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過去 女神 vs バハムート1

 これは遠い過去の出来事、一万年以上昔の話。


 女神ナーゼは世界(ガルドーザ)を創り出した。

 大地を、海を、空を……そして。


「君たち三人には、世界を創生する私の補助をしてもらう……いいね?」


「はっ!」「うむ」「畏まりました」


 それらの領域を管轄する神獣たちを。

 地王フェンリル、海王リヴァイアサン、そして……空王バハムートである。


 女神と三体の神獣により、世界は成長を遂げていく。

 生物は環境の中で進化していき、年月を経て、獣、植物、魚類、人間と多種多様な生物が誕生していく。

 実りある大地、生命の宝庫の海へと、世界は繁栄の時を重ねていった。

 文明は発展し、やがて人同士の集落ができる。

 暮らしは豊になっていく。


 だが……女神の力も万能ではない。


 創造した世界の器の大きさは決まっている。

 コップに入れられる水の量が決まっているように、すべての存在を永久的に受け入れられるわけではない。


 世界創造から七千年以上の時が流れ……そして。



「ムート、ごめん……君には私が創り出した別の世界(幻界)に行ってもらいたい」


 強風が吹きすさぶ中、対峙する二つの存在。


 空に浮かぶ、全長一キロメートルを超える圧倒的な巨体の黒竜。

 巨竜の眼前に堂々と立つのは、肩の露出した白いワンピースを着た少女。


 見ているだけで吸い込まれそうな漆黒の髪をサイドテールにしており、年齢は大人と子供の中間といったところ、 可愛さと美しさを奇跡的なバランスで同居させた少女。


 無論、彼女は可憐なだけの存在ではない。

 彼女こそがバハムートを創造した女神ナーゼである。


 二人の間に広がる緊迫した空気。


「……お断わりだ」


「そう答えると思ってたよ君は……残念だ」


 目を伏せる女神ナーゼ。

 女神の黒髪がさらさらと風になびく。


「残念なのは我の方だ、女神ナーゼ。あまりに身勝手だとは思わないか? 我を創り、世界の為に働かせるだけは働かせておいて、世界が成長軌道に乗り、用済みになったから別の場所に行けと言うのだろう? 貴方は」


「……ごめん」


 素直にバハムートに謝る女神ナーゼ。


「正直言って、これは私にとって完全に計算外のことだったんだ」


「……」


「私が君に与えた仕事は秩序を保つために世界の歪みを取り除くことだ。君の持つ力『暴食』はあらゆるものを喰らって自身の力とすることができ、世界を乱す歪のエネルギーを君は七千年に渡って喰らい続けた。結果、君の強さは世界が許容できるエネルギーを完全に超えてしまった。このまま君がこの世界に存在し続ければ……」


 向かい合う女神ナーゼとバハムート。


「女神よ、二つほど……聞きたいことがある」


「なに?」


「これまで我が喰らってきた歪みのエネルギーだが、我がいなくなれば消えることなく、世界に残り続けるだろう。どうするつもりだ?」


「そうだね。きっと結果、歪の影響を受けた世界に害を為す存在が生まれるだろうね。でも、生物はここまで成長した。今の彼らなら力を合わせて自分たちの力できっと対処できるはずさ。巣立ちの時さ、いつまでも私たちが全部助けてあげるわけにもいかないからね。いい機会だと思うことにするよ」


「そうか、もう一つ……リアとリルに、このことは?」


「伝えていない。もしもの時、私と君が戦う姿を……君の兄妹のようなあの二人には見せたくなかったから」



 目を閉じ、ゆっくりと答える女神。


「ねぇ、頼むよムート、引いてくれないかな?」


「…………」


「創造した私自身、ここまで君が強くなるとは思ってもみなかった。でもね、君を創り出したのは私なんだよ」


「だから……?」


「君は私には勝てない……子は親に勝てないんだ、絶対に。これが最後のお願いだ。言うことを聞いて、我が子を傷つけることはしたくないんだ」


「…………」


 十秒、二十秒……二人の間に沈黙の時間が流れる。


「断る……やはり気に入らない。何故我だけが貧乏くじを引かねばならない。後から来た生物たちのために場所を譲らねばならない? 我は我なりにこの世界に愛着を持っている。創造主である貴方と戦うのは嫌だが……来るなら全力で抵抗させてもらうぞっ!」


「……わかったよ」


 拒否の意思を示すバハムート。

 その返答を聞き、目を瞑る女神ナーゼ。


 話し合いは決裂となる。


「本当に残念だよ……仕方ない。遅れてきた、君の反抗期だとでも思うことにするよ」


 女神ナーゼの周囲の空間が揺らぐ。

 自身の使徒である戦乙女(ヴァルキリー)たちを呼び出したナーゼ。


 頭上に光輪を浮かべ、白銀の鎧を装備し、背中に三対六翼の穢れなき純白の翼を生やした女たち。

 各々が街一つを簡単に滅ぼせる絶大な強さを持つ戦乙女(ヴァルキリー)

 それが数百人……だが、バハムートに動揺などは一切ない。


「ふん……来いっ! お前たちっ!」


 女神に対抗するようにバハムートが召喚する四体の幻獣。

 バハムートが最初に創り出した眷属の幻獣。


 後に人間たちに四獣と呼ばれる火、風、土、氷の各属性で最強の幻獣たち。


 轟轟と燃え盛る不死鳥……炎獣フェニックス。

 荒れ狂う風を自由自在に操り、衣服のように身体に纏う少女、背中には半透明の羽も生えている……風獣シルフィード。

 渦巻いた蛇、その細長い身体を守るように、自身の体の何十倍もある分厚い氷塊で覆っている……氷獣アスキル。

 山と見間違うほどのサイズの一つ目の巨人……地獣タイタニアス。



「バハムート様……私たちは」


 代表して、炎獣フェニックスがバハムートに尋ねる。


「意見が割れてな。女神ナーゼと戦うことになってしまった」


「め、女神と……」


「急な話で済まぬが……お前たちは戦乙女(ヴァルキリー)たちの相手をしてくれ。我の邪魔を絶対にさせないように」


「「「「……はっ!」」」」


 まさかの女神との戦闘。

 一瞬だけ彼らは戸惑うも……主の命令にすぐに意識を切り替える。


「なるほど、彼らが噂に聞く君の四体の幻獣か……でも、この数の戦乙女(ヴァルキリー)たちを抑えきれる? もっと他の幻獣をたくさん召喚した方がいいのでは?」


「必要ない」


「「「「「っ!」」」」」


 女神の背後の戦乙女たちが、バハムートの言葉に対し怒りを見せる。


「悪戯に犠牲を増やしたくもないしな」


 この四人以外では、まだ戦乙女(ヴァルキリー)の相手は務まらないだろうとバハムートは判断する。


「それに……だ」


「それに?」


「舐めるな。我の自慢の眷属たちだぞ。戦乙女(ヴァルキリー)など、こいつらからすれば背中に羽の生えただけの女だ……お前たち、やれるな?」


 王の激励を受け、ぶるりと肩を震わす四獣たち。


「バ、バハムート様……」

「お、王おおおおっ!」

「も、勿論でございますっ!」

「……しゃおらあああっ!」


 信頼に全力で応えようと、気力みなぎる四獣。

 嬉しそうに応える眷属たち。


「言うね……いつの間にか勘違いして、君と一緒に高く伸びてしまった鼻を思いっきりへし折ってあげるよ」


「ほざけ…………行くぞ、お前たちっ!」


「「「「はっ!」」」」


 バハムートが眷属の幻獣たちに叫ぶ。


 後に終焉戦争と呼ばれる。


 両者の戦いの火蓋が切って落とされた。





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