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りねず祭りに咲く花火  作者: おんぷがねと
10/10

10. りねず祭りに咲く花火

「マリン待って!」


 僕たちは数秒遅れてマリンを追いかけた。マリンの姿は見える、だが追いつかない。何かがマリンに追い付くのを妨げている。


 それどころかマリンに離されていく、少しずつ遠ざかっていく姿、僕たちはすでに全力て走っている、それでも追いつかない。その見えない何かに抗いながら走る。


「えっ!?」


 僕は前を走っているマリンの姿に驚いた。ハリネズミの姿をしていた。今更かもしれないが、本当は心のどこかでそんなことはない、人間の女の子だって思っている部分が少しはあったのだ。


 夢中で走り追いかけて行くと神社に来ていた。ここにマリンは入って行ったようだ。


「神社」

「マリンちゃんこの中に」


 僕は冷静になってこすずに聞いた。


「こすず、さっき走っているとき、マリンがハリネズミの姿をしてる様に見えなかった?」

「……見えたわ、マリンちゃんはやっぱりハリネズミなんだよ、どういう訳か人の姿を私たちに見せていたんだよね」

「うん、何でなんだろうな、何か良くわかんないけど、ここに入ったら全てが終わってしまいそうに感じるんだ」


 入りたくない、僕の中でそんな恐怖にも似た感覚が鋭く心に突き刺さる。


「こすず、怖いんだよ僕、ここに入るのが」

「私もよ、きっと悲しいことだと思うの、でも入らなきゃ」


 僕は一呼吸をして頷いた。


「行こう」


 そう言ってこすずに手を差し出した、こすずはそれをつかんだ。僕たちは手を繋ぎ神社の階段を上がり静かに中へと入った。中は暗く何も見えない、少しずつ目が慣れて星の光で何となく中の風景が見えてきた。


「マリン」


 マリンの姿がない、僕たちはそっと奥まで足を進める。台座が目に入る。台座には石で出来たハリネズミが載っていた、マリンの母親のハリネズミだ。


「はっ!」

「マリンちゃん!」


 母親の隣に石で出来た小さなハリネズミの姿があった。ハリネズミたちは寄り添う様にその場に居た。

 

 そのとき、神社の中を光が照らす。そのあと追って(ドーン)と花火の音が鳴った。花火の光で浮かび上がるハリネズミの表情は悲しみではなく幸せそうな笑みを浮かべていた。


「……そんな」

「マリンちゃん」


 こすずは僕の肩に顔を埋めて泣いていた。僕はマリンに何もしてやれなかった。救えなかった。もっといい方法があったに違いない。幸せって何だよ。悲しさで自然と涙を零していた。


 こうして僕たちの不思議な体験は終わった。


 それから、今度お互いに会う約束をして、僕たちは1本の木のある丘の上で待ち合わせをした。


 セミの鳴く暑い日、空は青く風が緑の草を優しく揺らしていた。僕は1本の木が生えている丘へ歩いていた。


 汗を拭きながら歩いているといつの間にかその木の近くまで来ていた。


 こすずに会うのは1週間ぶりだ。


「ふう、もう少しだ」


 舗装された丘を登り始め約束した場所を目指した。近づくと木の傍に誰かが立っているのがわかった。こすずだ。丘の上からこちらに背中を向けて向こう側の風景を見ている様だった。


 木の陰からもうひとり誰かが現れた。こすずより小さな子がこすずの服をグイっと引っ張っている。


 僕が近づいて行くと草の音でこすずは振り返った。青色のワンピースが風になびき、髪を手で軽く押さえた。一瞬驚いた顔をしたあと笑顔を見せる。


 こすずの傍にいる水色のシャツに水色のスカートを着た小さな女の子は僕を少し睨むように見ていた。


「ごめん、待った」

「遅い!」


 こすずの隣にいる女の子が僕を罵倒した。


「こら、ゆずこ」


 こすずはゆずこという子の頭を軽く叩く。


「ごめんなさい、妹のゆずこ」

「ゆずこ?」

「ほら、前に風邪で寝てるって言った」

「ああ、風邪はもう大丈夫? ゆずこ」

「気安くレディーの名前を呼ぶな、名前にちゃんをつけて呼べ」


 こすずはゆずこの顔を覗き込みように睨む。


「……大丈夫だ」


 ソッポを向いて小声を出した。口調は違うがどことなくマリンに似ている。


「そうなんだ、治って良かったね、ゆずこちゃん」


 僕はゆずこの頭をなでた。


「勘違いをするなよ、姉はお前を許したわけじゃないぞ」


 ゆずこは腕を組み僕をあざける。


「え? 許す?」

「こらっゆずこ」


 こすずはゆずこの頭を軽く叩く。


「ごめん、ゆずここういう性格なの、私ひとりで行くって言ったら、絶対ついて行くって聞かなくて」

「私はな、姉のボディーガードだ」

「はあ、随分可愛いボディーガードだね」

「貴様、私をからかうのか?」

「いやいや、そんなことないぞぉ」

「姉に変なことをしてみろ。ただじゃおかん、いいな」

「何もしないって」

「よしっ」

「そこに座りましょう」


 こすずはゆずこを無視して言った。


「うん」

「あ、私も座るぞ」


 木陰にゆずこを挟むようにして座り丘の上から風景を眺めた。眼下には緑に隠れた町が顔を覗かせていた。


「なごる、覚えている? お祭りであったこと」

「うん、覚えているよ、今でも夢だったんじゃないかって思う」

「ええ、そうね」

「あのとき、僕たちはあの親子に対してもっと何かしてやれたんじゃないかって、何か悔しいというか情けないというか」


 サーっと風が草を揺らし僕たちをなでる。


「私たちが出来たことって、マリンちゃんを守ること……でも逆に守られちゃったね」

「マリンは幸せになったのかな?」

「……きっと、きっと幸せよ、マリンちゃんお母さんに寄り添ってニッコリしていたもの」

「うん、うれしそうだったね」


 ふぁーっと隣でゆずこがあくびをした。ゆずこはこすずの妹にしてはあまり似ていない気がする。


「話変わるけど、ゆずこちゃんて叔父さんところの子?」

「わかっちゃった? そうなの、ゆずこと血は繋がってないわ」

「おい、何を言う、私はこすず姉を本当の姉だと思っているぞ」


 こすずはゆずこの頭を優しくなでた。


「ありがと、ゆずこ」

「それより貴様、余計なことを言うな部外者が」

「ごめん」


 ゆずこはプンとまっすぐ前を見つめて腕を組み姿勢を正した。


「フン、わかればいい」

「こすず、今度また、りねず祭りに一緒に行かないか? ゆずこちゃんも連れて」

「ふふっ、いいわまた勝負しましょう」

「うん、やろう」

「おい、貴様でしゃばるな、私とも勝負をしろ」

「わかったわかった、勝負してやるよ」

「何だその口に聞き方は、勝負してくださいだろ」

「勝負してください、ゆずこちゃん」

「最初からそう言え」


 こすずは面白いのだろうか笑っていた。


「って言うか、こすず何とかしてくれ」

「あはは、なごる、我慢して性格は変えられないから」

「残念だったな、私が貴様の腐った根性を叩きなおしてやるから、覚悟しておけ」


 漫画か何かのセリフをそのまま言っている様に聞こえる。


「お、お手柔らかに」


 暑い夏の日に起きた不思議な出来事は、一生忘れることはないだろう。正しい幸せってどんなのかわからないけど、本当の幸せに気づけたら、きっと。






最後までお読みいただきありがとうございます。


ご評価を下さった方、本当にありがとうございます。


夏祭りと子育てを題材にしたお話を書いてみました。


仕事があってすぐに家に帰れずに、子どもの寝顔をみる毎日。普段子どもと遊んでやれない日々。仕事のために帰りたいけど帰れない。


そういった思いを作品に込めました。


そんなことはない、そんな毎日でも幸せだって思う人もいるでしょう。


ただ、子どもは少なくとも5歳くらいまでは親の帰りを待っているんじゃないかなと思う。



※ちなみに作者は子育てをしたことがありません。


ですから子どもを育てる辛さっていうのは作者はわかっていません。


子育てはそんな生易しいものじゃないと思いの人がいるなら偉そうなことを言ってすみません。

 


なぜ店員などは仮面で顔を隠しているのか、なぜナルドがキツネなのか、なぜハリネズミが石になるのかが説明不足になっているというところが反省点です。


文章中に入れる余裕がなかったというのがいいわけです。


実はみんな動物だったとかあるいは儀式的なものだったなど考えれば出てくるかもしれませんが、そこは読者のご想像にお任せします。


書くとき夏の曲の「夏祭り」や「secret base ~君がくれたもの~」などを聴いてイメージを膨らませました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


最後に『りねず祭りに咲く花火』をお読みになって何かを感じ取ってもらえれば幸いです。


おんぷがねと。


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