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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
10/31

2-2 鬼はいいパンツ、座敷わらしははいてない

休み時間だ。

普段おしゃべりなイチロウがすぐに話しかけてくる。

と思ったが、まるでネコのように一点をボーッと見ていた。


一つ目妖怪は目が大きい分、

視力もいいと聞いたことがある。


ヨシキには見えていないものが見えているのかもしれない。

そう思って同じ方向を見てみた。


視線の先にはアマノがいる。

机にお尻を乗せて、クラスの女子と話をしているようだ。

キレイな足が印象的だが、

イチロウは違うものを見ているようにも思える。


「どうしたイチロウ、さっきからアマノを見てて」


聞いてみるとイチロウは嬉しそうに顔を近づけてきた。

それから『ミンナニハナイショダヨ』と言いたげに小声で、


「よく見ろよヨシキ。黄色と黒のしましまだぜ」

「……そういうことか」


すぐに察した。黒い制服にそんな色は使われていない。

となるとそれが見えるのは一箇所だけ。

ヨシキの席からも少し見えている。


男子としては嬉しいのだろう。

だがこういうことをされるのは女子としてあまり気持ちのいいものではないはず。

そう思ってヨシキは席から立ってアマノの方へと向かう。


「おい」

とこちらも小声で声をかけた。


「ってなによ、急に近づいてきて」


当然予想していなかった接近に、

アマノは顔をしかめて首を引いた。


まるでこれからいやらしいことでもされるんじゃないかと思ったような、

または自分の復讐に対する予想外の反撃を受けると思ったようなリアクションだ。


それでも構わずヨシキは要件を口にする。


「下着、見えてる」


ちゃんと言ってやらないととは思うが、下着の話だ。

それを男女でするのは恥じらいもある。

それでいて、ヨシキはそれを見られたくないと常日頃思っている。


そういうこともあってヨシキとしては言いづらかった。


対してアマノはそれを聞いて、

真顔に戻って、それからなぜか誇らしげな顔になった。


「ああ、見せてるのよ」


大きな声で恥じらいもまったくなく言った。

それからひらひらと黒いスカートをめくる。

艶を感じる太ももが明るい教室にさらされる。


「はぁ?」

思わず声を上げた。立場がひっくり返った気もする。


普通下着は見られることをイヤがる。

男子ならトランクスやボクサーパンツを見られても平気だと言うが、

ヨシキのようにイヤがる男子だっている。

ましてや女子ならなおさらだろう。

それもキライな相手ならもっとイヤなはず。


にも関わらず、アマノはイヤがるどころか、誇らしげに見せてきた。


ヨシキは信じられず顔をしかめてアマノを見た。


「だって、鬼のパンツは良いパンツなんて言うじゃない」


「童謡かなんかで聞いたことあるな」


「鬼にとっていいパンツをはいているのは、当然。

 オシャレをしてそれを見せるのは当たり前でしょう?」


「そうだな?」


普段だいたいのことは受け入れてうなずくヨシキだが、

今回はそれができずあいまいな返事をした。

理屈は通っている気がする。気がするだけ。


「だからあたしのパンツが見たかったら見ればいいのよ!」


そうってアマノは盛大に自分のスカートを捲って見せた。

イチロウが見ていた黄色と黒のしましまがはっきりと見える。


「「「おおー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」


アマノの行動にクラス中が湧き、悲鳴が交じった。

男子のほとんどは口元をにやけさせ、鼻の下を伸ばしている。

イチロウなど一部男子は手を合わせて仏像でも見ているように拝み始めた。

それでいて一部女子からも嬉しそうな、興味津々の目も向いている。

ミコは関心を寄せているのか腕を組んでうなずいている。


「別にスカートだってなくてもいいのよ。

 この学校のスカートはかわいいからはくけど」


「分かってるなーアマノ」

「スカートなしで上だけ着てるのも見てみたい」

「スカートからチラ見えするのがいいんダルルォ!?」

「いやちゃんとはっきり見えるのがいい」

「それはチラではないのでは?」


「やっぱり制服はかわいくないとねー」

「見えにくいところにもこだわるアマノちゃんかわいいー」

「わたし関心しちゃったなー。ちゃんといいって思う下着はかないと」

「見せても恥ずかしくないなんて強気でかっこいいー」


と男女双方からワイワイと議論や声が上がった。


アマノはそれを優雅な音楽でも聞いているように聞いていた。

誇らしげに、自分が大妖怪たる鬼のひとりであることを喜ぶように。

それから机の上に座って足を組んだ。

黄色と黒のしましまがチラ見えする。


だがヨシキは今も煮え切らないような顔をしてアマノを見ていた。

視線に気がついたアマノは見下ろすような目で見返す。


「なによ、言いたいことがあるなら言えば?」


「うまくは言えないが、そんなに安売りしていいのかって」


「安売りじゃないわよ。

 あたしの価値を知らしめてるの!」


「まあ、本人が納得してるならいいか」


そういうことにしておく。

するとヨシキと同じように煮え切らない顔をしている女子が居た。


「ヒナタ、女子としていいのか?」


「アマノ様がよいと言うのであれば。

 昔はもっと際どい格好をした妖怪も、

 たくさんいらっしゃいましたし」


「例えば?」


「あたいのような妖狐よ」


ヒナタと話をしていたからか、

ムッとした表情のミコが割って入ってきた。


「大妖怪ほど人間の異性を誘惑して、

 悪さを働いたものよ。

 あたいの家系は純血だけど」


付け加えるように言った。

人間の男をたぶらかしても、

家庭は持っていない純潔と純血のアピールだろう。


「だからアマノちゃんのように、

 自分のアイデンティティを誇るのはとーぜん。

 それでいてみんながその価値を知るならなおよし。

 あたいはアマノちゃんのやり方を評価するわ」


「へぇ、あんたも話が分かるじゃない」

「あたいも大妖怪の子孫だからねー」


アマノに理解されたからか、

ミコが豊満な胸を張った。

今度はこちらに男子や女子の目が移ろいでいく。


「それであたい気になることがあるんだけど」


ミコはヒナタに狐の目を向けた。

獲物に目を向けているというよりは、

興味がある、好意があると言いたげな目だ。


「わたくしですか?」


「ええ、ヒナタちゃんはどんなのはいてるのかなぁって」


「いや、直球で聞くなよ。

 ヒナタがどれだけひとがいいからって、

 だってそんなセクハラまがいな質問――」


と口にしていたが、

ヒナタは『よくぞ聞いてくれました』と言わんばかりの笑みを浮かべていた。

そしてヨシキの言葉を食うように口を開く。


「わたくしは、はいておりませんわ」


「「「!??!?!??!?!??!?!?!??!?!?!?!??!?!?」」」


周囲から声にならない声があがった。

まるで『はいていない』という言葉の意味が分からなくなったようだ。

ヨシキも同じ感想を抱いており、疑問を口にすることもできない。


「なんてやつなの!? 信じられないわ!」


一番最初に日本語で声を上げたのはアマノだった。

まるで鬼よりも恐ろしい存在にであったような声。

名称し難い宇宙人でも見たような顔だ。


「それは座敷わらしにとって『はいてない』がおしゃれなのか?」


ヨシキがパッと思いついた疑問を口にした。

ヒナタも恥ずかしがることなく、当たり前のような顔で答える。


「そういうわけではありませんわ。

 これはわたくしの好みですの」


「……はいてないとか、あいつを思い出すわ」


文字通りイヤなヤツの顔を思い出したようにアマノは言った。

ヒナタは嬉しそうにコクコクとうなずく。


「はい。そうですわね」


「そこは共感しないで! 

 ヒナタは嬉しそうでも、あたしとすれば信じられないの!」


それからさらに頭を抱えだした。


(鬼の文化圏において『はいてない』は信じられないことなのかもしれないな。

 あるいはパンツを誇りとするアマノにとって真逆の考えだからか)


ヨシキはふたりの様子を見て、真面目な顔で考えた。

そんなヨシキとアマノの様子を見たからか、

ヒナタは優しく、なだめるような表情で言う。


「ですが、他の方はそういうわけではありません。

 それにはいてないのははしたないというお考えの方が多いです。

 なので今はこうしてしょーとぱんつをはいております」


そうしてスカートを捲ってみせた。

紺の学校指定のショートパンツが見える。


(とはいえ、ヒナタもスカートを捲ることに恥ずかしさはないんだな)


「「「ああ~……」」」


ヨシキがそう感じるのと同時にクラス中の男女から落胆の声が上がった。


(いや、本当になにもはいていなかったらどうするつもりだったんだよ)


ヨシキは渋い顔でクラスメイトたちを眺める。


すると安心したようなため息が聞こえた。

恐ろしい存在が敵ではないことが分かったように、アマノが口を開く。

こころなしか角もしおれているように見える。


「そ、そう……完全にはいてないってわけじゃないなら、いいわ」


「どこかで見られっかと思ったけどざんね~ん」


「ミコ様、お掃除当番のときに、

 覗けると思ってしまいましたか?」


(ミコの発言じゃなかったら問題だな。

 いや、ミコが言ってもドン引きだが)


ふたりの何気ないやりとりを見ていると、

電球がピコンとついた音のような感覚がした。


「そうだ、いいこと思いついたわ……。

 はいていない恐怖、味あわせてあげる」


(アマノ、なんか思いついたな)

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