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過去 女神 vs バハムート2

 開戦。


 女神ナーゼの使徒対バハムートの眷属たち。

 空王バハムート対女神ナーゼ。


 開始直後から、空を飛び交う幾千の攻撃魔法。

 辺り一面を埋め尽くす戦乙女(ヴァルキリー)たちが放つ光の弾幕。


 雲が吹き飛び、地が割れ、空が裂け、幾度も空にて点滅する光。

 その一撃一撃が大地を一瞬で荒野に変える凶悪な範囲攻撃。


 しかし……。


「……温い」


 氷獣アスキルが小さく呟くと同時。

 自身を覆う水晶のような氷が、一際強烈に輝きだす。

 絶対零度の凍てつく霧が空間一帯に発生。

 あっという間に光線は熱量を失い、霧散していく。

 戦乙女(ヴァルキリー)たちの攻撃がいとも簡単に無力化される。


 動揺するが、そこは女神直属の兵士たち。

 すぐに思考を切り替える。

 遠距離砲は効果が薄いと判断して直接攻撃に移行する。

 雪崩れ込むように、空から一斉に襲撃してくる戦乙女(ヴァルキリー)たち。


「はああああああっ!」


 その身に宿る膨大な魔力を剣に乗せ、思いっきり振り降ろされる戦乙女の断罪の剣。


「俺に任せな」


 それを見た一つ目の巨人、地獣タイタニアスが仲間を庇うように一歩前に出る。

 数えきれない程の銀刃が迫り、巨人が右腕を掲げてソレを受け止める。


 飛び散る火花。

 接触時、剣から散開した行き場を無くしたエネルギーが光の雨となり空から降り注ぎ、大地を破壊する。

 幾度も鳴り響く轟音。

 衝突の余波だけでこの破壊力。


 しかし、まともに受けた巨人の方はといえば。


「そんな、ぜ、全然刃が通らな……」


 数多の剣が右腕を切り裂くかに思えたが……。

 数センチ程度めり込んだところで……あっさりと刃は止まった。


「おいおいそんなパワーじゃ、この身体はとても切れねえぜ」


 皮膚は薄皮一枚切れただけ。

 信じられないほど硬い身体を持つ巨人タイタニアス。


「はははは、隙だらけだぜ……おらああああああっ!」


「きゃあああああっ」


 足を掴まれ、身動きが取れずに、大地に軽々と投げつけられる戦乙女(ヴァルキリー)


「馬、馬鹿な、信じられん! 神でもない者の眷属が、どうしてここまでの強さを持っているのだっ!」


 みるみるうちに仲間の倒れる様子を見て、戦乙女(ヴァルキリー)たちに動揺が広がっていく。


「り、理解できん! 何故だっ、何故貴様らはこれほどの力があってバハムートに、どうして女神様に逆らうっ! バハムートはともかく、お前たちがそれに付き従う絶対の理由はないはずだっ! 今、自分たちがどれほどの大罪を犯しているか、理解していないのかっ!」


「あははは、大罪って……また、大げさなことを言うなぁ」


「なかなか笑わせてくれますね」


 理解できないといった様子で叫ぶ戦乙女たちに。

 風獣シルフィードと炎獣フェニックスが淡々と答える。


「別に難しいことじゃないよ。僕らにとっての神はバハムート様なんだから……そりゃ女神なんて関係ないさ」


「そういうことです。そもそも私たちを創り出したのは女神ではなくバハムート様です。あの方が女神と戦うと決断したのなら、私たちもそれに従うまでのこと」


「こ……のっ!」


 四獣たちの攻撃を受け。

 一人二人と、撃墜していく戦乙女(ヴァルキリー)たち。




「……凄いね。君の眷属」


 戦乙女と四獣の争いを見て呟く女神ナーゼ。


「まさか、本当にたった四人で戦乙女たちを抑え込むなんてね、大したものだよ。力を合わせれば、他の王が相手でもいい勝負ができるかもしれないよ」


 女神ナーゼの心からの賞賛の声。


「押されてるね、今のままだと厳しそうな感じ、よし、あの二人も呼ぼうか」


「む? あの二人?」


「ふふふ、君にとっての四人と同じように、私にとっての一騎当千の配下をね」


 女神が頭上に手をかざし、召喚準備に入る。


「さぁ来なさい……死天使(タナス)! 生天使(ラフス)! 『ガアアアアアアアアアアアアア』……え、ちょっ!」


 バハムートの魔力砲が、女神が召喚しようとしていた場所。

 二人の天使の出現直前に、揺らいでいた空間へと思いっきり叩きつけられる。

 激しく空間が乱れ、天使召喚に失敗する女神。


「空間を揺さぶって転移座標をずらした。別空間に飛ばしたが、どこに行ったかは知らん」


「め、滅茶苦茶するなぁ……」


「ご丁寧に最後まで待つ理由もないだろう……不利なのはこっちなんだ」


「ま、まぁ……そうなんだけどさぁ」


 なんともいえない顔の女神。

 正々堂々など知ったことかと、バハムートが呟く。


「うわ……本当にどこにも反応ないや、下手すれば時間軸までずれちゃったかな……あの二人なら次元の狭間でも、大丈夫だとは思うけど」


 溜息を吐き、バハムートを一瞥する女神。


「仕方ない……でも、ちょっと妨害に成功したくらいで、最終結果は何も変わらないよ」


「がああああああああああああっ!」


 主同士の戦いが本格的に始まる。

 女神へと、バハムートの放った全力のブレスが光速さで迫る。


 両者の配下の戦いでは四獣たちが押していたかもしれない。

 しかし、それでも……女神の余裕は消えることはない。


「危ないなぁ……そんなものが地上に衝突したら、世界地図がガラリと変わっちゃうよ」


 女神の存在はその差を覆して余りあるほど。

 女神が正面に手を突き出すと同時。

 宙に展開される直径数キロメートルにも及ぶ極大の魔法陣。

 女神によるエネルギー減衰魔法の行使。


 ブレスは女神に着弾するが、千分の一程度まで威力減衰した攻撃ではその身体に傷一つ与えられない。


「全然足りないね……ま、ここまで届くだけでも十分凄いんだけどさ」


「…………くっ」


「君たちの敗因は彼らの王である君の力不足……私に挑むのは早過ぎた」


 直後、空間転移によりバハムートの背後に現れた女神。


「ほいっと……」


「ぐっ!」


 その白い細腕で、巨大なバハムートの尻尾をあっさりと引きちぎる。

 千切った尻尾を乱雑に投げ捨てる女神。

 ズウウウン、と巨大な衝撃音が辺り一帯に響く。


「ぐ、がああああっ!」


 痛みで悲鳴をあげるバハムート。


「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」


「暴食によるエネルギー吸収か……この戦場には馬鹿みたいに魔力なんかが飛び散っている、そりゃ食べるものには事欠かないだろうけど」


 周囲の魔力を一気に取り込み。

 バハムートの千切れた尻尾が再生していく。


「でも……そんな面倒な力に、ご丁寧に付き合うつもりはないよ」


「これ、は……」


 巨大な光輪が突如出現し、バハムートの巨体を締め付ける。

 せっかく再生しかけていた尻尾が、半端な位置で停止してしまう。


「私特製の封印術だよ。君の暴食と原理的には同じものさ。輪が周囲のエネルギーを取り込む」


「…………っ」


「輪に拘束されものは身体を蝕む酷い激痛が襲う、出力調整のリミットも外してある、君相手では手加減もできないからね、下手すれば存在まるごと消滅しかねない危険な代物、できればここまではしたくなかった」


「ぐ、おおおおおおおおっ!」


 当然、輪から逃れようと足掻くバハムートだが……。


「強引に破壊するつもり? ……言っておくけど、いくら君でもすぐどうにかできるような優しいものじゃないよソレ、当然簡単に解析できるような術式じゃあない」


「……お、おのれ」


「これで君は暴食でエネルギーを取り込むことはできなくなった……頼りの切り札を封じられた。ここまでにしよう、お願いだ、引いてくれムート」


 女神が諭すように、バハムートに言う。


「バ、バハムート様あああっ!」


「主が心配なのはわかるけど、立場を弁えるべきだね」


 バハムートの危機に飛び出した炎獣フェニックス。

 進路を妨害するように、女神とバハムートを中心に出現したハリケーン。


「っ、ぐっ!」


 暴風に巻き込まれ、飛散していくフェニックスの炎の身体。

 欠けた部分を補うように、燃え上がる炎だったが。


「自己再生か……だけど、再生には代償が必要のはず。無限ではない」


「あ、あああああっ!」


 それでも主の危機をどうにかするために。

 竜巻の中心部に近づこうとするフェニックス。


「足掻くね……私相手にも臆せず、ムートのためにここまで。彼は君たちに本当に好かれているんだね」


 確実に身体を削られていくフェニックス。

 痛みに耐える彼女に女神が言う。


「あ、あああああああっ!」


「引いて欲しいな。別に私は君たちを殺したいわけじゃないんだよ」


 散っていくフェニックスの炎の身体。

 炎の勢いがみるみるうちに弱くなっていく。


「バ、バハムート、様……」


 削られ続ければ、身体が消滅しかねない。

 それでもフェニックスは主のために動く。


「無駄だよ、諦めなさい。そもそも私が相手ではわずかばかりの時間稼ぎにしかならない」


 女神がバハムートから目を離し、フェニックスに意識を割いていたのは、わずかな時間。

 ほんの数秒の出来事だった。


 だが……。


「無駄にはさせんよ……フェニが稼いだ時間はな」


 その時間が勝敗を分けることになる。

 漆黒の腕が伸び、フェニックスを優しく包み込む。

 直後、竜巻が霧散する。


「そ、そんな……馬鹿なっ!」


「バ、バハムート様あああああああっ!」


 主の無事に歓喜の声をあげるフェニックス。

 元の状態へと完全に戻っているバハムート。

 苦しめていた光の輪も消滅していた。


「フェニ……よくやった。女神の意識が我から離れた瞬間に、一気にエネルギーを取り込むことに成功した。おかげで妨害されずにな」


「輪を、食べた? ま、まさか……女神である私のエネルギーまで暴食で吸収できるというの? ば、馬鹿な、ムートは暴食を私以上にずっと使いこなして……」


「我はな、真っ向勝負で貴方に勝てないことなどわかっていた。勝つには貴方の力を取り込む……それしかないとな。我は最初から己惚れてなどいない」


 動揺する女神にバハムートが迫る。


「己惚れていたのは貴方の方だ……女神ナーゼっ!」


「…………くっ」


 バハムートの威圧に、後ろにたじろく女神。


「さて、確認といこうか。先ほどから偉そうに話してくれたが……次も防げるか?」


「っ!」



【ギガフレア】


 バハムートの口に生成された超高密度なエネルギーの塊。

 女神のエネルギーを取り込み、数段パワーアップしたバハムートから、猛烈な勢いで射出される破滅の奔流。


 女神は減衰魔法を展開するが……。 


「そんな、レ……レジストされっ!」


「同じ手は通じん」


 女神のエネルギーを吸収し、余力の生まれたバハムートは減衰魔法をレジストする。

 女神から余裕が消え、その美しい顔が歪んでいく。

 流れは完全にバハムートの方に傾きつつあった。



 それから、両者の激しい戦いは三日に渡って続いた。


 衝突の余波で地殻変動が生じ山脈が噴火。

 マグマの噴流、至るところで発生する大津波、天まで届くような強烈な竜巻。

 世界の終焉の如き光景。

 もしこれ以上戦闘が続いたならば、確実に世界はそうなっていたことだろう。


 そして……長かった戦いの決着が着いた。





「……残念だ、女神ナーゼ」


「うぅ……あ」


 最後に立っていたのはバハムート。


 結果論ではあるが……。

 女神がバハムートに勝つ方法は、力量の勝る最初のうちに、エネルギーを吸収させる暇も与えずに完膚なきまでに全力で叩く。

 これしかなかった。


 長期戦に持ち込み、機を逃した時点で女神に勝機は残されていなかった。


「お、おぉお……」


 プスプスと煙をあげ地面に這いつくばる女神ナーゼ。

 穢れ一つなかったドレスはボロボロに破け、現在は半裸の状態。

 身体は泥に塗れ、女神の威厳など微塵もない。

 艶のあるサイドテールの美しい黒髪は泥と汗にまみれて、酷いことになっている。


「なんだろうな、この気持ちは……勝ったのに嬉しくもなんともない、こんなに虚しい勝利は初めてだ」


「う、うぅう……」


 吹きすさぶ風の中。

 空を見上げながらバハムートが呟く。


 だが、勝利の余韻に浸るといった様子はなく、浮かない顔だ。



「……ふぅ」



 大きくため息を吐くバハムート。



「我……こんな形で、親を超えるなどと思ってもみなかったな」


「ぬがあああああああああああああっ、腹立つうううっ!」


 地面に転がり、子供のように手足をジタバタする女神。


「貴方の情けない姿は見たくなかった。他の者はともかく、親であるあなたにだけは、我の手の届かない高い場所にいて欲しいと、心からそう思っていたのに……残念だ」


「うぅ、うううううううう」


 手をわなわなと震わせる女神、そして……。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!」


「「泣いたっ!」」


 まさかの敗北に、最後には泣き出してしまう女神。


「うわ……メ、メンタルかなり弱かったんですね、この駄女神。ちょっと前まであんなに偉そうにしていたのに」


「言ってやるな……神である彼女にとってはきっと初めての敗北だろう……無理もないさ」


 戦争が終わり、バハムートの隣に来たフェニックス。

 諭すようにフェニックスにバハムートは告げる。


「敗北を知ることが成長への一歩目だ……そうして誰もが強くなる。一度折れた骨がくっつく時、更に丈夫になるようにな。すべてはここからだ。ここからの彼女の頑張り次第だ」


「そうですね」


 女神を一瞥するバハムート。


「我……女神を信じてる」


「ちっ、ちくしょおおおおおおおっ!」


 完全に上から目線のバハムートの台詞に、吠える女神。


 女神の力にも限界がある。

 それがはっきりと実証された瞬間であった。




「しかし、これからどうしたものか」


「バハムート様?」


「我が勝利したところで、結局根本的な問題が解決していないのだ」


「そう、そうだよっ! そうなんだよっ!」


 むくりと、泣き喚いていた女神が起きた。


「お願いだよっ! お母さんの言うことを聞いてよ! 私は意地悪で言っているわけじゃない、本当に君が嫌いになったわけじゃないんだよっ!」


 必死に訴える女神。


「このまま君がこの世界にいれば暴食で世界中を飲み込んでしまいかねないっ! 君だって、この世界に消えて欲しいわけじゃないんでしょ!」


「それは、そうだが……」


「もちろん、ずっと幻界に……ってわけじゃないよ。私も君が地上で暮らせる方法を考えるっ!」


「可能なのか? 期待できそうなアイデアはあるのか?」


「じ、時間が貰えればきっと……今はまだちょっとなくて、一年とかではさすがに無理だけど、三年……いや、五……せん(小声)年以内にはきっとなんとかするから、その間我慢して欲しいんだっ!」


「今……小さい声でとんでもない単位を呟いたが、キチンと聴こえているからな」


 少し自信無さそうに言う女神。


「それに、私の創り出した精神世界である、幻界なら君の暴食も止められる」


「ほう……」


「……と、思う、たぶん」


「き、希望的観測ばかりだな」


 大きくため息を吐くバハムート。


「だって、今の君……私より強いんだよっ! 何が起きるか、絶対の保障なんてできるわけないよっ!」


 やけくそ気味に叫ぶ女神。


 女神に強引な手段を取られたから全力で抵抗したが、少しやり過ぎた感も感じているバハムート。

 彼女を困らせたいわけではない。

 どちらも笑える、きちんと妥協できる手段があるというのなら……その方がいい。


 実際問題、女神が最初から殺す方向で動いてきていたら、手加減さえしなければ、自分はここに立っていない。

 バハムート自身、彼女がそこまではしないだろうという、彼女の甘さを計算に含めて戦った。

 少しだけ後ろめたい面もある。


「う~む」


 悩むバハムート。


「お願いしますっ! お願いしますっ! 本当にっ」


 懇願し続ける女神。


「ど……土下座でもなんでもするからあああっ!」


「ああ、もう……わかった。だから土下座はやめてくれ」


 女神のあまりの必死さに。

 最終的に、女神に対しバハムートが折れる形に。


「五千年だ。ただし、それ以上経つようなら知らんぞ」


「あっ、ありがとおおおおっ!」

 

 こうして地上で活動する肉体を捨て、彼らは幻界で暮らすことになったのだ。




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