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りねず祭りに咲く花火  作者: おんぷがねと
8/10

8. 母親の居場所

 僕とこすずは身構える。ナルドは釣り竿を振るとスルスルと短くなり棒状になった。

 僕はマリンをその場に座らせた。


「どうする?」

 

 僕はこすずに聞いた。


「私があいつの顔に砂を掛けるわ、その後なごるはマリンちゃんを抱えて大会本部に走って行って」

「え、それじゃあこすずはあいつと」

「大丈夫、私のことは気にしないで」

「……うん、わかった」


 ナルドは棒を片手で持ち肩に掛けながら僕たちにゆっくり近づいていた。


「何ごちゃごちゃ言ってんだ」


 こすずはナルドに向かって走り出した。


「こっちよ」


 こすずは砂を投げる体制入る、ナルドはこすずの方を見ると身構えた。こすずはそのままナルドの顔に砂を投げた、が、顔を防いでいたため効かなかった。


「やると思ったぜ」


 ナルドはこすずの脇腹を棒で叩いた。


「きゃ」


 こすずは飛ばされて、浜辺に突っ込む様に倒れた。


「こすずー!」


 ナルドは僕に視線を向けて近づいて来る。キツネのお面のせいで相手の表情は読み取れない、たぶんとても悪い顔をしているのだろう。


「何もしないから、そいつを渡せ」

「嫌だ!」

「なごるお兄ちゃん、マリン怖い」


 マリンの声が僕の背中でか細く聞こえる。僕はナルドに飛び掛かった。


「うおー!」


 両手でナルドの腹部を抱える様に体当たりした。分厚い板でも抱えているんじゃないかと思う様な筋肉が僕の腕を払い退けようとする。


「チッ、邪魔だ!」


 空気が僕の頬を掠めると、みぞおちに鋭い痛みが走った。


「ぐっ」


 僕はその場に倒れこみ、ナルドは僕の体に蹴りを入れるとマリンに顔を向けた。


「やめろー!」


 僕はナルドの足にしがみついて彼の動きを止めた。ナルドは僕の背中に棒を叩きつけた、何度も何度も僕の背中に痛みが走る。絶対守らなければという思いがその痛み対する反抗だった。


「放せ!」

「マリン逃げろー!」

 

 僕は叫んだ、マリンは尻もちを付いていてブルブルと動けないでいた。マリンにとって恐怖が支配している世界に僕の声は少しも届かなかった。


「しょーがねーなー」


 ナルドは棒を置いて僕を担ぎ上げると、空へ向けて放り投げた。ふわっと体が宙に浮き、そのあと砂の地面に体が叩き付けられた。


「ぐっ」


 一瞬息が出来なかったことと叩き付けられた衝撃で体が痺れていて動けなかった。


 ナルドがマリンをつかもうと手を伸ばした、そのときナルドの頭に水風船が当たった。ナルドが振り向くとこすずが怒りに満ちた目で見つめていた。


「マリンちゃんに指1本触れさせない!」

「はぁー」


 ナルドは深いため息を吐いた。


「俺が手加減してやっているのがわかんねーのか」

「手加減?」

「俺はなぁ、無駄に殺生はしねーんだ、俺に殺される理由を作るな」


 こすずは足を前に出し動いた。


「おっと、こいつを殺してもいいのかな?」


 ナルドはマリンに棒を突き付けた。こすずは動きを止め睨んだ。


「そうだ、それでいいんだ」


 湿った風が少し吹いて来た、ナルドはマリンを持ち上げた。マリンは泣いていなかった、涙を枯らしてしまったのだろうか。マリンが体を動かすと懐に入っていた風鈴が零れ落ちた。(リン)と音がして砂に埋もれた。ナルドはそれに気づいてその風鈴を摘まんだ。


「風鈴?」


 ナルドは風鈴を揺らして鳴らす。それを耳にしたあと、マリンの襟をつかみ上げてマリンの顔を覗き込んだ。


「そうか、あのときのガキか」


 マリンは苦しそうに言った。


「お、おまえが……パパを」

「あのときは、お前らを逃がしたがな、父親は俺に向かって来たぜ、だが返り討ちにしてやった、その後お前の父親を食糧として捕らえた、が、もう食っちまったがな」


 ナルドは一体何者なんだ? 精神異常者、極悪人、変質者、本人は狩人と言っているが一体。


「ゆ、ゆるさない」

「あ? 何だって?」


 そのとき辺りがザワつくと、小さな石がナルドに向かってたくさん当たり始めた。


「グワッ、何だこれは?」


 手からマリンを落とすと、ナルドは両手で振り払う様にのたうち回っていた。


 良く見えないが、マリンの背中から何か小さい物が飛び出しそれをいくつも飛ばしている様に見えた。しばらくするとナルドは両膝を付きそれから倒れて動かなくなった。


 マリンは膝を付いてナルドに怒気のある目を見せていた。


 僕たちはマリンに近寄ると風が吹いた。ナルドが砂に埋もれている様に見えたが、小さな針がたくさん刺さっている様にも見えた。


 マリンは泣いていた。こすずはマリンを抱き寄せて肩を抱いた。僕には何が起こったのかわからないがマリンとこすずが無事で良かった思った。


 傍らに倒れているナルドを見ると風が吹いた。その風で針の山が消えて行った。するとナルドはキツネの姿に変わり消えた。


 キツネ?


 キツネが人間に化けていたのか? 今になってはなぜそのような現象が起きたのかわからないけど、でも、もうどうでもいい僕たちを脅かす存在は消えたのだから。


「マリンちゃん、ごめんね何も出来なくて」


 こすずは涙ぐんでマリンの背中をなでていた。


「ごめん、僕のせいだ。僕が海に行こうなんて言わなければ……」


 僕は痛いほど唇を噛みしめた。


 マリンは涙を拭き首を振って言った。


「いいの、マリンわかったの、ママが居るところ」

「ママ?」

「うん、りねず神社にいるの」


 マリンは辺りをキョロキョロ見回した。


「マリンの風鈴どこ?」


 僕はナルドの居た近くに落ちている風鈴を拾いマリンに手渡した。


「マリン、これだろ?」

「うん、ありがとうなごるお兄ちゃん」


 マリンは風鈴を振って鳴らす。


「これがないと、ママに会えないの」

「風鈴がないとダメなの?」

「うん、この風鈴の音で1回だけ会える約束をしてたの」

「え? 会える約束? 仕事が終わったら会えるんじゃないの?」

「思い出したの、ママのお仕事」


 そう言うとマリンは立ち上がり、どこかへ走って行った。僕たちもマリンの後を追う。


 それほど早くはなく、追い抜こうとすれば簡単に抜ける速さでマリンは走って行った。浜辺を抜け階段を上がり雑草が刈り取られた道を通り、そしてりねず神社の前に着いた。


 鳥居が立っていた、僕がこすずと待ち合わせした場所が目に入る。マリンは神社を見ていた、幼い後ろ姿がなぜか凛々しく感じた。


「マリンちゃん、ここにママは居るの?」

「ママ」


 マリンはこすずの問いに答えぬまま神社の木の階段を上り中に入って行った。僕たちもマリンを追う様に中に入った。


 風と共に木の香りが吹き抜けていく。僕はマリンが見つめている物を見た。そこには台座の上に石で作られたハリネズミの彫刻が祭られていた。


「ママ、会いに来たよ」


 そう言ってマリンは持っている風鈴を鳴らした。すると台座から人影が現れた。それは髪が長く、青い浴衣を着た女の人の姿をしていた。


「……まりん」


 女の人が言うとマリンはその女の人に抱き付いた。マリンは涙を見せながら何度も母親である女の人の顔を見ては、小さいながら母親を抱きしめていた。


 僕はその不思議な現象を全く理解できずにいた。出来たのは彼女たちの幸せを見守ることだけだった。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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