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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
16/31

2-8 復讐鬼は食後にゴロゴロする

「おいしかったわ。ごちそうさま」


アマノは食べ終わるとパンと音を立てて手を合わせた。

某錬金術マンガのようだと思いながらも、

その音は満足の音だと理解する。


「お粗末様」


そう答えながらヨシキは音を立てずに手を合わせた。

それからすぐに食器を流しに片付け始める。

同時に棚からタッパーを用意。


「まだ余ってるの?

 もらうわよ」


するとアマノが余った鍋にカレーに気がついたようだ。

残飯処理を名乗り出たように言ったつもりだろう。

だが顔がにやけているのが隠せていない。


「また明日とかに食べるんだ。

 いくら作るのが好きでも作り置きはあったほうが楽だからな」


「そ、そう」

餌がもらえないことに気がついた猫のように、

しょんぼりとした顔になる。


「ま、まあいいわ。今日のことろは帰るわ」


すぐに気を取り直しクールに去ろうとした。

それをヨシキは本当の涼し気な顔で見つめる。


「俺になにもしないのか?」

「はぁ?」


まさか呼び止められるとは思っていなかったのだろう。

アマノは声を上げた。


「俺の家に来たのは、

 俺の家でなにかするためだろう?

 なにもしないで帰るのかってことだ」


ヨシキの言葉にアマノは『はっ』と気がついたようだ。


「そ、そうね。

 おいしい料理のせいで忘れてたわ……」


咳払いをして、

カッコつけてケンカを買うような顔になる。


「いいわ。ヨシキ、あんたの望み通り復讐してあげる」

ヨシキはうなずいて少し構えた。


(さぁ、なにをしてくる?)

真剣そうな顔を作って、楽しみに待つ。


だが復讐を宣言したアマノは部屋の中でゴロゴロし始めた。

さっきの買い物袋を見つけると、

中からお菓子を出して食べ始める。


「すぐにしないのか?」

「スキを見てやるのよ。

 ヨシキも油断しないことね」


偉そうだが、ぜんぜんやる気もないし怖くもない。

(あ、これは本当にしばらくなにもしてこないな)


拍子抜けしたヨシキは気にせずに洗い物を始めた。

水音でなにかされても気が付かないかもしれないが、

そうして予想を外してくれたほうがおもしろい。


それに万が一、

自室のドアが開けられたらいくらなんでも聞こえる。


完全にリラックス状態のアマノに

そんなこと思いつくとは思えないが。


せっせと洗い物を終えて、

カレーをタッパーに詰めて冷蔵庫に仕舞った。


本当に片付けが終わるまでアマノはなにもしてこなかったし、

なにかした様子も感じられない。


テレビのクイズ番組に首を傾げていただけのようだ。

ヨシキは転がるアマノの方を見る。


(ソースカツか……いいことを思いついたが、明日だな)

そう思いながら破かれた袋を拾う。


「ほら、食べたらゴミ箱に入れろ」

「散らかしたらヨシキがイヤがるでしょ。これも復讐よ」


「やれやれ(世話が焼けるんじゃなくて、

 ホントにクソザコだな)」


ヨシキはお菓子の袋を片付けて、

残ったお菓子をエコバッグに戻した。


「あっ!? ちょっと!?」

「今日はここまでだ。

 カレーも食べて腹が膨れてるだろう?」


「むぅ」

お腹のことを言われてアマノはおとなしく引き下がった。

事実のようだ。


「でもテレビは渡さないわよ」

「はいはい」


「ちょっと『自分の家で見ろ』くらいいいなさいよ!

 あんたの好きな『げえむ』とやらができないんじゃないの!?」


「別にテレビがないとできないものじゃないからな」


ヨシキはそういいながら充電台に乗っていたゲーム機を取り外した。

スタンドで立たせて外部コントローラーを持つ。


止めていたサンドボックスゲームを再開させると、

ゲームの中に一面の大農場が広がった。


「な、そんなふうに遊ぶの!?

 テレビと繋がってたじゃないそれ!」

「もちろんテレビとも繋げられる。見てみるか」


「え、ええ……。見せてみなさい」


ヨシキはゲームを再度スリープモードにして、

充電台に戻した。


テレビのチャンネルを外部出力に変えてゲームのスリープを解除する。

今度はテレビに大農場が広がった。


「なにこの畑、まるで別の世界があるみたいじゃない」


「楽しいぞ。やってみるか?」


「ふ、ふん。あたしはご飯が炊けるのを待つ側なの!

 田植えの手伝いなんてしないわ。

 働くところ見ててあげるから、

 さっさとクワを持って働いたらどう?」


「そうだな」

ヨシキはゲーム内の自分を操作し始めた。

アマノに言われたとおりさっそく畑を耕し始める。


アマノはその様子をくつろぐ猫のような顔で見ていた。


ときおりあくびもしている。


ヨシキにとっては作業ゲーは楽しいのだが、

だいたいのひとにとっては退屈なのだろう。


アマノもそのだいたいのひとと同じようだ。


(今度は違うゲームを用意しておこうかな)


そう思っているとコロンとアマノが転がった。


夕飯とおやつとお腹が膨れて、

眠たくなってきたのだろう。


ヨシキはアマノの肩を揺さぶる。


「おい、こんなところで寝ると風邪ひくぞ」


「鬼は人間とは違うの。

 外で寝てても平気なんだから~」

と寝言みたいに言い返えされた。


「復讐の相手の前でこんなに無防備でいいのか?」

返事がない。本当に寝てしまったようだ。


「やれやれ。これも俺への復讐か?」


ヨシキはため息をついた。

嬉しいような、困ったような顔になる。

仕方ないので自室からキレイなタオルケットを持ってきてかけてやる。


化粧をしているようなつややかな白い肌、

桃のようなみずみずしい桜色の唇、

そこから伸びるツノもかわいく見える。


恋愛的な感情を持っていなくてもかわいいと分類できる女子が、

スヤスヤと寝息を立てている。


「こうしてればかわいいんだけどな」


他の男子ならば心臓をバクバク鳴らして、

どうしようか慌てふためくところなのだろう。


だがヨシキとしてはどうにもそんな気分にならない。


(やっぱりアマノも、

 俺の後ろの見えないご先祖様を見てるからなんだろうな)


思って残念なため息を吐く。

それからゲームの世界に戻った。

耕しただけで、田植えが終わっていない。


それから広大な農地の田植えが終わった頃、

むっくりとアマノが顔を上げた。

まだまだうつろな顔でキョロキョロと周囲を見る。


「はっ!?」

するとようやくここが自分の家ではないことに気がついたようだ。

「やっと起きたか?」


「なんであたし寝てたの!?」

「食後にゴロゴロするからだ」


「ヨシキあんた、

 あたしになにかしなかった?」


「されたくなかったら、

 そんなに油断した様子を見せないことだな」


言い返そうと起き上がると、

タオルケットがぱさりと落ちた。


そこで自分がなにをされたか理解したようだ。

力の入っていた拳を下ろす。


「そ、そうね……。

 いえ、あんたがおいしい料理を食べさせて、

 あたしを眠たくしたんでしょ? 罠よ!」


「アマノが家におしかけてきたんだろう……?

 飛んで火に入る夏の虫はどっちだよ」


「誰が虫よ!」

「自覚あるのか」


「今日はこれくらいにしておいてあげるわ!

 また料理の腕を磨いて待っていることね!」


アマノは偉そうに言いながらヨシキの家を出ていった。


「おじゃましました」


小声で言ったつもりだろうが、ちゃんと聞こえていた。

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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