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外出4 メイ視点

「お初にお目にかかる……下界の民よ」


「「「……あぁ?」」」


 最早、完全に喧嘩を売っているとしか思えない語り掛け。

 一瞬にして、彼らの怒り指数がぐんぐんと増していく。


「あ、あのっ……」


「私たちの後ろに来るっす……早く」


「は、はいっ!」


 私が困惑している少女に言うと。

 王様が作った隙をついて慌てて背後に回る。


「て、てめえ……俺たちがどこの誰だか理解しているのか?」


「こいつ、彼女の前だから、格好つけてんじゃねえの?」


「なんだ、実は内心はガクブルってやつか」


「そうそう、もうあとに引けないってな……」


 学生というか、柄の悪い粗雑な冒険者みたいな言葉遣いである。

 取り巻きの二人が私たちを睨みつけてくる。


 うん? ……というか、彼女ってもしかして私のことっすかね?

 なんかフェニが聞いたら……色々と文句を言われそうな。


「やめろ……お前たち」


「「トバルス様っ!」」


 一歩前に出て、手で子分二人を抑えるトバルス。


「はは……随分と威勢がいい奴だな。うちの学園の制服を着ているが。俺がお前を知らないにしても、魔法学園の生徒なら俺のことを知らないはずがないんだがな」


 そもそも、この人(?)生徒じゃないっすからね。


 トバルスの顔は笑っているが、その目は笑っていない。

 行動を邪魔された苛立ちがありありと窺える。


「お前みたいなタイプは何度か見たことがあるよ、最初は威勢がいいが、どいつも少し遊んでやったら例外なく最後は泣いて謝ってきたがな。格好つけて正義感ぶったことを後悔していた」


「そうか……」


 トバルスがにやにやと不愉快な笑みを浮かべる。

 しかし、まったく臆す様子のない王様。


「ほれ……とっとと行くがいい、娘」


「え? は、はいっ!」


「……ム、ムート様?」


 王様が手で「逃げろ」のジェスチャーをする。

 少し迷いながらも、一礼して女の子は走っていった。


 あ、あれ? ……なにかおかしいっす。予定と違う。


 わざわざ危険な場所に女の子を置いておく理由はないし、行いとしては正しいとは思うんすけど。


「い、いいんすか? 女の子行っちゃいましたよ? 先ほどの友達作りの話は?」


「メイ、何を言っている、まだそこに残っているではないか……」


「……え?」


 王様が指を差す。


 その指先はトバルスの方を向いていて……え?


「じょ、冗談すよね?」


「冗談などではない……いまの我ならば、いける気がする」


「な、なんでっ! どうしてこんな難易度激高をいきなり選ぶんすかっ!」


「この男と友になることができたなら、きっと誰とでも仲良くできる自信がつくと思うのだ」


「い、いやあ、そ、そりゃそうだと思うっすけど……」


「失敗しても、この男なら仕方ないと思うしな」


 ぽ、ポジティブなのかネガティブなのか……。


 お、王様やっぱり普通ではなかった。

 悪い方ではないけど、やっぱり根本的なところでは私たちとはズレている。


「それにな、不思議と聞こえてきた気がしたのだ。この男の魂の悲鳴がな、我に友達になって欲しいとな」


「ほ……ほんとっすか?」


 よくわからないっすけど。

 失礼ながら、私には王様が適当なことを言っているとしか思えないっすけど。


「おい、さっきからなにをごちゃごちゃ言ってんだ」


「無視してんじゃねえぞ、てめえら……」


「おお……すまんな」


 王様がトバルスたちに向き直る。


「自己紹介といこうか、我の名は……まぁ、ムートとでも呼べばいい。さて貴様らの名はなんだ? 述べてみろ」


「ほ、本当になんでこんなに偉そうなんだ、こいつ?」


「まさか、マジで知らないのかお前、ヴォトン公爵家を、トバルス様を……」


「知らん……そんなに有名なのか? そこの男は?」


「ち、田舎者かよ? しょうがねえ……教えてやんよ」


 取り巻きの二人が、ヴォトン公爵家がどれほど凄いかを語り始める。


 王国の建国期から続く由緒ただしき家だとか、魔道具作りで一代財産を築いたとか、かつて魔物のスタンピードの際獅子奮迅の活躍をしたとか、過去の栄光をペラペラつらつらと……。

 得意げに語る二人を見ながら、後ろで偉そうに「ふふん」と言って、ふんぞり変えるトバルス。


 だが……。


「あ? ……なんだそれは」


 つまらなそうに呟く王様。


「くだらん……あまりにもな」


「な、なに?」


 考えていた反応とあまりにも違ったのだろう……。

 額に皺を寄せるトバルス。


「退屈過ぎる、さっきから聞いていれば父親や先祖の話ばかりだ。我はそんなことを聞きたいのではない」


 王様がトバルスの顔をゆっくりと指さす。


「今、我は誰と話しているのだ? 貴様自身は何者なのだ? 我の前にいるのは一体誰なのだ? 親が凄い、先祖が偉人? そんなのは我にとって何の価値もない」


「…………な、あ?」


「お前たち一族がどれだけ多くの金銭を所持していようが、王に等しい地位があろうが、過去にどれほどの偉業を立て名誉があろうが……そんなものは、我のブレス一つで全部消し飛ぶわ」


 すっげえ、暴論きたっす。


「もう一度問うぞ、トバルスとやら……貴様はなんなのだ? 今の話からは何一つそれが伝わってこない、現状では我にとって、貴様は無価値に等しい存在だ。我は何も難しいことは言っていないぞ。誰それの息子というのではなく、貴様自身というものを我に示して欲しいのだ」


「…………こ、ここ、この……この、やろ」


 彼らの話を一刀両断する王様。

 口をぱくぱくさせ、青筋を浮かべるトバルス。


(あ……でも)


 これに似たシチュエーション、小説で読んだことがあるっす。


 確か親に甘やかされて育った我が儘放題の王女様が、身分の差は気にせずはっきりと意見する少年に恋をするお話。

 なんだかんだで、本当の自分と向き合い、しっかりと見てくれる彼に、王女さまがどんどん魅かれていく。


 そんなラブストーリー。


「本当に……なにもないのか、それほどまでに空っぽなのか、貴様は?」


「こ、この野郎おおおおっ!」


 怒りで顔を真っ赤にし、最早ぶちぎれる寸前のトバルス。

 い、いやまぁ、そりゃそうっすよね……現実は。


「どうした? 何故怒るのだ?」


「ぶ、侮辱にも限度があるっ! てめえは、絶対に許さねえっ! もういいっ、お前……頭の悪いただの馬鹿みたいだしな。痛い目みなきゃ、わかんねえようだ」


「そんなことはない。ただ、我は貴様のことを知りたいだけなのだ、先ほどの発言にも侮辱の意図はない」


 トバルスが掴みかかってくるが……。

 王様は何事も起きていないかのように、涼しげな顔をしている。


「だから教えてくれ、貴様の怒りの感情の根源を、生の感情をな。そうすることで我々二人の本当の対話が始まり、深く分かり合うことが……」


「うおおおおおっ!」


 浮かぶ魔法陣。


 直後、トバルスの背後に展開される風の塊。

 風属性の攻撃魔法、ウインドボールが王様を襲う。


「貴様……それはさすがにやり過ぎだぞ」


「っ!」


 理解できない子供を叱る王様の呟き。

 王様がたった一言呟いた……それだけなのに。

 刹那、強烈な寒気が全身に走った。


 王様の身体がぶるりと震えた。

 なんらかの魔法を行使しようとしているのか?


「王様、待っ……」


 急ぎ王様を止めようとする私。

 だが……。


「ひっ」


「あっ!」


 間に合わなかった。


 咄嗟のことで対応できずにそのまま……血しぶきが舞う。

 悲鳴をあげる男たち。 


「う、うわあああああああっ!」


「な、なな、なんで……いきなりっ!」


 その悲鳴は民衆にも広がっていく。

 口を抑え、子供の目を慌てて塞ぐ親たち。


 彼らの視線の注がれる先は……。


「あ、ああっ……ち、違うっ! 俺じゃないっ!」


 魔法を展開していたトバルスの方向。


「ど、どうしてだ? ウインドボールが当たってもこんなことには絶対にならないっ! し、信じてくれ……お、おお、俺がやったんじゃないんだああああっ!」


 血しぶきが制服にかかり、激しく動揺するトバルス。

 地面に飛び散った血痕、つい先ほどまでそこにいた人物の肉片。




 王様の身体が……爆裂していた。


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