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 リリーラ王女との街での騒動から三日後。



「あ、ムート様……こんにちわっす」


「おお、メイ」


 丁度、街に出かけようとしたところ、学校で鉢合った形だ。

 出会って時間も経ち、すっかり緊張がとれたメイ。

 我の顔を見ると同時、廊下の向こう側から手を振ってくる。


 ここ最近、冒険者活動を休みがちなメイ。

 学園の魔法訓練室をマルティナに頼んで借りて、フェニに言われた訓練をこなしているらしい。


 現在フェニは研究室で二体目ボディの開発中。

 フェニが実体化するには、術者と一定距離以上離れてはいけない。

 ゆえにメイが外に出ることができないのだ。


 距離が離れると魔力伝達効率も一気に落ちる。

 この校舎内程度であれば問題ないそうだが。


「すまんな、我の事情に巻き込んでしまって……」


「い、いいんす、いいんす……基礎訓練は大事っすから」


 慌てたように、手をぶんぶんと振るメイ。


「でもフェニの作った特訓メニュー、スパルタ過ぎるっす」


「ふむ……だが疲労はしていても、なかなか綺麗な魔力の流れだ。きっちりこなしているのだろう」


「あはは……サボっていると一瞬で見抜かれるっすから」


 苦笑いするメイ。


「メイ……今度、フェニと三人で一緒に街の外に出るか」


「ぜ、是非是非っ、ムート様とフェニと冒険とか凄く楽しそうっす!」 




 そんな風に雑談を二人でしていると。

 突然、丁度すぐそこにあった応接室から声がした。


「どうして私の息子が退学処分を受けねばならんのだっ!」


「お、落ち着いてください、ヴォトン公爵」


 扉の向こう側から、ドンとテーブルを強く叩く音。


「で、ですが、これはもう、既に決定したことですから……」


「こ、この私がこうして足を運んでまで頼んでいるのだぞっ! あまりにも無礼ではないかっ!」


 応対しているのは声から判断するに、マルティナの秘書のようなことをしていた教師、名前はレイラだったか。

 何度か我と会ったこともある。


 どうにか、怒鳴り続ける公爵の機嫌をとろうとするが、うまくいっていない様子。


「こ、今回の件は学園長が直接決定なされたことです、わ、私にどれだけ言われましても、ご子息の処分が覆るようなことはありえません」


「だったらすぐに学園長を呼べ! 下っ端の君で話にならんのならな」


「し、したっ……が、学園長は今、所要で王城の方へと出かけております。戻るのは夕方になるかと」

 

 廊下まで聞こえてくる中年男の怒声。


「おのれ、我が国に居座る老害めが……六英傑だか、初代国王とともに戦ったか、なんだか知らんが、平民一人の命と我の頼み、簡単な損得勘定もできんのか」


 一触即発の空気が中から漂っているのがわかる。


「先日のムート様とトバルスの件みたいっすね、処分内容で揉めているみたいっす」


「ふむ、となれば……ここは当事者の我も中に入るべきか?」


「ぜ、絶対やめた方がいいと思うっすよ……王様(死者)が中に入ると、とんでもなくややこしいことになるっすから」


 部屋に入らないように、ギュッと我の袖を引くメイ。

 まぁ本来なら蘇生など簡単にできるものでもない。

 フェニが蘇生能力に特化した幻獣だから可能だっただけの話。

 人間に蘇生石の作成など不可能である。


「原因は王様の自爆っすけど、実際あのウインドボールは脅しで収まる範囲を超えてたっす。あんなの普通の人には放ってもいい攻撃力の魔法じゃない、自業自得っすよ……他にも表に出ていないだけで似たような事件を起こしてたみたいっすから」


 揉める声が止まることな続き。


 五分ほどして。


「こ、公爵……どっ、どちらへ!」


「ふん、トイレだ馬鹿者がっ!」


 結局、応接室の部屋を乱暴に開けて、公爵は出て行く。 

 苛立たしげな顔を浮かべていた。


「どけっ! 邪魔だガキどもっ!」


「あうっ!」


 余程頭に来ているのか、近くにいたメイを公爵が突き飛ばした。

 衝撃でお尻を強くうつメイ。


「大丈夫か、メイ」


「は、はいっす」


 我はメイの手を引っ張り、起き上がらせる。


「……ふん」


 その様子を見て、少しすっきりしたような顔の公爵。

 見下すような視線のあと、背中を向け去っていく。



(この男……)



「……待て」


「あ?」


 声に反応し振り向く公爵。


「なんだ、小僧……気に食わん目をしおって、私がヴォトン公爵だと知ったうえで話しかけているのか?」


「……」


「お、王様っ、大丈夫っすから」


 公爵を呼び止めようする我を制止するメイ。


「少しお尻をうっただけ、どうってことないっすから」


「だがな……」


「私は大丈夫っす、ムート様があの公爵に手を出したら間違いなく、面倒なことになるっすよ」


「優しいなメイは。まぁ被害を受けたメイがよいと言うのであれば、我から理由なく攻撃するような真似は何もせんよ。メイの顔を汚すような真似は望んでいない」


「……ムート様」


「……ふん」


 ニヤニヤと人を嘲るような笑みを浮かべる公爵だったが。

 結局、こちらが引き下がったのを見て詰まらなそうに去っていく。




「背中がガラ空きだぞ、公爵」


「ぶぐおおおおおおおおっ!」


風鎖(ウインドチェーン)


 公爵に向けて風魔法を展開する。

 背後からの奇襲攻撃だ。

 両手両足を風の鎖で拘束し、身動きがとれなくなった公爵は、そのままま倒れて前身をうつ。


「な、ななな、何をしているんですかああああっ!」


 突然の行動に度肝を抜かれ、慌てふためくメイ。


「さ、さっきのセリフはなんだったんですかっ!」


「我にも大きな理由があるからな」


「き、貴様っ! 何を考えて、このようなふざけた真似をっ、悪戯では済まされんぞ……くそっ! な、なんだこの風の鎖は、こんなに細いのに外れっ」


「いいから大人しくしていろ」


「むぐっ!」


 我は公爵の口を手で塞ぐ。

 廊下だと少々目立つので部屋の中へ。




「は、腹が立つ! あんの豚公爵っ、ひき肉にしてやりたいわ、好き勝手言ってくれちゃって……わ、私が下っ端だと」


 扉を開けると中では教師のレイラが不満をぶつぶつ呟いていた、


「く、権力が、私にもっと権力があれば……ここで我慢なんかせずに部屋に閉じ込めて、あんな奴ふんじばってやったのに、この尖ったハイヒールでふみふみして、唾でも垂らして見下してやるのに」


「そうか……では、汝の願いを叶えて見せよう」


「はい? ……って、うええええええぇっ……こ、公爵?」


 縛られ、部屋にカムバックした公爵。


「ななな、何をしているんですか、貴方たちはああああああっ!」


「た、たち? ……わ、私関係ないのにぃ」


「突然ですまんな、邪魔するぞ」


 足元に転がされた公爵を見て、口をぱくぱくさせ唖然としているレイラ。


「聞くに堪えない汝への罵倒、さぞや腹が立ったことだろう、汝の願いを叶えてみせたぞ、ご所望の品だ、喜べ」


「ふぇ?」


「むぐ、むぐううああ! ご、ご所望だと? 貴様か、貴様がこいつにこんな指示をしたのかっ!」


「ちちちっ、違いますうううっ!」


 血走った目でレイラを睨む公爵。

 慌ててぶんぶんと手を振るレイラ。


「ははは、終わった……私の出世……つぅか、人生も終わったかもしれない」


 虚空を見つめ、死んだような目でぶつぶつと呟くレイラ。


「か、可哀そうに……で、でもムート様、本当に冗談じゃ済まされないレベルっすよ、コレ」


「おいおい……我とてこんな通り魔のようなこと冗談ではせんぞ、歪の気配をこの男から感じたのでな」


「ひ、ひずみ?」


 以前、公爵の息子のトバルスに対しても感じたもの。

 それがこの公爵からも……親子共通して。


 我の直感がこの男はここで捕まえておくべきだと言っている。



 しっかり調べておくべきと判断した。


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