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認可証

 夜、学園地下研究室。


 我が幻界に意識を移している間に、フェニたちが交代で定期的にメンテナンスをしてくれている。

 ホムンクルスの生きた身体なので、栄養補給も必要だ。

 腕にチューブを繋ぎ、点滴のような形式で補給している。


 肉体のメンテナンスを終えたという報告を受けたあと。

 精神を地上へと戻し、身体をゆっくりと起こし、椅子に座って先日のリリーラとの一件を話す。


「なるほど、そのようなことがあったのですか」


「ああ」


 返事をするマルティナ。


「そっか、王様、リリーラ王女と会ったんすね」


「ああ、おかげで助かった」


「彼女は本当にいい子っすよ、ちょっと口は悪いから誤解されがちっすけど」


「そうだな」


 模擬戦の時は特に思わなかったが、実際話してみてそれは感じた。


「すまんなフェニ、知らずとはいえ、煙草を吸うなどと身体を傷つけるような真似をしようとして」


「いえ、この身体は幻王様のモノなのですから」


 現在は我の横で二体目のホムンクルスボディを開発中のフェニ。


 口には出さないが、初日から爆散したのが少しショックだったようだ。

 自由につかってくださいとフェニは言うが。

 最終的に迷惑を被るの彼女たちの方だからな。


「しかし……リリーラが思ったより元気そうでよかった。あの戦いで少しやり過ぎたかと思ったが」


「あの程度ならうちの学園では日常茶飯事ですよ、傷を負ったわけでもありませんから」


 どうやら余計な心配だったようだ。


「リリーラさんは、才能はとてもあるのですが、戦い方がパワーに偏り過ぎていますからね。少し心配だったんです……テクニックタイプが苦手というか、先日の幻王様との戦いはいい刺激になったと思います」


 戦いの光景を思い出しながら、マルティナがぽつりと呟く。


「私もあの戦いはいい刺激になりましたよ。さすがと申しますか……魔力コントロールも極めれば、あそこまでのことができるのですね」


「大したことでもないさ、長く生きればあれぐらいは誰でもできるようになるさ」


「し、身体強化や集中ヒールはともかく、さすがに魔法陣の瞬間的な書き換えは長く生きても難しいと思いますが……少なくとも私は無理です」


「マルティナはまだ若いだろうが」


「わ、若い? わ……私がですか?」


「まだ千歳も生きていないだろう? ……我からすれば子供同然だぞ」


「子供……ふふ、そんなこと久しぶりに言われました。でも、永劫に近い時を生きる幻獣の方たちから見たらそうかもしれませんね」


 何故か、少し嬉しそうな顔を見せるマルティナ。

 別に褒めたわけでもないのだが。


 とはいえ、確かに模擬戦はいい経験にはなった。


 バハムート(竜)だった頃とは違うが、多少は引き継がれているものもある。

 肉体面については別でも、魔力制御と魔力感知に関しては技術的な面が多いため、積み重ねた経験が生きている。


 竜形態の時よりは圧倒的に感知範囲も狭いが、ここにいる人間たちよりは広く精密に感知できる。

 なお、魔力制御と魔力感知は密接な関係があり、精密な感知ができなければ制御は難しい。

 さすがに、超精密なエネルギーコントロールが必要な【暴食】は使えんが。

 魔法陣の簡単な改変や、ミリ単位での身体強化程度なら造作も無い。


 最低限の身体の使い方は理解できたと思う。

 人の関節がどの辺までなら問題なく曲げられるのかとか。


 とにかく、我なりに収穫のあった一戦だった。



「そうだ。話は戻りますが、同じことが起きないように、今度、適当な私服を見繕っておきましょうか?」


 マルティナが提案してくる。

 制服なのは、この学園を徘徊していても怪しく思われることもないし、別にいいんだが。


「それ以前に身分証明ができないことが問題な気がした」


「なるほど」


 今日はリリーラのおかげで難を逃れたが。

 また兵士に捕まったりした時、身分証明ができないというのは困る。


「身分を保証するもの、何か……あ」


 マルティナが何か閃いたようで、ポンと手を叩く。


「そうだ、あれがあった! すぐに身分証をご用意しますね」


「できるのか?」


「勿論です、任せてくださいな」


「ティナ先生、まさか学生証を偽造するつもりっすか?」


「もう、そんなことしないわよ、そんなものをお渡ししたら幻王様に失礼でしょう……できるけど」


 メイの問いを否定するマルティナ。

 何かを取りに部屋を出て、十分後に戻って来る。


「ではこちらを……お持ちください」


「ほう……見事な意匠ではないか」


 マルティナが用意したのは楕円型の銀細工。

 首に引っ掛けるペンダントタイプとなっており、中の蓋を開くと精霊たちが楽しそうに遊んでいる絵が精緻に彫られていた。


「よいのか? これをもらって」


「はい、もちろんですっ!」


「ちょっ、ここ、これってまさか、エレメントマスターの認可証っすか!」


「そうよ」


「そ、そうよって……」


 精霊魔法を極め、エレメントマスターと呼ばれるマルティナ。

 彼女は前回の魔王大戦で大活躍し、国家内に留まらず世界平和に最大限の貢献をした六英傑の一人。


 そんな彼女が心技体すべてにおいて認めた証とか、うんたらかんたら……とにかく凄いものだということは伝わってきた。

 過去数百年、一度も与えられた人間はおらず、魔導士であれば誰もが欲しがる垂涎ものの一品だそうだ。


「幻王様、認可証を受け取って頂けますでしょうか? 本来は寧ろ私の方が認めてもらえるように頑張るべきなのですが」


「既にマルティナのことは認めているさ」


 本当に助かる。

 これがあれば、王国最強の魔導師が身分を保障しているのと同義。


「これで喫煙で補導されても問題はないな」


「そ、そんなちっちゃいことで、認可証使わないで欲しいんすけど」


「いいのよメイ、幻王様の好きに使っていただければそれで……」


 マルティナに礼を言う。

 乱用するつもりないが、これで、外で問題起こした場合も大丈夫そうだ。


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