~穏やかな日常を過ごしたい~
1.実は私、転生者でした
小鳥のさえずりが聞こえる。ゆっくり目を開けると寝る前の激しい頭痛は落ち着いていた。
なんだか長い夢を見ていた気がする。でもとてもリアルな・・・。
「あれが前世ってやつだったのかな。」
たまに前世の記憶をもっている人がいると聞いたことがあったけど、まさか自分もとは思わなかった。
前世の私は日本というところで仕事をしていたようだ。それも中間管理職。上に下にやんや言われ、押し付けられ、疲労感が溜まっていた夜遅く、駅のホームで電車が通り過ぎたところまでしか記憶がない。過労死だろうか。
ぼんやりしていると声がかかる。
「あぁ、やっと起きた。調子はどう?2日間も寝ていたのよ。」
同室者のローズネリアだ。
私アンナは今、ノイスダット帝国のシャルロット姫の侍女をしている。ウェーブのかかった赤茶色のボブヘアーにブラウンの瞳と地味な風貌。姫様の腰まであるブロンドの綺麗な髪が羨ましい。
ローズネリアは私の3 つ年上で一緒に姫様の侍女をしている。2人部屋の同室者で公私ともにお世話になっている。私より少し長めのピンクブラウンの髪を仕事中は常にお団子ヘアーにまとめている。おっとりしているが芯のある女性で私は姉のように慕っている。
「侍女長と姫様にも起きたことを伝えてくるわ。まだゆっくりしてて。」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません。」
「目が覚めて安心したわ。医師にも見てもらいましょう。」
そう言うと颯爽と部屋を出て行ってしまった。
「はぁ~、2日も寝ていたのね。道理で体もこわばってるわけだ。」
少し体を動かすだけでもバキバキ音がしそうだ。久しぶりに起きるからかベッドの縁に座ってみたら少しふらついた。
(皆に迷惑かけちゃったな。早く復帰しなきゃ。)
その後医師に診察され、過労ということで明日も休みになった。
その日の夜、仕事を終えた侍女長が部屋まで来てくださった。
「遅い時間にごめんなさいね。アンナ、調子はどう?しばらく忙しかったからね、医師も過労じゃないかって言っていたそうね。明後日からも体調が悪いなら無理はしないでね。」
そんな申し訳なさそうは表情で話される。
「起きたばかりの時はめまいとかもありましたが今は落ち着きました。明日1日体を動かすことに慣れたらもう復帰はできると思います。ご心配おかけしました。」
「姫様もあなたが目を覚ましたことを聞いて安堵されていたわ。ゆっくり休むようにと。」
「わかりました。ありがとうございます。」
部屋から去っていく侍女長を見送る。
その日の晩、長い間寝ていたからかあまり眠れなかった。
そんな時考えるのは前世の夢。
(前世の私も今の私も仕事は違えど忙しいことに変わりはないわね。でも、この仕事も隣の領地だったローズネリアさんのお父様の紹介だし、姫様のご希望で姫様付きになったのだからがんばらなくちゃ。)
姫様には私が下働きで城内で働いていたころに風魔法で助けたのが始まり。
この国の唯一の姫のため次期女帝となる方だ。そのため帝王学などの勉学はもちろん、乗馬なども習っており、小さなころからお転婆だった。
あの日も木に登ったはいいが、服が枝に引っ掛かり降りれられなくて困っていたところに通りがかった私が助けた。本来いるはずの護衛はおらず、「撒いてきた。」と姫様は話していた。常に誰かが側にいるため息が詰まるようだ。私にはその辛さは想像することしかできないが。
次の日、せっかくの休みなのでゆっくりと城下を歩いてみる。
(こんなにのんびりするのも久しぶりね。)
街中の雑貨屋さんやカフェ、衣料品店や食料品店などが立ち並び、人々もにぎわっている。街の喧騒がなぜか心地よく感じる。
「あれ、アンナ?もう大丈夫なの?今日は休み?」
すれ違い際に声がかかる。振り返ってみると同僚のベラだった。
ローズネリアさんの妹で私とは同い年の幼馴染。いつでも明るく闊達とした彼女が私は好きだ。
「うん、もう大丈夫だよ。今日は休んでいいって言われたから街でもゆっくり見てこようかなって。ベラも休みだったんだね。」
「そう。ほら、息抜きに外に行かなきゃ。気分転換、大事でしょ?」
「そうね。明日からのために私も英気を養ってくるわ。」
「じゃあ、またね。」
ベラは一緒にいた女性と一緒に歩いて行った。
(何か甘いものでも食べようかな。)
再び歩き出してすぐにあったカフェに入りケーキと紅茶を頼む。
ややあっさりめのクリームにイチゴやオレンジ、ブルーベリーがのったスポンジケーキを食べ、温かいストレートティーを飲む。
(いい香り。これは西の方、チュースタン産のラプサーティーかしら。)
外を眺めながらケーキと紅茶を堪能してから外に出る。
その後も雑貨屋さんに行きヘアゴムやアクセサリーを見たり、顔見知りのおばちゃんと喋ったりしていた。
気づいたら空は茜色になりつつあった。もう戻らなければ。十分に気分転換になったのか帰りでも足は軽かった。
さあ、明日からがんばろう!