王様のお悩み
「はぁ……」
先ほどの幻獣たちの会話を思い出し、思わずため息を零してしまう。
もう何回ため息を吐いただろうか、数えるのも馬鹿らしい。
飛びながら考える。我も地上に行きたい……と。
我は幻界で長い時間を過ごしている。
こうして地上に行くことをずっと夢見ながら……。
幻界は精神世界だ。
他の世界と違ってお腹も減らない。
何もしなくても生きていける世界だ。
戦争もなく、諍いも偶に幻獣同士が喧嘩したりする程度で平和と言っていい。
こう聞くと理想的な世界に思えるかもしれない。
だが……実際は決してそんなことはない。
幻界では朝も夜もない。
変化がほとんどなく、日々の刺激がなく、楽しみが少ない。
せめてもの娯楽と言えば、幻獣たちが持ち帰ってくる地上のお土産話を聞くことだ(盗聴)。
まぁ、これは同時にストレスも溜まるわけだが……。
幻界を離れられない自分に対するもどかしさが己の心を苛むからな。
他にやることもないので、それでもやめられないのだが。
(ああ、本当に暇だ……この場所は)
退屈というのは馬鹿にならない。
意味のない時間というのは想像以上に己の心を蝕んでいく。
ああ……あぁあ、きた。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
退屈を紛らわすため、最近日課となりつつある咆哮を上げる。
苛々するぅ、ああ……苛々するぞ。
いかん。
ここ最近の百年、吼える頻度が多くなっている。
一日一回は叫ばなければ落ち着かない。
(この退屈という名の鎖から早く解き放たれたい)
我も、昔は地上にいたことがある。
だが、今から三千年前に女神と戦った結果、地上を去ることになり、精神体のみが活動できる幻界に来ることになった。
そして我と同じく、地上で活動する肉体を捨ててまで、ついてきた眷属の幻獣たち。
まぁ時が経ち、今では召喚獣として地上に呼ばれている者も多いが……。
(我は地上に降りられない理由がある)
別に王の仕事が忙しいわけではない。
幻獣たちのトップだからと言って、何か特別な仕事をしなければならないわけではない。
偶に幻獣の中で悪戯が過ぎるものがいれば叱ったりとか、その程度だ。
寧ろ仕事があれば欲しいくらいだ。
退屈せずに済むからな。
我が地上に行けない大きな理由は契約可能な召喚士が存在しないことだ。
精神体となった幻獣たちが、空間を超え地上で肉体を得て活動するには彼らの存在が必要となる。
この繋がりを作る行為が召還契約だ。
この世界の地上、海、空は繋がっているが……幻界は独立している。
繋がっているというのは距離で測れるということだ。
しかし、幻界だけは次元が違う。
裏側の世界と言おうか。
他の三つの世界と繋がっていない。
故に幻獣たちは召還という特殊な方法でしか地上に移動できない。
だが、我の場合は他の一般的な幻獣と事情が異なる。
契約せずとも、強引に次元をこじ開け、地上に行くだけならできる。
我であれば召喚士の手助けがなくとも、地上で実体化し、肉体を再構築することも可能。
そう、行くだけは可能なのだ。
無理矢理行くことは可能だが、世界が我の存在に耐えられない。
我の存在が大きすぎて、強行突入したら、身体から漏れた力が津波、台風、地震、山火事といった天変地異を起こしてしまう。
欲しいものに触れようとすれば遠ざかる。
(ああ……なんて可哀そうな、我)
とにかく、これが我がこの世界で退屈と戦っている理由だ。
一応、我の尊厳のために断っておくと、別に人間に使役されたいわけではない。
我は幻獣たちの中で頂点に立つ存在。
誰かにいい様にこき使われるなど真っ平ごめんだ。
だがまぁ……近年の状況を鑑みるに……あれだ。
条件次第では力を貸してやってもいいと思っている。
特別サービスで前向きに考えようじゃないか。
まぁ、魔力だけでも人の数億倍以上の量を保持している我を、人間が召喚できるはずもない。
そのことを考えても無駄かもしれないが……。
ああ、あれから地上はどう変わったのだろうか?
人は同種族で進んで殺し合うなど愚かな面もあるが、力がないゆえに知恵を絞り、様々なものを生み出すそうだ。
一人では到底できないことも、力を合わせることで不可能を可能に変える。
最も数が多く、多様性に富む種族……人。
そんな彼らの作り出した世界を見たい。
これまではこの世界で大人しく、辛抱強く我慢していた。
だがもう我慢の限界なのである。
我だって、これまでただ盗聴をして無為にこの世界で過ごしてきたわけではない。
召還されずとも地上にいく方法を探していた。
幸いというか、時間だけは腐るほどにあったからな。
我は限界まで力を抑える特訓をずっと続けていた。
体外に力が漏れぬよう、より精度の高い力の制御が可能になれば、地上で活動できるようになるはず。
これが一番シンプルな解決策だと思われる。
他にいろいろ考えるも、有効な策が思いつかなかったというのもあるが……。
(……ふむ)
特訓を始めてもう三百年以上が経つ。
過去挑戦したときは失敗したが。
(今なら、あの時よりも、いい結果が得られそうだ)
試してみることにするか。