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協力者を得よう

 三百年振りの挑戦が失敗に終わった我は考え事に耽っていた。


 結局振出しへ、退屈に逆戻りである。


 これから、どうするべきか。

 また何百年も魔力制御の訓練をするのか?

 このペースだと、成功するまで、どれだけかかるかわからない。


(まだ……気の遠くなる作業を根気強く続けられるのか?)


 ああ、またイライラしてくる。気分転換をしたい。

 しかし、また盗聴というのもな。

 それに毎回叫ぶのも、ちょっと飽きてきた。


「幻獣たちに一発芸をやらせてみるか」


「突然何をおっしゃっているのですか……幻王様」


「フ、フェニ!」


 背後から声が聞こえてきて驚く我。

 現れたのは赤髪の大人の女性。

 今は人型の姿をとっているが、彼女の正体は我の眷属で幻獣フェニックスである。


「い、いつ戻ってきたのだ?」


「つい、先ほどです。幻王様にお尋ねしたいことがありまして……」


「なんだ……?」


「単刀直入に聞きます。先ほど地上におられませんでしたか?」


「……む?」


(な、何故バレた?)


 フェニから飛び出した発言に、思わず反応しそうになるが。


 こ、ここは一先ず……。


「ふむ……気のせいではないか?」


「気のせい……ですか?」


「我が幻界から出ることができないのは、フェニもよく知っているだろう? そんなことをしたら女神との約束に背くことになる」


 約束はあっても、地上のことを楽しそうに話す、お前たちの様子を見て我はもう我慢できなくなった。

 そう素直に言うのも格好悪い気がして、強引に誤魔化す。


 追求せずに引き下がってくれればよいのだが。


「げ、幻王様……私は」


「なんだ」


 我の返答に俯くフェニ。


「私は……悲しいです」


「なに?」


「私が仕えている王の、最も敬愛するお方の気配を間違えたと……そう、おっしゃるのですか? 私の忠誠が、思いがその程度だと、悲しいことをおっしゃるのですか? ……うう」


 大げさに、目元の涙を拭うような仕草を見せるフェニ。


「…………い、いや」


「まぁ、それはさておき、私が地上で身に着けているブレスレットなのですが、実は幻王様の鱗で出来ているんです。幻王様に近づくと震える特別仕様です」


「……」


 なんだそれ……迷惑極まりないのだが。

 泣き顔からころりと表情を変え、とんでもない発言をするフェニ。

 困ったことに言い逃れはできなさそうだ。


 こうなっては致し方ない。


「……ああ! 思い出したぞ! あの時のことを」


「それはよかったです。では、お聞かせ願えますか?」


「うむ。あれはそう……今から五分前のことだ」


「……」


 おじいちゃんですか?


 ……と、言いたげなフェニの目だが気にしたら負けだ。

 フェニに、先ほど幻界と地上を接続しようとしたことを伝える。


「何故、今になって、そのような真似をなさったのですか?」


「……そ、それは」


 フェニからすれば当然の問いである。

 しかし、どう返答すればよいのか困るところだ。

 我が判断に迷っているところに。


「やはり……幻王様には、大きな悩みがあるのではないですか?」


「なに?」


 悩んでいる我の心に、踏み込んでくるフェニ。


「それもお一人でずっと抱えているような……私たちには言えないような悩みが」


 我、そんなに態度に出ていただろうか?


「な、何故……そう思うのだ?」


「いえ……そ、その……」


 言いづらそうなフェニだったが、我は続きを促す。


「ええと、最近の幻王様の言動が、私なりに少し気にかかっていたと申しますか。もごもごと口を動かして独り言を呟いていたり、突然叫び出したり、世界幻樹の周りを三日間、意味なくぐるぐる回り続けていたり」


 なんてことだ、我結構見られていた。


「幻王様……貴方様は我ら幻獣の王なのです」


「フェニ、何を突然当たり前のことを……一体どうした?」


「そうです……至極当然のことなのですよ」


 真面目なトーンに切り替わるフェニ。

 彼女は膝をつき、我を見上げる姿勢を取る。


「今でこそ我々幻獣は召喚契約を結び、人間と協力関係を結ぶこともございます。ですが、我々が心の底から忠義を尽くすのは貴方様ただお一人。幻王様の手足となり働くのが我ら……それを忘れないでください」


「……」


「お願いです。あまりお一人で抱え込まないでください。どんな些細なことでも構いません。どうか……私たちを頼ってください、貴方様の願いを叶えるためなら、この身など決して惜しくはありません。苦しんでいる幻王様を見ているだけなんて、辛いです」


 フェニはとても真剣な顔を浮かべている。


「…………」


 我は決断する。

 王という立場に任せて、無理やりに誤魔化すこともできるが。


「フェニ……じ、実はな」


「はい」


「わ、我の悩みは」


 彼女が本気で心配しているのが、我の心に伝わってきた。

 ならば、それに応えるべきだろう。

 格好悪くとも、真摯に彼女と向き合おうと思った。


 長き時に渡って蓄積されてきた思いをフェニに吐露することにした。


「我の悩みは、暇……なのだ」


「はい、暇なのですね、幻王様は…………ん、暇?」


 予想外の言葉だったのか、キョトンとした顔を浮かべるフェニ。

 だがここまできたら今更なので、我は言葉を続けることにする。


「も、申し訳ありません、私の聞き間違いでしたでしょうか、今、暇と」


「いや、合っている……フェニの聞き間違いではない。幻界で生きるのは暇過ぎるのだ。我、舐めていた、この世界……本当にやることがないのだ。ゆえに地上に遊びに行きたかった」


「え……と」


 正直に己の思いをフェニに打ち明ける。


「女神との戦争の結果、我は幻界に追いやられることになった。だが、あれから三千年以上の時が経過し、我以外の幻獣たちは再び外界と接触を持つようになっている。彼らが楽しそうに地上のことを話す度、我はそれを微笑ましく思うと同時に、羨ましく思っていた。我がっ! 我だけがこの退屈な世界に取り残されているのだ。もし我が地上に出向けば地上が崩壊しかねないことは十分に理解している。だから、これは我が儘なのかもしれん、しかし、もう幻界にいるのは限界なのだ。これは洒落ではないぞ。心が奥底から痛烈な悲鳴をあげているのだ。今の我は愛すべき子供たちといってもいい、お前たちに嫉妬までしている、何故お前たちばかりが自由で、我ばかりが耐えなければならない、と……王である身でありながら、なんと情けないことかっ! 自分が嫌になるっ!」


「げ、幻王様……?」


「それでもっ、それでもだ! 我は耐えようとした、ここ三千年、我は我なりにこの世界で楽しめることを見つけようとしたのだぞ! だが……無理だった。やることがない、最早幻界にある雲や木の数は数え終わった。雲が七十五万六千五百九十六、木が三億五千二百二万四千三百五十九だ。その形状も、他の地形も完璧に把握している。目を瞑ってもこの世界のどこにでも移動できる。これ以上この世界で何をすればいいと言うのだっ! 刺激が無さすぎるっ!」


 ここまで溜めに溜めていた鬱屈した思いが一気に外へと出てくる。


「…………」


「はぁ、ふぅ……っ」


 怒涛の勢いで溢れ出た、我の思い。

 それを聞いたフェニは呆然としていた。



「心配するな……我はまだまだ正常だ」


「せ、正常じゃないですっ! 完全に鬱病の症状が出ていますよっ!」 


 しまったな……少々、取り乱したか。

 最初はポカンとしていたフェニだったが。

 とにかく我が本気なことだけは伝わったらしい。


「幻王様の状態を、こうして言われるまで気づくことができなかった未熟な私をお許しください。独り言然り、幻王様はサインをしっかりと出していたのに……本当に、も、申し訳ありません」


「いや……少し弱音を吐いてしまっただけだ、我こそすまぬ」


「あ、謝らないでください! ですが……お気持ちはしっかりと理解しました。何故、一発芸などと我らに命じようとしたのか、その理由も」


「そ、そうか」


「ですが……幻王様のお立場で考えれば、そのお気持ちは当然です。というか、本当によくこれまで耐えてこられたと思います。大体、約束にしても元はあの馬鹿女神が一方的な感じで、それを義理堅い幻王様は守り続けて……おのれ」


 思い出す、女神ナーゼ……か。


 今、彼女はどこで何をしているのだろうか?

 我と共に女神と戦った当時を思い起こし、瞳に怒りを宿すフェニ。


「わかりました、私のほうでも幻王様が地上で活動できるように、方法を考えてみます」


「よ、よいのか?」


「勿論です。また無茶をされては困りますしね。それと……私に話していただけて本当に嬉しかったです! ……ふふっ」


 一礼したあと、やる気に満ちた表情で去って行くフェニ。

 彼女に希望を託すことにした。

 もしかすると、諫められるのではと思っていたが……。


 彼女のことをもっと信じるべきだったのだ。

 我は配下に恵まれているようだ。


 少し情けないが、気持ちを聞いてもらってスッキリした。



 フェニを頼ったことで、我の地上侵入への道のりは大幅に縮まることとなる。





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