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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
17/31

2-9 復讐鬼、復讐(イタズラ)が裏目に出る

「おじゃまいたします」「じゃまするわよ」


「どうぞ」


今日はすなおにふたりを家にあげた。


今朝家を出る前からこれを想定して、

部屋の確認をすませている。


見られてまずい下着はすべて、

自室のタンスへと仕舞ってあった。


「まぁ、キレイに片付いておりますわ。

 ミコ様は、一人暮らしをする男子は

 部屋が散らかってるとおっしゃっておりました。

 ですが、ヨシキ様はそうではないのですね。すてきです」


「アマノからも同じこと聞いた。ミコの男子の印象はどうなってるんだ?」


ご先祖様は男をたぶらかし、

大暴れした大妖怪だと言っていた。


もしかしたら自分も男をよく知っていると誇りたいのかもしれない。

だがミコに彼氏がいるとか、

逆ハーレムを作っているという話題はまるで聞かない。

つまりそういうことなんだろう。


「これが今どきの『げえむ』なんですね」

 いつの間にかヒナタの興味がゲーム機に移っていた。


「ヒナタは遊び方分かるの?」


「分かりませんわ。

 こういうのは、実際に動かして

 慣れていくものではないでしょうか?」


「お、ヒナタは分かってるな」


思わぬ言葉にヨシキはごきげんな声を上げた。

なんとなくゲーマーの資質を感じる。


「お褒めいただきありがとうございます」


ヒナタも褒められたことが嬉しかったようだ。

ヨシキの方を見て満面の笑みを浮かべた。


対してアマノは細い頬を膨らませて

ムスーッとした顔を見せた。

それからツノをビンビンに立てたように声を上げる。


「いいわやってやろうじゃない!

 やり方を教えなさいよ!」


「焦らないでくださいませ。

 まずは種目を決めないとですわ。

 こんな小さなげえむ機ですが

 様々な遊びがあるのでしょう?」


「じゃあ、このレースゲームにしよう。

 車を運転して順位を競うやつだ」


ヨシキはそう言いながらコントローラーを差し出した。

こんなこともあろうかと四人分は買ってあったが、

使ったことはあまりない。


「分かりやすくていいわ!」

アマノは奪い取るように受け取った。



「ちょっと!

 今なにぶつけてきたのよ!?」


「このげえむは道具を上手に使うことがコツのようですわ」


ヒナタの操作するきのこのカートが、

悠々と追い抜いていった。

アマノの恐竜のカートは崖から戻されている最中で、

まだまだゴールに辿り着けそうにない。


「ヒナタは分かってるようだな。

順位が低いほどいいアイテムがでる。

だからこうした逆転もできるってわけだ」


そこにヨシキのイカのカートが

加速アイテムを使って横から飛んできた。

そのまま速度を落とさずにゴールする。


「まぁ! わたくしが一位だと思ったのに、

 文字通り飛び込んできましたわ!」


抜かされたのにヒナタは嬉しそうだ。

ヨシキが勝ったからというより、

自分の見知らぬ技術を見せてくれたことに興奮しているようだ。


「ずるいわよ!」


アマノはギャアギャア言いながらビリでゴールした。

転落は致命的だったようでNPCにも抜かれてしまっている。


「アイテムを手に入れた直後から使うから悪いんだ。

 使い所を見極めないと」


「もう一回やるわよ!

 次こそあたしが一位よ!

 ヨシキの使ってるヤツなんか、

 イカの塩辛にしてやるんだから!」


「そう言って何度目でしょうか?」


「っていうかイカの塩辛にしてやるって、

 どういうセリフだよ。欲しかったら冷蔵庫に入ってるぞ」


「いいの!

 とにかく始めるわよ!」



「ちょっと!

 今の何よ!?

 どこから出てきたの!?」


またも知らない動きを見せられて、

アマノがギャアギャアと声を上げ始めた。


「ショートカットってやつだ。

 競争なんだから近道を使ったほうが有利だろう?」


「このげえむのことをよく理解していらっしゃるのですね。

 さすがヨシキ様ですわ」


ヒナタはヨシキを褒めながらも、

表情は笑顔ではなく真剣だった。


今の動きをどうしたらできるのか考えているのかもしれない。

ますます感じるヒナタのゲーマーの素質にヨシキの頬は緩む。


「そんなのせこいじゃない!」


対してアマノは声を上げるだけ。

だがヨシキとしてはいい対戦相手はひとりでもほしい。


「知ってるからと言ってできるとは限らないが、

 教えてやるからやってみるといい」


煽る言葉を加えながら聞いてみた。

するとアマノはさらに体を前のめりにして、


「上等じゃない!

 あたしも覚えてヨシキを出し抜いてやるんだから!」

と意気込んだ。


「ではわたくしは休憩ですわね。

 お飲み物をお出ししますわ」


「冷蔵庫に麦茶が入ってるから自由に飲んでくれ」


「ちょっとヨシキ!

 あんたはあたしに『しょおとかっと』とやらを教えるのよ」


「はいはい分かってるよ」

そう答えながらもヨシキは嬉しさを隠せないでいた。



「うまく行かないわよ!

 教えてもらった道が細すぎるし、

 失敗したら絶対ビリになっちゃうじゃない!」


「だから言ったろ、

 知ってるからといってできるとは限らないって」


「むしろ普通に走ったほうが確実に順位をあげられますわ」


そう言いながらヨシキとヒナタが一位争い。

アマノはそこに追いつくこともできなかった。


「うー! もっかいもう一回やらせて!」

『最下位』の文字を見てアマノはまたギャアギャア声を上げた。


「と申されましても、

 そろそろお腹がすく時間ですわ」


「関係ないわ!

 これでヨシキに勝てないと飯がまずくなる――」

そう言いかけたところでアマノの腹の虫が鳴った。


「お腹は正直ですわ」


「……ご飯にしましょう」

さすがのアマノもここにはすなおになった。


「ってもすぐに用意できないから、

 その間に練習しているといい」


ヨシキも笑いながら立ち上がり、

台所に向かった。


その言葉に煽られたアマノは

鳴り続けるお腹に力を入れながらテレビに向かう。


「いいわ。ヨシキよりうまくなってやるんだから」


「その前にわたくしより上手になるといいですわね」


「ヒナタもいちいち煽るんじゃないわよ!」


アマノの言葉を無視して、

ヒナタはヨシキの隣へやってくる。


「わたくしもお手伝いしますわ。

 ヨシキ様、ご指示いただけますか?」


「じゃあ、ポテトサラダを作るから手伝ってほしい。

 イモを切ってくれ、小さめの一口大で」


「はい! 承知いたしましたわ」


それを聞いてヒナタはどこから出したのかエプロンをつけた。

制服の上なのになぜか似合う。


「ふん……。せいぜい仲良くやるといいわ」


負け惜しみのように言うと、

アマノはまたショートカットに失敗して転落した。


アマノの崖に転落するような叫び声と、

ヒナタのリズムのいい包丁の音を聞きながら、

ヨシキは昨日のカレーの用意を進めた。

鍋に移して温める。


「ヨシキ様、どうぞ」


そうしている間にヒナタがイモを切り終えた。

自分に合わせてか、

ヨシキが切るより小さめで、形の良い一口サイズだ。


「お、キレイだな。

 じゃあ次はきゅうりを薄い輪切りで頼む。

 切ったヤツはこっちに」


「はい!」

指示を聞いてヒナタは嬉しそうに返事をした。

先程と同じリズムできゅうりを切り始める。


その間にヨシキは切ったイモをボウルに入れてラップ、

電子レンジへと入れる。


「ちっともできる気がしないわー」


悲鳴を上げるのに疲れたからか、

アマノもやってきた。

じゃまをする気はなさそうだ。


「難しいショートカットだからな。

 俺も結構練習したし。

 疲れたなら気分転換したらどうだ?

 少し手伝ってくれ」


「なにをすればいいの?」


「ちょっとカレーをかき混ぜててほしい。

 用意したいものがある」


「分かったわ」

(やけに素直だな)


頼んだあとに思った。

だが、アマノがやる気になってお玉を受け取ったので、

今更『やめろ』とは言えない。

そのまま任せることに。


その間にヨシキは昨日買い物に使ったエコバッグを持ってくる。

中にはアマノが食べきれなかった駄菓子が入っていた。

その中で一番アマノが気に入ってたソースカツを取り出す。


「ヨシキ様、きゅうりを切り終えました」


するとヒナタの声と電子レンジの音が同時にした。

お菓子を持ちつつ電子レンジへ。


「じゃあきゅうりはこちらでやるから、

ヒナタはじゃがいもを潰してほしい。

包丁はまた使うから洗って置いておいてくれ」


「かしこまりました」


指示を出すとヒナタは、

フリスビーを投げられた犬のようにご機嫌に動き始めた。


ヨシキはその間にきゅうりを電子レンジへ。

ソースカツの袋を開けようとしたとき、


「ちょっと! アマノ様!

 今何をカレーに入れましたか!?」


ヒナタの大声が上がった。

ヨシキは首を傾げながら包丁を仕舞って、

ふたりの元へ戻る。


「な~んにも入れてないわよ」


アマノが両手を背中にやって、

なにかを隠しながら言った。

あまりにも顔が白々しい。


「いいえ! わたくしはごまかせませんわよ!」


と言いながら小さな手でがっちしとアマノの腕を引いた。


アマノの力なら余裕で抵抗できただろうが、

すでにイタズラは終わっていると言わんばかりの余裕のある表情のまま。

なにもせずに引っ張られる。


「イカの塩辛……。

 カレーを辛くしようとしましたのね。

 ヨシキ様、いかがなさいましょう?」


アマノの手にあった瓶を見てから、

ヒナタはその手を掴んだままヨシキに聞いた。


「ふむ……。とりあえず食べてみよう。

大した量を入れたわけじゃないし、

急に辛くはならないだろう」


ヨシキは言いながらかき混ぜてしまった。

そのルーをスプーンでとって口へ。


アマノはニヤリとした笑みを浮かべながら、

ヒナタはヒヤヒヤとした顔でヨシキの反応を待つ。すると、

「おいしい」

 ヨシキ自身も意外だと思いながらつぶやいた。


「は?」「えっ!?」

これにはアマノもヒナタも同時に声を上げた。


「これいいな。アマノ、よく見つけてくれた」

「そんなわけないでしょ」


 アマノはスプーンを奪い取った。ルーをすくって口へ。


(あ、俺の使ったスプーンを)

と思う間もなかった。


衛生的にはどうかと思う行動ではある。

それ以上に間接キスになってしまったことのほうが気になっていた。


「……昨日のと違って、これもおいしい」


だがアマノはカレーの味のほうが気になっていたのだろう。

特に奪ったスプーンについてはなにもなし。

意外そうにつぶやいただけだった。


(まあいいか。せめてヒナタのはちゃんとしよう)


ヨシキは別のスプーンを取り出して、

ヒナタに差し出した。


「ヒナタも試して見るといい」


「ヨシキ様がそうおっしゃるのであれば、

 いただきます」


ヒナタも恐る恐るカレーを口にした。

するとタレ目がまんまると見開かれていく。


「信じられませんわね。

 まさかこのようなものが隠し味につかえてしまうとは。

 アマノ様はもしかしてこれを知っていて?」


「そんなわけないでしょ」


「どうした?

 悔しそうな顔をしているが」


「悔しいのよ!

 あんたたちがイヤがる顔が見たかったのに」


「だけど、カレーをまずくしたら、

 アマノもまずいカレーを口にすることになっただろう?」


「うっ……」

(まさかそこまで考えてなかったとは)


これにはヨシキも笑うどころか呆れて目を細めた。

クソザコだからというより、いきあたりばったり、

思いつきで行動するからなのだろう。


(イカの塩辛入れたのも、

 さっきのゲームで思いついたのかもしれないな。

 俺の冷蔵庫にイカの塩辛入ってなかったら、

 なにを入れるつもりだったんだろうか)


言葉に詰まるアマノを見ていると、

ヒナタの小さな体から大きなため息が出る。


「……まさか、アマノ様。

 ここで味を変えたら、

 先日のカレーは自分だけのものになる。

 そうお考えになったのでは?」


「ち、違うわよ。本当に思いつきよ。

『そんな嫉妬する般若』みたいなこと考えて、

 あたしがするわけないでしょ!」


「今回はよかったが、イタズラは自分に被害が及ばないようにしたほうがいいぞ」


「そんな助言いらないわよ!」


「まあ、俺もこれから

『こんなの入れるの!?』って言われそうなのを出すけどな」


言いながらヨシキは開けようとしていたお菓子の袋を見せた。


「ちょっとこれ、あたしが昨日買ったおかしじゃない!」


「いや、俺がお金をだしたし」


「アマノ様、ヨシキ様にお菓子までねだったのですか!?」


ヒナタは信じられないと言わんばかりの声を上げた。

ヒナタからすれば子供っぽい行動に見えたのだろう。


「ねだったわけじゃないわよ。

 勝手にカゴに入れたら、

 ヨシキが買ってくれるっていうから」


「同じですわ」


「どっちにしてもちょうどよかったから入れてみたんだ。

 さっきの塩辛といい、このカツといい、

 アマノのおかげでカレーがうまくなった。ありがとな」


「あたしはヨシキを困らせるためにやったの! 礼を言わないで!」


アマノは下の階に響かない程度の足音でテレビの前に戻った。

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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