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閑話 フェニックス

 過去から現代へと場面は戻る。


 バハムートが気持ちをフェニに打ち明けた翌日。

 フェニは一人、考え事をしながら幻界の大地を歩いていた。


「ふふ……ふふふふ」


 フェニの口から笑みがこぼれる。


「うふふふ、ふふふ……」


 頼られた……頼ってくれた。

 私、久し振りにバハムート様に頼ってもらえた。


 喜びの感情が湧き上がり、笑みという形で外に出てきてしまう。

 女神との戦争から三千年、バハムート様と一緒に私たちも幻界へとやって来た。


 女神との約束通り、あれからずっとバハムート様は幻界で静かな時間を過ごしてきた。

 いつか、女神が地上に呼ぶという約束を果たす日を待ち続けた。


 ずっと、ずっと……だけど。


 私たちには寿命という概念がない。

 それでも意味もなく過ごすには三千年という時間は長すぎた。

 約束の五千年など……今更ながら無茶過ぎた。


 私にとってはバハムート様がいれば、そこが居場所だ。

 地上だろうが、幻界だろうが、物理的な意味合いの場所なんてどうでもいい。

 あの方がいらっしゃるのであればそれでいい……不満はない。


 ただ……不満と言葉にする程ではなくとも、今の状況に物足りなさを感じていないわけではなかった。

 幻界では昔のように、バハムート様が私たちに命令されることはなくなったから……。


 バハムート様のお役に立てず、ただただ流れていく時間。

 召喚契約する気になったのも、もしかすると誰かに力を貸すことで、空いた心の隙間を埋めたい……そういった気持ちがあったのかもしれない。


「ふふ……あはははは」


 ああ……ああっ。


 こんなに心が充実しているのは、気力に満ちているのは女神との戦争以来だろうか。


「ふふふ……と、いけません。あの方がこうしている今も苦しんでいるというのに、いつまでも笑っていては眷属失格ですね」


 気持ちを切り替えるフェニ。

 少しでも早く、あの方の願いを叶えなければ……。

 私の責任は重大だ。

 バハムート様の信頼に全力で応えなければならない。


(しかし、どうしたものでしょうか……)


 正直に言って。

 過去に結んだ女神との約束なんて私にはどうでもいい。


 私にとってあの方の意志はすべてにおいて優先される。

 あの方が白と言えば黒であっても白になる。

 バハムート様が望むなら、どんな手段でもとるつもりだ。


 とはいえ、あの方は地上を破壊してまで侵入するような強行案を今更望まないだろう。

 乱暴な方法を選ぶなら、あの方は自身の力で願いを叶えている。

 それは魔力制御の訓練をずっと続けていたことからもわかる。


 何か、別の方法はないだろうか。

 できるだけ、地上に影響が出ずに穏便に済ませられる。

 まず思いつくのは、弱体化の効果がある装備などをバハムート様に身に着けていただくこと。

 だが、バハムート様のお力は女神をも超えている。

 力を制御できるアイテムなど存在するわけがない。


「う~ん、他に……」


 そもそもあの女神ですら悩んでいた難件である。

 少し考えただけで、良案を思いつけというのは厳しいかもしれない。

 引き受けたはいいが、私は期待に応えることができるのだろうか。

 バハムート様をがっかりさせてしまわないだろうか。


 不安になる。


 それでも……探さなければ、バハムート様に喜んでもらうために。


 私が黙々と思考に耽っていると。


【フェニ~】


「……ん?」


 脳裏に響く、聞き覚えのある少女の声。

 契約者のメイが私に呼びかけてくる。

 人間が召喚契約をすると、契約した幻獣に対して念話を送ることができるようになる。


【もしも~し。フェニ~、ちょっとフェニ~】


「…………」


【フェニさ~ん。聞こえてるっすか~、メイっすよ~、返事して~】


 考えが中断されてしまう。


 もう……煩いですね。


 バハムート様のために、今大事な考え事をしているというのに。

 私の集中力を乱さないで欲しい。


【フェニってばっ! もうっ、どうして反応ないんすかっ! フエエェエェイイイィィィィ! 大丈夫うううううっ!】


 しつこく念話を送ってくるメイ。


「…………はい」


 やむなく、応答することにする。


【よかった、返事してくれたっす……】


「なんですか? まったく……空気を読まずに何度もしつこく念話を送ってきて、貴方は今、戦闘中の緊急事態というわけでもないんでしょう?」


【フ、フェニが……冷たいっす。別れてから、何の音沙汰がないから心配して連絡をしただけなのに……きっとフェニから連絡をくれると思って、ずっと待っていたのに……】


「あ……そ、そうでした」


 少しだけ反省する。

 バハムート様のことで、他のすべてが完全に後回しになっていた。

 普段なら、こんな失敗はしないはずなのに。


「その、メイ……ごめんなさい」


【う、ううん、いいんすよっ……ほら、昨日、凄く神妙な顔で消えていったから、あの後、何かあったんじゃないかと心配になってしまったんす】


 素直な謝罪に少し戸惑っているメイ。


「そうでしたか、不安にさせて申し訳ありません。問題がないわけではありませんが、たぶんメイが心配する様なことはないと思いますので」


【よかったっす】


 安堵するメイの声が聞こえてくる。


【フェニ、もう一つ……この前連れて行く約束をしてたお店の件なんすけど】


「申し訳ありません……ちょっと今は」


【了解、気持ちが変わったなら、何時でも言って欲しいっす。あ、でも……明日から一週間、王都の魔法学園に行かなきゃいけないんすよ……だからその間は】


「魔法学園……ですか? メイは学生じゃないですよね?」


 メイは冒険者だ。

 学校に通っている素振りはなかった。

 生徒の中には学費を稼ぐために冒険者を兼ねている者もおり、学業に支障のでない範囲であれば兼業は禁止されていないそうだが。


【実は私、学園の卒業生なんすけど、私の恩師が召喚魔法の講義をしたいから、ヘルプで来て欲しいと言われてて】


「私は見世物になるのは嫌ですよ」


 ちなみに召喚契約は一人につき一体が限度、それ以上は人の精神が耐えられない。

 ゆえにメイは他の幻獣と召喚契約をしていない。

 一体どうするつもりだろうか?


【わかってるっすよ、実演じゃなく基本は理論説明がメインで、私は普通に学生たちのサポートをするだけっすから……そもそもフェニを召喚したら大騒ぎになるっすよ】


 なるほど、そういうことか。


【師はとても凄い人で学園長なんすけど、召喚魔法学会でも、有名な研究者でもあるんす。まぁ、本人は適性がなくて召喚魔法が使えないんすけど。楽しそうに話す学園長を見て、私も召喚士を目指すことにしたんすよ】


「そうだったのですか……まぁ、どうでもいいんですが」


【ひ、酷いっす】


「ふふふ……冗談ですよ」


 メイと話すことで少しだけ、気分転換できた。

 そこでふと、考える。


 召喚魔法について、私は殆ど知らないことに。

 そもそも、私たちは召喚をされる側であって召喚する側ではない。


 自分で言うのも変な話ではあるが、バハムート様ほどでなくとも、私も四獣と呼ばれる存在。

 それでもこうして召喚魔法を挟むことで活動できている。


「召喚魔法に詳しい学園長と会って話をしてみたいのですが、可能でしょうか?」


【フェニが……学園長と?】


「はい、できたらで構わないのですが……難しいでしょうか?」


【まさか! かの四獣の誘いなら、あの人が断るわけないっすよ! 忙しい人ですけど、たぶん無理矢理でも時間を作るはずっす! 伝えておくっす!】


「感謝します……メイ」


 バハムート様が地上で活動するための方法。


 もしかしたら、何かいいヒントが得られるかもしれない。




 そしてついに、バハムートの願いが叶うことになる。


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