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りねず祭りに咲く花火  作者: おんぷがねと
2/10

2. 出店で勝負

 こすずはひとつの出店を指さした。


「あれをやろう」


 見ると金魚すくいをさしていた。


「え? 金魚すくいやるの?」

「そう、やりたくない?」

「まあ、やってもいいけど」

「じゃあ行こう」


 こすずは性格が変わった様に僕の手を引っ張り金魚すくいの出店へ向かった。


 金魚すくいは僕が子どものころにやった記憶しかない、出店に着くと顔を隠すように熊のお面をつけたていた。周りを見ると他の店の店員たちも同じように何かのお面をつけて顔を隠していた。変なお祭りだと少し感じた。


 お面から叔父さんの声が聞こえる。


「いらっしゃい」

「1回お願いします。あ、2人で」

「はい600円ね」


 僕は店の叔父さんにお金を渡すと、ポイとすくい用カップを渡してくれた。


「こすずからやっていいよ」

「うん、多く取った方が勝ちね」


 僕たちは屈んで金魚の入っている水槽を見た。青い水槽みたいのに入れられた金魚たちは、スイスイと泳いでいる。こすずは袖を捲り上げ、そーっとポイを水に浸け金魚をすくう、しかしポイが破けて金魚は水槽に落ちた。


「あーあ残念」

「あはは、金魚は救われたな、今度は僕の番だ」


 僕は袖を捲りポイを水に浸けた。少し冷たい水が手に伝わる。ポイの上に金魚を乗せて上げた、すると金魚は暴れてチャポンと水槽に落ちた。


「あ、まだ破けてない」


 僕は再び水に浸ける……が、水に浸けた途端に破けてしまった。


「え! 何で?」

「ふふ、なごるに捕まるの嫌だって、金魚すくいはおあいこね」


 こすずは微笑んでいた。


「残念だったねーまだ挑戦するかい?」


 店の叔父さんがうれしそうに言う。僕は首を横に振り立ち上がった。


「いえ、もう大丈夫です」


 僕たちはその場を去った。僕は他の出店に行きながらこすずに言った。


「こすず、重要なことを聞いてなかったよ」

「何?」

「勝負で買ったほうは何がもらえるの?」


 こすずは立ち止まり、今気づいた様に言った。


「お、おごってもらうのよ」

「おごる? 何を?」

「食べ物」

「食べ物か、いいよ望むところだ」


 僕たちは次に何の勝負をするか出店を探していた。僕の目にヨーヨー釣りが留まった。ヨーヨー釣りを指さして僕は言った。


「あれをやろう」

「ヨーヨー釣りね。いいわ」


 僕たちはヨーヨー釣りに向かった。平たいビニールプールにプカプカと輪ゴムの付いた水ヨーヨー風船が浮かんでいた。狸のお面をつけた店の叔父さんが言った。


「いらっしゃいませ」

「ヨーヨー釣りやりたいんですが、2人で」


 僕はこすずに指をさして言った。


「600円ね」


 僕はお金を払うと、こより紙のついた釣り針をそれぞれもらった。僕たちは屈んで水ヨーヨー風船を眺めていた。色とりどりの水ヨーヨー風船が幾つも浮いている。


「よし、じゃあ僕からね。あの青色のやつを狙うよ」


 僕はこより紙をつまみ釣り針を垂らす、スーッと水面に入れた途端にこより紙が切れた。


「え! 何で?」

「わー残念ね。もっと優しく取らなきゃ」

「いやいや、優しいって」

「それじゃあ私の番ね。そうねあのピンク色をいただくわ」


 こすずは素早く水ヨーヨー風船の輪ゴムに釣り針を引っ掛け釣り上げた。


「やったわ」

「え、早っ!」

「私の勝ちね」


 こすずはうれしそうに、水ヨーヨー風船をポンポンと手のひらで上げたり下げたりした。


「お兄さんまだやるかい?」

「いえ、大丈夫です」


 僕たちは立ち上がりその場を去った。隣でニコニコしながらはしゃぐこすずはとてもうれしそうだった。


「次に勝てばいいのさ」

「私に勝てるかしら」


 僕たちは次に勝負する出店を探した。こすずは僕の肩をポンと叩いて人差し指を向ける。


「あれにしましょう」


 こすずは輪投げをさしていた。たしか輪を商品に引っ掛からずに通せばその商品がもらえるというやつだ。


「いいよ、勝負だ」


 僕たちは輪投げの店に着いた。虎のお面をつけた店の叔父さんが座っている。広い台の上に様々な商品が置いてあった。


「輪投げやりたいんですが、2人で」

「はい、600円ね」


 僕はお金を渡すと輪を6個渡された。僕は後ろにいるこすずにその内の3個手渡す。


「えーと、多く通した方が勝ちでいい?」

「いいわ」


 店の叔父さんが指をさして言った。


「そこの線からはみ出ない様に投げてね」


 僕たちはその線のところに向かった。


「今度は私から投げるね」

「ああどうぞ」


 こすずは獲物を狙うかの様に姿勢を低くして輪を投げた。輪は上空を舞い地面に落ちる。


「惜しいなー」


 僕は一笑した。こすずはムッと口をへの字にして再び投げた。すると綺麗な小石に輪を通らせた。そして最後の輪を投げるが最後はどこにも通らなかった。


「ああ、ひとつだけかー」


 店の叔父さんが輪をどかして、綺麗な小石をこすずに手渡した。


「おめでとう」


 こすずは綺麗な小石をつまみ見上げる様に眺めた。


「やった」

「良かったね」


 僕が言うと、こすずはさっき取った小石を僕にチラつかせる様に見せてきた。


「まあ、頑張ってくださいよ」


 僕は輪を投げる線に立った。


「どれにしようかな」


 色々な物が置いてある。小さいカエルの置物、貝殻、豚の貯金箱、ティーカップ、花瓶、懐中時計などなど。


 僕は狙いを定めて小さいカエルの置物に輪を投げた……が外した。


「がんばってー」


 こすずが隣で応援する。僕は次に豚の貯金箱を狙った。投げた輪は右に逸れて店の叔父さんの足に当たった。


「すみません」


 僕は一礼して謝った。そして最後の輪を投げる。僕が狙ったのは懐中時計だ。


「それっ」


 輪は惜しくも懐中時計に引っ掛かり幕を下ろした。


「あーあ、1個も取れなかった」

「今度も私の勝ちね」


 僕たちは、順番待ちの人が控えていたため、店の叔父さんに一礼してその場を去った。


「次は何にしようかな」

「なごる、次の勝負で最後ね」

「次で最後?」

「そう、私2回も勝ってるから、次で最後」

「わかった、いいよ」


 僕は次に勝負する店を探した。残っているのは射的、的当て、玉入れ、氷彫刻づくり、豆つかみくらいだ。


 僕は考えた。射的は難しそうだし、的当てはコントロールないし、氷彫刻づくりはセンスないし、豆つかみは器用じゃないし……となると玉入れにしよう。


「玉入れをやろう」

「玉入れ? いいわ」


 僕たちは玉入れの出店に行った。鶏のお面をつけた店の叔父さんが椅子に座って新聞を読んでいた。


「すみません、玉入れをやりたいんですが」


 店の叔父さんは新聞を置くと立ち上がり言った。


「1回200円ね。あ、お嬢ちゃんと2人?」

「はい、2人で」

「じゃあ、400円と言いたいところだが、お嬢ちゃんにおまけして300円でいいよ」

「ありがとう、叔父さん」


 こすずはうれしそうに言った。


 僕は店の叔父さんにお金を渡すと、手のひらサイズのボールが5個ほど台の上に流れてきた。


 奥に見える網にボールを投げて入れる訳だが、網は左右に行ったり来たりしていて、その手前には壁が上下に動いていた。


「僕からやるよ」

「どうぞ、なごるくん」


 僕はボールをつかみ狙いを定めて投げた。しかし壁に当たりボールは回収口に落ちて行った。


「ふふ、あー惜しい」

 

 こすずが笑いながら言う。


 僕は再びボールを投げたが奥にある壁に当たり外れた。3投目は天井にぶつかり外れた。4投目は網の端に当たり外れた。そして最後の5投目は店の叔父さんに当たった。


「あ! すみません」


 僕は頭を下げて謝った。


「あー大丈夫大丈夫、気にしないで」


 そう言って店の叔父さんは笑いながらボールを拾い回収口に戻した。


「なごる、ダメよ店員さんに当てちゃ」

「はいはい僕が悪いんです。すみませんね。次こすずがやってもやらなくても僕の負けですから」

「見て起きなさい、本当の玉入れを」


 こすずは姿勢を低くしボールをつかみ構えた。


「えいっ」


 こすずはボールを投げた。すると網にボールが難なく入った。それから次々にボールが入っていく、まるで網の方からボールを取りに行くように。


「え! 全部入った」

「やったー!」


 店の叔父さんは拍手をして言った。


「お嬢ちゃん上手いね。はい、これ景品」


 見ると月を模ったネックレスを渡して来た。


「おりがとう」

「ネックレスかー」

「あげないわよ」

「いらないよ、っていうか僕のおごりだし」


 僕たちの後に順番待ちの人がいたため、一礼してその場を去った。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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