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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
19/31

2-11 それぞれの作戦会議

「ということがあって、

 タンスに鍵をつけることにした」


「ホームセンターに寄ったかと思えばそういうことか。

 だが、そこまでしなくてもいいだろ」


何買うのかと気になったイチロウから、

そんなツッコミが入った。

学校からの帰り道を歩きながら、

でかい目を細めてくる。


「アマノなら、俺の弱みを握るためにタンスを漁るかもしれない」


「服とか下着に弱みがあると普通考えるか?

 おれっちならエロ本を探す」


「エロ本なら見つかってもいい。

 どうせイチロウのだ」


「たしかにな。

 未だにヨシキの性癖が分からんなぁ。

 アマノっちのパンチラも、

 ヒナタっちのはいてない発言も全然気にしないとか。

 普通の男だったら大興奮だってのに」


「性癖はひとそれぞれだろう?

 イチロウがアマノとかミコに踏まれたいって思ってるのと同じだ」


「そうだな。素足で踏まれながらパンツ見たい」


両腕を強く握り、

イチロウは目を輝かせながら力説した。

今度はヨシキが目を細める。


「さいですか」


「だから俺は、

 ヨシキはひとに言えないくらいやばい性癖を持っていると睨んでいる」


それから腕を組んで文字通りにらみつけてきた。

まるで犯人の手懸かりを探る刑事か探偵のようだ。


「本人を前に考察を口にするな」


「いやもう、考えても、

 ヨシキのこと見てても全然分からん。

 だからこうして本人から直で聞くために揺さぶりをかけてるわけだ」


「揺さぶられても出ないものは出ない。

 アマノみたいなことを言うな」


「アマノっちは、

 揺さぶりをかけるなんて考えや動きしないだろ」


「そうだな。

 今日とか悪口を書いた紙くず投げてただけだし」


今日アマノが授業中にやったことを思い出して笑った。

気にはなるがやってることが小学生だ。

ヨシキはアマノの語彙がなくなるまで紙くずを受け続け、

あとでかぶっていた悪口を教えてあげた。


ひとしきり笑ったあと話を戻す。


「だが、強いて言えばあのパンツをはいていて落ち着くというのは、

 性癖にはいるか?」


「それはただの体質だ」

ヨシキはそれを認めるようにうなずくと、

いつもとは違う方へと足を向けた。


「それじゃまた」

「まだなんか買って帰るのか?」


「今日もアマノとヒナタが家に押しかけてきそうだからな。

 夕飯の支度だ」


「くぅー。

 バイトがなければおれっちも行くんだが……」


イチロウは言いながら、

羨ましさと悔しさが入り混じった苦い顔を見せた。

ヨシキもわざとらしく困った顔を見せる。


「俺はイチロウの面倒まで見れんぞ」


「アマノっちの蹴りを受ける盾になるって言っただろう。

 手足を出されそうになったら言ってくれ。

 バイト中でもかけつける」


「バイトしろ」



一方妖怪三人娘は作戦会議を開いていた。

先日アマノがおごってもらった飲み物屋――

ジュースバーというらしい――にやってきて、

また店の前のベンチで三人並ぶ。


アマノは昨日あったこと、

ヨシキの部屋が気になっていることも話す。


「絶対になにか隠してるわねー」


ミコはお宝の噂を聞きつけた女怪盗のような、

嬉しさといやらしさを感じる笑みを浮かべた。

おおよそクラスメイトのうわさ話をするときの顔ではない。


(さすが大妖怪の子孫だけはあるわね。

 あたしもこんな顔できたらいいのに)


思いつつアマノは首を引いた。

それから聞き返す。


「ミコもそう思う?」


「でも隠し事のひとつやふたつ、

 どなたでも持ち合わせております。

 いやらしいものを隠しており、

 それを暴こうとするのは、

 それこそいやらしいことなのでは?」


黙って話を聞いていたヒナタが口を開いた。

それまでは、お上品な手付きで冷たくて甘い抹茶を飲んでいた。


「じゃあヒナタはヨシキが隠してること気にならないの?」


「気になりますわ。

 でも、見るのはヨシキ様に悪い気がして」


「だったら、暴いてやるべきよ。

 もし本当にやばい秘密だったら、

 あたしたちの秘密にすればいいだけだし」


「アマノちゃんってやっぱり優しいわねー」


ミコはケタケタと笑いながらアマノを見てきた。

今度は打って変わって、

まるでカゴの中の動物を見て和んでいるような顔だ。


「なんでよ?

 復讐鬼に優しいヤツなんている?」


「いるわよー。目の前にー。

 本当に悪いヤツなら、相手の秘密を握って、

 秘密のままになんてしないものー」


「そうですわね」


ヒナタまで同意のようだ。

ふたりの言っていることが分からずアマノは首をかしげる。


「じゃあ、相手の秘密を握ったらどうするの?」


「あたいなら言いふらすわー。

 それで相手の顔が真っ赤になったりー、

 真っ青になったりー、

 どんな色になるのか観察するのー」


まるで過去にも似たようなことをしたことある。

そう感じる言い方と顔だった。


昔ミコのご先祖様にあたる妖狐なら

もっとひどいことをしたから言えるのか。


あるいはミコ自身がそういうことをしたことがあるのかは分からない。

聞く勇気もない。


「わたくしが悪いことに悪用するとすれば、

 それを使ってお相手をわたくしの自由にしてしまいますわ」


ヒナタがなにか楽しいことを思い出しているように笑顔で言った。

ミコはともかく、

ヒナタまで悪い考えが浮かんでいることにアマノは顔をしかめる。


「……あんたたちのほうが悪人に見えてきたわ。

 特にヒナタ、白い肌して腹は真っ黒なんじゃないの?」


「そんなことありませんわ。

 推理小説にこのような悪いお方が出てきたので、

 それを参考にしただけですの」


読んだ推理小説がおもしろかった。

だから笑って答えたのだとアマノは考える。

そうであると願いたい。


ここはさっさと話の内容を変えたほうがいい、

とアマノは口を開く。


「まあ、ヨシキの秘密を手に入れてないのに、

 手に入れたときのことを考えても仕方ないわ」


「取らぬたぬきの皮算用ですわ」


「たぬきのヤツら嫌いなのよねー。

 全然ビジネス的な話をしてくれなくて」


「難しい話はしなくていいわ!」


アマノは飲み物を持っていない方の手をブンブン振った。

それから気を取り直すために甘いスムージーに口をつける。

いちごの香りが口に広がる。


「だけど、前回はこっそり入ろうとしてじゃまされたから、

 なにか作戦がいるわね」


「あれをこっそりと申しますか……」


「なによ。あたしのやり方に文句あるの?」


「まあまあー、

 そこはヒナタちゃんに協力してもらえばー?」


狐なのに鶴の一声に、

アマノはパッと顔を明るくしてヒナタに顔を向ける。


「そうね。ヒナタあんた、ヨシキの気を引きなさい」


「よ、ヨシキ様の気を引く……?

 ど、どうすればよろしいでしょうか?」


アマノの提案をどう解釈したのか、

ヒナタは顔を赤くしてモジモジしだした。

アマノは気にせずに話を続ける。


「なんでもいいのよ。

 ヨシキに頼みごとしたり、

 聞きたいこと聞きまくったり」


「そうねー。あたいとしてはしゃくだけどー、

 ヨシキの詳しいことを聞くのー。

 男子って自分の得意分野のことを聞かれると喜んで答えるのよー。

 あたいとしてはしゃくだけどー」


「なんで二回言ったの?」

「大切なことだからでしょうか?」


「あたいのことはいいのー。

 ヒナタちゃん、できそう?

 多分ヨシキくんは喜ぶと思うよー」


「ヨシキ様の得意分野をお伺いする。

 それでしたらできるかもしれません。

 わたくし自身も興味ありますし」


そう答えてヒナタは拳を握って意気込みを見せてくれた。

アマノもうなずく。


「じゃあ、あたしが昨日と同じように部屋に入ろうとしてわざとじゃまされる。

 それからヒナタがげえむの話を振って、

 ヨシキの気を引く。

 その間にあたしは部屋に入るって感じで」


「わ、分かりました。

 ヨシキ様と楽しげにお話したり、

 げえむをすればよいのですね。

 げえむは楽しかったので、

 またしたかったのです」


『ゲーム』という単語に妙に熱がこもっているのを感じた。

アマノの作戦に乗り気というより、


「ヒナタ、本当はげえむがしたいだけなんじゃないの?」


そんな気がしてアマノは聞いてみた。

ヒナタは気を取り直すようにわざとらしい咳払い。


「そんなことありませんわ。

 わたくしはヨシキ様に恩返しをしにきて、

 アマノ様の復習に協力すればヨシキ様も喜ぶと思って、

 それでげえむをやるのですわ」


「めっちゃ早口で語るじゃない。

 本当はヨシキへの恩返しとやらより、

 げえむのほうがいいんじゃないかしら?

 あと『復讐』よ」


「ホント、ふたりはあの男のどこがいいのかなー?」

ミコは不満そうにつぶやいた。

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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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