王女様
二話同時更新しております
ご注意を
二話目です
地上を行き来できるようになってから一週間が過ぎた日。
学園長室にて。
「こちらへ、どうぞお座りください」
「ああ」
ふかふかした弾力性のある高級そうなソファーに我は腰掛ける。
真ん中にガラステーブルを挟み、対面の椅子にはマルティナ。
以前約束した通りに、マルティナと話をする時間をとった形だ。
「本来ならお菓子の一つも出すべきところなのですが」
「前にも言ったが……気にするな」
味覚はないが、十分に地上を満喫している。
フェニとメイと王都の劇を見に行ったりもした。
他にも遊覧船に乗り、船からの眺めを楽しんだりと……。
「お前たちのおかげで、本当に充実した日々を過ごさせてもらっているのだから」
「……げ、幻王様」
「灰色だった日々に色がついた。夜が明け明日が来るのが楽しみになった……今はこれで満足だ」
我は本当に感謝している、彼女たちに。
「あの、今更な話で恐縮なのですが、呼び名は幻王様でよろしいのでしょうか?」
「む?」
「歴史の真実はフェニ様からお聞きしています。経緯を考えるにバハムート様のことは別の呼び方をすべきかも……と」
「幻王でかまわない。幻界の王となると気持ち少し抵抗もあるが、幻獣たちの王でもあるしな、フェニも幻王と呼ぶこともある」
二つの意味での呼び名であり、どちらも決して間違いではない。
「さて、何を話そうか」
「私は幻王様のことでしたら、どのような些細なことでも知りたいですが……」
「そうか……」
まぁ適当に覚えている限りのことを話すとしよう。
女神との闘いの詳細。
昔、地上にいた頃にしてきたこと、などなど。
「では空には幻王様が昔暮らしていたお城が今も存在していると?」
「ああ、なにも起きていなければな」
正直、我が幻界に行ったことで、女神が何かしている可能性もあるが。
「ああ……是非一度、足を運んでみたいですっ!」
「ま、できたらな」
うっとりと、目を輝かせるマルティナ。
今の我でなければ、お礼も兼ねて連れて行ってやりたいところだ。
浮遊城は高度一万メートル上空にある。
今の時代、飛空艇なる移動手段があるそうだが、そこまでの高度は出せないそうだ。
人間ではとてもたどり着けない場所だ。
「とても興味深い話、ありがとうございました」
「なに、この程度のことでよければ……いつでも語ろう」
コンコン、コンコン……と。
丁度マルティナとの話がひと段落すると、ノック音がした。
「もう……また、誰よ」
昔話に花を咲かせていたところに、邪魔をする声。
額に皺を寄せるマルティナ。
マルティナの場合、放っておくとノックを無視しそうだ。
我はマルティナに問題ないからと促す。
「申し訳ありません幻王様。どうぞ~」
「失礼します」
入室してきたのは髪をアップにまとめ、眼鏡をかけ、黒いスーツを着用した教師の女性。
以前、マルティナを連れ戻しに来た教師だ。
「あ、お客様がいらし……あれ、うちの生徒? 見たことがあるような、ないような……どこのクラスの子でしょうか?」
「この方はクラスなどに所属しておりません」
「え? ど、どういうことですか?」
「いいですか、レイラ。このお方は学生のクラスなどに収まる器ではないのです。いいですね?」
「何を言っているのかわからないし、全然よくはないと思いますが……話を進めますね」
まぁ学園長の奇行はいつものことか……といった様子で慣れた対応の女教師。
ちなみにレイラというのが彼女の名前で、高等部一年生の学年主任でもあるらしい。
「先ほど、学園対抗の交流戦のスケジュールリストができあがりましたのでお持ちしました」
「できたのね、ちょっと見せて……」
目を細め、レイラから渡された紙を眺めるマルティナ。
雰囲気が仕事モードの真剣な顔へ。
「ほう……学生同士が戦うのか」
「ムート様もご興味が?」
「まぁ、それなりにな」
一応今は事情を知らない者もいるので、幻王呼びを避けるマルティナ。
学校同士の交流戦について我に説明してくれる。
ザウルス王国と、その南方の草原の国ステゴ王国。
ステゴ王国は肥沃の大地を活かした農業の盛んな国。
過去には両国の間に位置する宝石鉱山を巡り衝突もあった。
だが鉱山資源が枯渇し、いつまでも争っていても何の利もないということで、百年前に国交が正常化、今では友好国となっている。
貴族や王族の子息たちも集まり、両国を代表する学園同士の交流の一環で、生徒たち同士が戦うのは近年の恒例行事となっているそうだ。
各学園から成績優秀者が代表として選ばれ、試合は王都にある闘技場を用いて行う。
メンバーの選抜方法は各学年で、成績上位者四名ずつ選ぶ。
学園高等部の一年生から三年生まで、合計十二人。
王族だから優先して選ぶということもないが、普通にどちらの王女様もその中に入れるくらい優秀だそうだ。
各学年、一対一のシングルスが二戦と、二体二のダブルスが一戦。
今年は向こうの学園の王女も参加するとのこと。
「皆、王女同士の対戦カードを見にくるでしょう」
「ふむ……しかし、敢えてそれを裏切るのも一興だと思うがな」
「なるほど……常識に捕らわれない考え方、さすがムート様です」
「え? ……が、学園長?」
何言ってんのこの人? ……といった顔のレイラ。
「確かに、あくまで主役は生徒たちですからね。国同士の約束事でうんたらかんたらとか、大人の事情に縛られることなくのびのびと……そうおっしゃりたいのですねムート様は。よし、決めました!」
「や、やめてくださいよ学園長! 洒落にならないことを言わないでくださいっ!」
焦るレイラ。
そんなやり取りをして退出していく。
「確か今の時間、訓練場でリリーラ王女が特訓しているはず……幻王様、もし、ご興味があるようでしたら見ていきますか?」
「ふむ……そうだな」
今の時代の人間同士の戦い、少し見ておきたい気はする。
人間が、どの程度の攻撃なら耐えられるのか。
どの程度の速度で動く分には筋肉に負荷がかからずに済むのか。
身体の限界を知る参考になりそうだ。
我はマルティナの提案に頷いた。