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外出

「バハムート様……せっかくですし、街の方へ出かけてみませんか」


「おお……よいのか?」


「今日は最初からそのつもりでしたので、新しい身体を慣らす意味合いも兼ねて」


 願ってもないフェニの提案に、我は迷うことなく頷く。


 久しぶりの地上世界だ。

 一体どんな光景が見れるのか? ……心が躍る。


「ああ……どうなっているのか、楽しみだ」


「私もです」


「フェニも? ……何故だ?」


「バハムート様と再び地上で一緒にお出かけできる日が来るなんて、夢のようです」


「……そ、そうか」


 真っすぐ喜びの感情をぶつけてくるフェニに照れる我だった。




 儀式を行った地下室から地上へ繋がる階段を上っていく。

 学園の校舎を出て校門へと向かう。


 季節は春、桜が舞い落ちる中、一歩一歩地面の感触を確かめるように足を動かす。

 学園は初等部、中等部、高等部とありここは高等部の校舎。

 三年区切りで九歳から十八歳までの学生が通っているそうだ。


 現在は進級シーズンらしく、新しい制服を学生たちがちらほら。

 少年少女たちの活気のある声が周囲から聞こえてくる。

 春の暖かな空気に誘われてか、お昼休みに、外のベンチに座って弁当を食べている生徒が大勢いる。


「あ? 学園長だ……」


「一緒にいる人たち、誰だろう……」


 生徒たちから向けられる好奇の視線。


「学長と一緒にいる人【業炎】のメイじゃない?」


「確か飛び級で学園を卒業して冒険者になった?」


「そうだよ、間違いない、俺見たことあるもん……少し前にここに、臨時講師として来てたし」


 業炎は、メイの二つ名というものらしい。

 なんのことか我が疑問に思っていると、隣にいるフェニが耳打ちしてきた。

 二つ名は実績のある冒険者などに与えられる称号のようなものとか。


「ほう……飛び級とは凄いのだな、メイは」


「そ、そそ……そんなことはないっす、ムート様に比べればゴミ虫みたいなもんですっす!」


「そ、そこまで卑下することはないと思うがな……」


 我に話しかけられると思っていなかったのか。

 青い髪を振り乱し、慌ててあわわわ……と手を振るメイ。


 緊張しすぎだろう、別に取って食うわけでもないのだがな。


 一応、外では我のことはムートと呼ぶことにしてある。

 まぁ、名前を聞いたとしても、かの神獣がこんな場所にいるなどは想像できないと思うが……一応だ。


「隣の赤い髪の女の人は誰かな?」


「す……すげえ美人、う、麗しい、お近づきになりたいぜ」


 注目を浴びる我ら。

 フェニは炎翼を消しているので、召喚獣とは気付かれていないようだ。


「申し訳ありません、もう少し時間帯を考えるべきでした」


「構わんさ、こういう喧噪も久しぶりだ……悪くない」


 我に頭を下げる学長のマルティナ。


「あ、ムート様……襟が乱れていますよ、すぐにお直ししますね」


「……む、すまぬな」


 フェニが乱れた衣服を楽しそうに元に戻してくれる。

 人型でさすがに全裸というのはまずい。

 とりあえず学園の制服を借りた形だ。

 一層強まる注目。


「だ、誰だよ、あの男? あんな美人に世話してもらって」


「うちの制服を着ているけど、あんな奴いたか?」


「何者なんだ? あの学園長も、さっきからすげえ気を遣ってるよな」


 興味と好奇と嫉妬と羨望の入り混じった視線。


 しかし、我がネクタイの結び方など知るわけもない。

 服など生まれてこの方着たこともない。


「つぅかアイツ、なんかすげえ偉そうじゃね?」


「ああ……ちょっと、むかつくよな」


「顔も別に普通だしよ、魔力もほとんど感じねえ、実力も大したことなさそうだ。調子に乗ってるっつうか……」



「……煩い蠅がいますね」


「「「「「っっ!」」」」」


 煩わしそうに、フェニが悪口を言っていた学生たちを見る。

 声に魔力を乗せ、威圧を込めた声。

 それだけで萎縮し、ペタンと地面に膝をつく生徒たち。


「よせフェニ……あまりいじめるな」


「し、しかし、彼らはムート様のことを侮辱して……」


「我はあの程度の発言、気にはせん。嫉妬されるほどお前たちが魅力的だったということだろう? 寧ろ誇らしいぐらいだ。だから怖い顔をするな、せっかくの美人が台無しだぞ」


「ムート様……そ、そんな」


 とろけるような笑みを見せるフェニ。

 久しぶりの外出に気分が高揚しているか、普段言わないような歯の浮くような言葉がすらすら出てきた我だった。




 生徒たちから視線を浴びながらも、校門の前まで来たところで。


「あ、学園長っ! ようやく見つけましたっ!」


「……げっ」


 大きな声が聞こえてきた。

 声と同時、顔を顰めるマルティナ。

 駆け寄ってくる学園の講師らしき眼鏡をかけた女性。


「お昼休みが終わったら、会議があるってちゃんと紙に書いて伝えましたよね。ステゴ学園の講師たちが応接間で既に待っていますよっ!」


「ふん、知ってるわよ……そんなの」


「わかってて、外に行こうとしていたんですかっ!」


「ええ、何の問題もないもの。会議は一時頃に開始と書いてあったでしょう? 頃……なのだから、多少遅れても何の問題もないわ、つまり開始時間は個人の解釈の仕方によって大きく異なる……おーけー? ……わかったら待たせておきなさい」


「いいわけないです。学園同士の交流戦の件で来てるんですよ。今年は向こうの国の王女様も参加するようですし、王様も来るって話なんですから不備があったりしたら……」


「だから何? こっちは今、それどころじゃないのよっ! たかが人間の王如きが偉そうに……身の程を知れ、王よ」


「な、なな、なんという大問題発言を……この学園は国家機関だというのに、こんな発言が知られたら予算を削られるくらいでは済みませんよっ」


 外に出ようとしたところで、もめ事が発生。

 わいわい、がやがやと言い合う二人。


 さて……どうしたものか。


 というか、先約の予定が入っていたのに我のことを優先にしたのか、マルティナ。


「あ~我のことは気にせずともよいぞ」


「いえ、そうはいきません! 御身と同行できる数少ない機会、今日という記念日を逃せば、私の一生には消えない大きな傷が残ることでしょう!」


「…………」


 抵抗するマルティナではあったが。

 最終的に我がまた機会を設けるから、と言うことでようやく納得し、校舎に戻って行った。

 首根っこを掴まれ、引きづられていった。


 しかし、どうして……マルティナはあそこまで我に好意を?


 いや、我個人というよりは幻獣全般に対してか。

 研究者としての好奇心だけとはとても思えないが。


 まぁいいか、今は。


「行こうか……三人で」


「はい」


「はっ、はいっす」


 かなり調子が狂ってしまったが、気を取り直して……。



「……くっ!」


「え? フ、フェニ……」


 こ、今度はなんだ?


 突然、胸を抑える仕草を見せるフェニ。

 離脱したマルティナに続き、次から次にアクシデントが。


「ど、どうしたのだ、フェニ?」


「地上で実体化する魔力が足りな……くっ」


 半透明になっていくフェニの身体。


「そんな、ここ(校門)まで来て、申し訳ありませんムート様……私はここまでのようです。今日の日のために、きちんと実体化できる魔力は残していたのですが……」


 な、何故そのようなことに……。


「先ほどムート様を侮辱した学生たちを、魔力を使って威圧したことで計算が狂ってしまったようです」


「「……」」


 唖然とする我と、口を半開きにするメイ。


「な、なんなんすかフェニはっ! 前から思っていたっすけど、普段冷静な癖に王様が絡むと、急に馬鹿になるっす!」


「し、失礼なことを言いますねっ! 元はと言えばメイから取れる魔力が少ないからこのようなことになるのですっ! その前にも貧弱な貴方のために、色々防御結界を張ったり、蘇生石を作成したりと、魔力を消費しているのですよっ!」


 メンバーチェンジして第二戦が始まりそうである。


「そうだったんすね、やたら魔力を持っていくなぁとは思っていたら……ご、ごめんなさいっす」


「い、いえ、わかってもらえればいいのです」


 メイが素直に謝る。

 そして何故か、もじもじしだす二人。


 マルティナの時と違い喧嘩までは発展しなかった。

 相性がいいのか、悪いのか。

 だがまぁ、フェニにはこういう素直なタイプの方が合うのかもしれない。


「ですが……こうなっては仕方ありません。悔しいですがメイ」


「はい、なんすか?」


「貴方にすべてを託します……ムート様を一人でしっかりとエスコートするように、失敗は許しません」


「え、ええええええええっ!」


 そう一方的に言い残し、フェニは消えていった。


「だそうだ、行こうか」


「…………あ、あ」


「お前もなんというか、大変だな」


 呆然とするメイの肩を慰めるようにポンと叩いた。




 


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