そう思ったってことは、

 自分で思い当たるフシがあるからだ」


ヨシキとアマノが仲良く(?)言い合いをしている間に、

ヒナタは少し考えて口を開く。


「『灯台もと暗し』という言葉がございます。

 答えや肝心なことは足元にあるということわざです。

 ですので、アマノ様が思っている以上に、

 ヨシキ様の隠し事は近くにあったり、

 かんたんなことだったりするのかもしれません」


「考えすぎってこと?」


「はい。アマノ様の復習についても、

 ヨシキ様のあるか分からない隠し事についても、

 わたくしはなんとも言えませんが」


そう聞くとアマノは部屋をもう一度見渡した。

するとまだ探していない場所を見つける。


学校指定のかばん、

その裏をどかすと黒いビニール袋があった。


その中を開けるとA5サイズの本が出てくる。

表紙には黒いラバースーツを着た女性がこちらを見下ろしている絵。

そしていやらしい煽り文句が書かれている。


「あった! いやらしい本よ!」


アマノは顔を赤くしながらも嬉しそうに本を掲げた。

まるで宝物を見つけたようなリアクションだが、

えっちな本を掲げられても格好がつかない。


さっそく中を開く。

女性が男性にムチを振っていたり、

足をなめるよう強要しているマンガが載っている。

いわゆるSMプレイだ。


「こ、こんなご趣味があったので!?」


ヒナタも顔を手で覆い、

隙間から中を覗いていた。

目を見開いて、耳も真っ赤になっている。


「それはイチロウが無理やりよこしてきたヤツだ。俺の趣味じゃない」


ヨシキはわざとらしく大きなため息をついた。


「……確かに、踏んづけて喜ぶヤツの本ね」


それを聞いてアマノもため息をついた。

ヨシキがウソをついていないことが分かったのだろう。

ふたりのリアクションを見てか、ヒナタは安心のため息をつく。


「よかったですわ。

 ヨシキ様がこのような趣味をお持ちでなくて……」


「やっぱりイヤ?

 あたしはもちろんイヤだけど」


「もしヨシキ様がこのように踏んでくれとおっしゃったとき、

 わたくしはこのように振る舞えるかどうか不安だったのです」


「あ、そういう……」

アマノはヒナタにも呆れた目を向けた。

ヨシキは『んなこと頼まない』と首を振る。


「それに、このように

 ぴっちりとした肌着?下着?をはくよう頼まれると、

 どうしてよいか……。

 裸でいたすのほうが楽だと思うのですが」


「あ、もういいわ。

 心配しなくてもヨシキはそういうヤツじゃないし」


顔をそらしてアマノは言葉を止めた。

そらした顔は真っ赤になっている。


(ヒナタって、そっちの知識もあるんだな)


ヨシキもなんだか間の悪さを感じて目をそらして思った。


「そ、そうですわね。失礼いたしました」


「いや、気にしてない」


アマノが下手くそな咳払いをしてから、

「じゃあ次はタンスね!

 ヨシキあんた、さりげなくそこに立ったでしょ!?」


「別に、意図はないぞ。

 怪しいと思うなら見てみるといい」


そう言ってどいた。

ニヤリとしたアマノは、

さっそくタンスを一番下から開け始めた。


(よいよ見られるか。まあ大丈夫だろう)


言い聞かせてタンスを漁るアマノを見つめる。

三段目を開けたところで、

アマノの顔はつまらなそうになっていく。


「服ばっかりね」

「当たり前だろう」


するとついに例の場所へと手を伸ばした。


「なによこの鍵のついた棚は!?

 昨日はなかったわよ」


アマノはギャアギャアと声を上げ始めた。

ついでにガチャガチャと引き出そうとしているので、

そこにはヨシキも目を細める。


「違いが分かるってことは、

 やっぱり昨日部屋の下見をしてたか……」


「当然よ。なんもせずに盗みに入ったって

 うまくいかないでしょ」


「まず盗みに入ることをやめるべきでは……?」


「さっきも言ったじゃない。

 今はやってないわよ。

 ヨシキの部屋に入るのは復讐のためなんだから盗みじゃないの」


「ならよいのですが」


「ヒナタ、大丈夫だ。

 触られるとまずいものはあの中に入ってる」


「何が入ってるのよ?」


「そりゃ、通帳とかお金だ。

 万が一のことも考えてある程度の現金を家においてあるんだ」


「アマノ様、これを狙っていたのですか?」


「あたしが新しい時代にもなって、

 そんなにいやしいことをすると思う?」


「過去の出来事で俺に八つ当たりしに来てる妖怪のセリフじゃないぞ」


わざとらしく呆れた声でツッコミをした。同時に、

(やっぱりいい子だな)

と嬉しく感じる。


「復讐よ! 八つ当たりなんてものじゃないわ」


「はいはいそうだなそうだな」

「なんで嬉しそうに言うのよ」


「そりゃ、アマノがお金を狙ってないと聞いて安心したからだ」


『イタズラはしても本当に悪いことはしないいい子だと感じて安心した』

なんて言ったらまたアマノはギャアギャア怒るだろう。

なのでここは違う理由にしておいた。


「いくらあたしでもお金とか金品まではとったりしないわよ。

 他の鬼たちはしてたけど、

 あたしはその気になれなかったわ」


アマノは偉そうに、

それでいて少し困ったように肩をすくめた。

そっぽを向いた目はなんだか遠い過去を見ているような目だ。


「なんでだ?」


「だって、お金とか取られた人間たち、

 すごい泣いてたもの。

 あんな顔されたらあたしは笑えないわ」


それを聞いてヨシキもヒナタも呆然とアマノの顔を見ていた。


「って何よその顔」


「いいえ、アマノ様のお考えが

 ようやく時代に追いついたと感じたのです」


「ああ。この時代まで生きててよかったな。

 偉人は時代の先を進んだ考えを持ってても、

 理解されることなく一生を終えることが多いからな」


「ふ、ふん。褒め言葉として受け取っておくわ」


「それじゃ部屋の片付けをしてくれ。

 終わったら夕飯にしよう」


ヨシキが嬉しそうな笑顔を向けた。

アマノは照れくさそうに腕を組んでそっぽを向く。


「仕方ないわね~。

 気分がいいから手伝ってあげるわ」


「散らかしたのはアマノ様ですわ」

ヒナタは呆れて眉をひそめた。

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