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「最後の手紙/植村翼」は、小学生男子2人のちょっとだけ不思議な友情の物語だ。
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市立図書館でいつも本を読んでいた主人公・祐介は、ある日図書館で読んだ小説の最後のページに手紙が挟まっているのを発見する。
そこには、子供の文字で、こう書かれてあった。
『こんにちは。上村ツバサと言います。小学5年生です。この本の感想を聞かせてもらえませんか? もしよろしければ、お返事の手紙をこの本に挟んでください。』
面白そうだ、と興味を持って祐介が返事を書いたところから、祐介とツバサの不思議な文通生活が始まる。
『ツバサくんへ 手紙を読みました。祐介と言います。僕も小学5年生です! 本の話ができる友達が出来て嬉しいです。よろしくお願いします!』
その本に返事を書くと、再度同じ本に『次はこれを読んでみてください』と書かれた手紙が挟まれており、祐介はツバサにオススメされるがままに色々な本を読み進めていく。
『ツバサくんへ この本読みました、男の友情がカッコいい、すごく熱いお話でした!』
『祐介くんへ だよね! ぼくもすごく感動しました!』
そんなやりとりをしながら祐介は、ツバサに勧められた本にもれなくハマっていく。
気があう友人を見つけた、と思った祐介がツバサに会ってみたいと思うのはごく自然なことだった。
でも、上村ツバサなんて生徒は祐介の通う小学校にはいない。きっと別の学区の生徒なのだろう。
『ツバサくんへ 一度直接会って、本の話をしてみたいです。いつか、休日にでも会えませんか?』
少しの勇気を振り絞って、そんな手紙を送ってみたこともあったが、
『祐介くんへ ごめんなさい。長い時間図書館に居られる時間がなくて、会うことは出来なさそうです。このまま手紙でやりとりするのではダメでしょうか?』
と返ってきてしまった。
だが祐介は、内心ちょっとホッとしていたりもする。勇気を出して言ってみたものの、実際に会うのは少し怖い感じもあったのだ。
そして。
そんな不思議で穏やかな文通は突然終わりを告げる。
ある日、ツバサからの手紙には、こう書いてあった。
『祐介くんへ ごめんなさい、急な引っ越しで、もう手紙を書くことができなくなってしまいました。最後に、どうしても伝えたいことがあります。一番最初にぼくたちをつなげた本に、その思いを伝えるための手紙を挟みました。よければ、読んでください。』
祐介はあわててその本を探しに向かう。
でも、その本はもう本棚になかった。
カウンターの司書さんのところに走ると、『貸し出し中ね、2週間後に戻ってくるわよ』と言われる。
ハラハラしながら迎えた2週間後。
返却されたその本の一番後ろのページを開いてみるも、もう、手紙は挟まれてはいなかった。
小説の最後は、こんな一言で締めくくられている。
『彼からの最後の手紙には、なんと書いてあったのだろうか?』
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結局なんて書いてあったんだよ、と苛立ちながら、僕は本をベッド脇に投げ出す。
いくら「リドルストーリー」なんてもっともらしい名前のついた手法として確立しているとはいえ、こんなに不完全な物語がよくもまあちゃんと出版されたものだ、と思う。出版を決めた編集者の感性を疑わざるを得まい。
作中のツバサのごとくこの本に手紙を挟んだ自称・植村翼が本当にこの本の作者だというのであれば、是非ともこの結末を聞いてみたいものだ。
まあ、作者自身が本当に答えを持っているとは限らないんだよな、となんだか虚しい気持ちになり、ふうう、と深くため息をついた。
夜9時ごろ、自称植村翼から、メールの返事が届いていた。