表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/31

六話〇dragged by game to the palace.《翼を創れ、今にも海が押し寄せる》

真昼間というのに、気分が良かった。曇り模様というのも作用するのだろうか、それは分からないが、ゆいきとゲームで遊べるというのは最高に楽しみだ。

楽しみついで、いい気分ついでに本を借りに図書室に向かっていた。

人にそう思われることは少ないが、私は文学少女である。普通の文庫本であれば一夜で読破できるし、気に入れば二周目を読み切ることだってできなくはない。

長夜鬼症候群でお得だと思う事の一つだ。代わりに財布は寂しくなるが、図書室を利用すれば解決できる。新作をすぐに読みたいときはやっぱり買うしかないが。

読み終えた本を抱えて、扉をひらく。左手にカウンターがあり、図書委員が二人も箱詰めになっている。面倒くさそうに本を読んでいる男と、処理用に置かれているPCを操作している女だ。

「すみません返却お願いします」

学生証に貼り付けられたバーコードをスキャンする、私のデータがPCの画面に表示されただろう。ほぼ毎日借りていきすぐに返すことに気付くだろうか、疑われる分には慣れているが、データが公になるのは困る。

何事もなく本の裏表紙にあるバーコードをスキャンして処理も終わりぎわに突然、図書委員の女が話し始めた。

「有織さん。眠たい時」大あくびをして続ける。

「ごめん」「ねみぃとき、どうしてる?」

「?」

いまはそうでもないが、いつもはもしかしたら眠たそうな顔をしているかもしれない。とくにあくびはよくする。

「いやごめん、こんなに大量の本を読めるのなら、ライフハックを聞けるかなって。超ねむてーし」

彼女とは初対面だったと思うが、その変なしゃべり方を置いておいても会話が下手だ。

「魔剤…いやエナジードリンクとか。赤色のやつが一番効くよ。ほんとにねむたいときしか飲まないけど」

ゲーム中によく聞かれるので、この答はすでに用意していたものだ。血の色は赤いし、間違いではない。

「ふーん。おっと、もしかしてGioGプレイヤー?」

なぜばれたのか、最近だけで三人目だ。

PC上に何のデータが表示されているか知らないが、ここでゲームに関連した本を借りた覚えはない。図書だけでなく学校に残されたもっと大きなデータを観覧できるのだろうか。

「ええ一応。でも、借りてく本を探したいのでこのへんでいいですか」

仲がいいわけでもない相手だ。少し悪い気もするが、ばっさりきりあげよう。

「おお、ごめんね。んじゃ今度入荷してほしい本あったら教えてよ、お詫びに。たぶんできる」

考えておこう。お詫びを用意するとは悪い子じゃないのかもしれない。


返却の処理が終わり、本を探し始めた時、扉が開いた。

扉からは我らが生徒会長、庵治ゆらめが現れた。生徒会長なんぞするくらいだから、さぞや賢い本を読むのだろう。目だけでも追いかけることにした。好奇心が少しでも湧けば、わざわざ我慢するのは体に悪い。

彼女は真っ先に新刊コーナーに向かい、一瞥したのちカウンターに向かった。

「図書のリクエストをしたいのだけれど、いいかしら」

箱詰めにされた図書委員の男女が一斉に生徒会長の方に向く。顔からは面倒そうな雰囲気が見て取れる。

女の方が男に何か相談して、女が箱の外にでて準備室に入った。リクエストは中だけでは済まないのだろうか。

「少々お待ちください」男はそういって、PCで何か検索している。

「『--エ--インに--翼』という本なのだけど」

タイトルはよく聞き取れない。はきはきと声も大きいが、うろ覚えだったのかその部分だけ声が小さかったからだ。

「一ヶ月に一度リクエストを先生方に審議してもらって、通った場合入荷されます」

「ええ。ありがとう」

そして、生徒会長は肩をすくめて男に「柄山が帰ってきたらこれを渡していただけますか」と言って図書室から去っていった。

図書委員の男は名残惜しそうにドアの方を見ている。と私は考えてしまう。なにぶん生徒会長庵治ゆらめは美女の分類に入るだろうからだ。JK離れした長身ときらきらした長髪。髪がなぜきらきらするのか原理を教えてほしい。


私が本を選び終えた時、女こと柄山はカウンターに戻ってきていた。

レンタルの処理を終えた後、彼女は言う。

「生徒会長、変わってるよね」

渡された物をひらひらさせて「中身気になるか?」とも。

「気にしない」

GioGのキャラクターが描かれた便箋であることは遠くからでも分かった。

「ゆらめちゃんは『c'iirys(シリス)』好きなのかな」

柄山はまるで旧知のゲーム友達かのように話しかけてきたが、先ほど決めたように無視することにした。

ちなみにシリスは混者のキャラクターで、ものすごくかっこいいということで評判である。ただ私の好みとは離れているが、おそらくそれは柄山もだろう。

「確かに変わってる」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ