プロローグ
神さまはいろいろ居る。
なんでもできる神さま、恩恵を与えてくれる神さま、姿そのものが輝いている神さま。
ぼくはどれも実際にお会いしたことはない。
でも、ひとりの神さまだけは知っているんだ。
「神さまは、ぼくと同じトカゲだったのですね。それもぼくよりずっとずっと大きなトカゲ様」
「ううん、我は姿かたちは決まってはいないのだよ、トカゲ」
「姿が変わるのですか?すごいや!」
「そういうわけではないのだがね…」
ぼくはトカゲで、きっとかなり小さい。
だって、葉っぱや昆虫やぼく以外のみんながとっても大きい。
太陽が昇るのを50回ほど見たくらいしか、今居る森に居ないから、まだ赤ん坊なんだ。
トカゲ様が言うにはぼくはここで卵から産まれたらしいから、ぼくの予想は当たっていた。
トカゲ様にはアマミという呼び名があると教えてもらって、それからぼくはトカゲ様ではなくアマミ様と呼ぶようになった。
アマミ様は、ぼくの名前を聞いてくれたけど、ぼくには特に名前はなかった。
ここにはぼく以外のお話しができる生き物は居なかったから、名前が必要ではなかった。
アマミ様が初めて会って、話したぼく以外の存在だった。
「お前は果物や花の蜜が好きだろう?甘いものが好きだからアマ。我と似た揃い名だ、よし決まりだ」
ぼくにはもったいない!
でも、それと同じくらい、ううん、それよりもすっごく嬉しかった。
アマミ様がぼくを呼ぶための名前だから。
お前でもトカゲでもなんでもいいのに、ぼくにしかない、アマミ様からもらった名前だから。
太陽が出たら起きてご飯を食べ、日光浴をする。
またお腹が減ったらご飯を食べて太陽が沈んで眠る。
ぼくの毎日はアマミ様と一緒の時間のほうが長くて、一緒じゃない時間のほうが少なかった。
「太陽が昇ったのは500回で、そのうち400回くらいは雲が出ていました。あと、雨の日は1200回ありました。雨の日は太陽が見えなかったので暗かったですね。アマミ様、晴れの日がやっぱり気持ちがいいですね」
「アマは毎日数えて覚えているのか、すごいな」
そう言ってアマミ様は長く大きい鼻で、相変わらず小さいぼくの背中を撫ぜてくださった。
ここから先はもう、アマミ様と新しいお話しをできなくなってしまった。




