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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
18/31

2-10 復讐鬼、なにかあると感づく

そして夕飯が出揃った。

昨日のカレーの上には切ったソースカツが乗る。

そばにはポテトサラダが並んでいた。


「それじゃいただきます」

「いただきます」

「……いただきます」


行儀よく挨拶し一斉にカレーに手を付けた。


「やっぱうまい」


改めて変化した後味に満足のコメントが出てきた。

イカの塩辛は、今後のカレー作りにも採用したい隠し味だ。


「はい。ですけど、

 塩辛を入れる前の味も気になります。

 それはまたの機会に」


ヒナタはカレーには満足しているが、

アマノの行動には納得していないと言いたげなつぶやきをした。


「また来るか?」


「もちろんですわ。

 本当ならばヨシキ様のお世話をしたいのです。

 ですが、ヨシキ様がなんでもできてしまうようなので、

 わたくしが手を出したらご迷惑になってしまうのが問題点かもしれません」


「ならあたしがヨシキの世話をしてあげる」


アマノはいやらしく口をにやけさせながら言った。

多分ヒナタといっしょで、

返事に関わらず家に押しかけてくるつもりなのだろう。


「それ、迷惑かけられるからそう思ったんだろ?」


「もちろんよ」

とてもすなおに明るく答えた。

分かりやすくて大変結構だと思いながらアマノを見つめる。


「ですがアマノ様がお手を出すと、

 今回のように手助けになってしまうかもしれませんわね」


「そんなことないわよ。

 バケツの水ひっくり返したときはちゃんと嫌がってたし」


「大したことなかったけどな」

「うー」

アマノは顔をしかめながらカレーを口にした。


それを見てヒナタもなぜかため息をつく。

「どうしたらアマノ様のように、ヨシキ様に喜んでいただけるのか」


「あたしは喜ばせたくてやってるんじゃないの!」


アマノがギャアギャアと声を上げた。

煽るのに成功したからかヒナタがクスクスと笑う。

これにはヨシキの口元も緩んでしまった。


「にぎやかでいいですわ」


「そうだな。一人暮らししてると黙って食事することも多い。

 それと比べたら学校みたいで楽しい」


「あたしは別に……」

笑い合うヨシキとヒナタを見て、

強い光から目を背けるようにアマノは顔をそらした。


『別に』のあとには

『こんなことがしたくて来たわけじゃない』と

言いたいのだろうか?


だがカレーのおいしさや、

ムキになってできる遊びを見つけて、

真っ向から否定できなかったのかもしれない。


「じゃあどうしてヨシキ様のお家に?」


「そんなの復讐に決まってるじゃない。

 ヨシキがいやがることが見つかるかもしれないって思ったから来たのよ」


ヒナタの質問に呆れたように答えた。

ヨシキは口元を固くして考える。


(だがいい線いってる。

 やっぱりパンツを見つからないようにしないとな。

 そうじゃなければ楽しいからいいんだが)


と思うと口元が緩んできた。それを見てヒナタも嬉しそうに笑う。


「結果喜んでいらっしゃいますわ。

 わたくしも、ヨシキ様のお家に来るきっかけをくださいましたし、

 とても嬉しいです」


「俺も、ひとりでやってたゲームをいっしょにできてよかったぞ」


「も~、なんなの!」

アマノはイライラをぶつけるようにガツガツとカレーをかき込んだ。


「ほら、あまり一気食いすると太るぞ」

「人間と妖怪の体をいっしょにしないで!」


「俺はアマノのことを心配してるんだ」

するとアマノはカレーをかき込む手を止めた。

口に入れた分だけたくさん噛む。


(うん、注意すればちゃんと分かってくれる。いい子だ)


ヨシキはそれを見て満足気にうなずいた。

するとヒナタが続けて言う。


「あとご飯を口に入れながらしゃべるのはお下品ですわ」

アマノはご飯をかみながらヒナタを睨みつけた。



食事の時間も楽しかったからか、

いつもよりも早いペースで終わった気がした。

ヨシキがテキパキと皿の片付けを始めると、

ヒナタも食器をまとめだす。


「お片付け、お手伝いいたします」

「ありがとな」


「本当ならばわたくしが

 ヨシキ様に尽くしてさしあげたいのです。

 ですが、今日はおいしいものを頂いたり、

 お世話になってばかりですわ。

 なので、これくらいはさせてくださいませ」


そう言ってヒナタは食器を流しへ運んだ。

お湯を出して皿につける。


ちらりとアマノの方を見た。

ヒナタのありがたい言葉に、

なにか悪態をつくかと思う。


だがアマノは虚無を眺める猫のような顔でどこかを見ていた。


「ねぇ、あのドアの先は?」

ヨシキの視線に気がついたのか疑問を口にした。


「自室だが」

「ふ~ん」


(あ、これは入るな)

アマノがまた黙ってドアを見つめていた。

正確にはドアの先を気にしているのだろう。


ヨシキは洗い物に手を付けるフリをした。

するとアマノがこっそりと、

気が付かれないように少しずつドアの方に向かって動いている。

まるでクソザコな『だるまさんが転んだ』をしているようだ。


「ヒナタ、残り頼む」

「はい、かしこまりました」


水の音に紛れるようにヒナタに断りを入れて、

ヨシキもアマノの方に近づいていった。

アマノはもうすぐ手の届くドアノブに夢中だ。


(これで気がついてないと思われてるんだからなぁ)


と呆れながら距離を詰める。

そしてアマノががばっとドアノブに手をかけたそのとき、

「そこまでだ」


「ちょっと!?」

ヨシキがアマノの細い手をとった。

だが鬼の強い力でかんたんに振り払われる。

ヨシキは気にせずに言う。


「俺の部屋に入ろうとしただろう?」


「と、お手洗いに行こうとしただけよ。いやらしい」


「お手洗いはあっちだ」


指をさすとアマノはおとなしくそっちの方へ駆けていった。

ヨシキはそれを見て再び洗い物へ戻る。


「アマノ様はなにをしでかそうとしたのでしょう?」


「俺の部屋に勝手に入ろうとした。

お手洗いと間違えたとか理由をつけてな」


「まあまあ。そんな見え透いた嘘を……」

ヒナタは呆れながらもクスクスと笑った。


ふたりやるとすぐに終わる。

洗い物が終わって手を拭いていると、

アマノが戻ってきた。

それからさも当たり前のようにヨシキはの部屋に入ろうとする。


「いや、ダメだって」

とうぜんすぐに腕を握って止めた。


「入れなさいよ!」

「イヤだ。こっちの部屋こそ散らかってて見せられん」


(万が一のことも考え、片付けてはいる。

 タンスさえ開けられなければ大丈夫だが。

 準備もなしにいれたくない)


そう思いながらドアの前に立ち、アマノを止めた。


アマノが本気で入ろうと思うなら容易いだろう。

だがアマノはヨシキを吹き飛ばしてまでやらない。そんな信頼もあった。


「そんなこと言って、

 本当は見られたくないものを隠してるんでしょ?」


ヨシキは思わず目を細めた。事実だ。


(こればっかりはな……。

 アマノに見られると本当に復讐を完遂されるようなものだ。

 ドン引きされて二度と普段通りにならないとも限らない。

 アマノは下着についてこだわりを持ってるだろうからな……。

 絶対に引く。それは俺もイヤだ)


「ほらあたしの言ったとおりみたいね。

 鬼としてはクソザコでも、これくらいは分かるわ」


「クソザコであることは認めるのですね……」

ヒナタもヨシキを助けるべくこちらに来てくれた。


「あくまで『鬼としては』よ。

 あたしの復讐がクソザコとは言わせないわ」


「まあまあ、ヨシキ様がイヤがってるので、

 今日のところはご遠慮しましょう?」


「イヤがってることをするのが復讐じゃない!」


「なんか違うだろ……イヤがることは確かだが」


「ヒナタも気になるんでしょう?

 恩人の部屋よ」


「いいえ、そんなことは」


「だって『今日のところは』って言ったじゃない。

 本当は気になるわよね?」


その言葉にヒナタは困った顔をした。

図星を突かれてごまかしきれないので

いい方便を探しているような顔だ。


(ヒナタまで興味あるのか……。

 俺のご先祖様はホントなんなんだ?)


「ヨシキ様も健全な殿方でいらっしゃいますから。

 なので見られたくないもののひとつやふたつあるでしょう」


「あたしはその『見られたくないもの』が見たいの」


「仕方がない……」

ヨシキは盛大なため息を付いてドアを開けた。


「ほら、見ての通りなにもないだろう?」


部屋にはキレイに畳んである布団、

かけてある制服、勉強机に本棚。

そして中を見られたらまずいタンスがある。


「言うほど散らかってないじゃない」


「俺の中では散らかってるに入ってるんだ。

 片付けたら入れてやってもいい」


アマノはなにも答えないで目を細めて部屋を見渡していた。

まるで部屋の内装を覚えておいて、

次に盗みに入ろうとしている怪盗みたいな目だ。


ヒナタもやっぱり気にしているような目をしていた。

だがお目当てのものがなさそうな顔になる。


それから数分間まじまじと見たあと、

「変なものはなさそうね」

というつまらなそうな感想をつぶやいた。


「そりゃあるわけないだろう」


「仕方がないわ。今日のところはこれで勘弁してあげる」


「それはありがたい」

ヨシキは部屋のドアを閉めた。

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