六話〇dragged by game to the palace.《翼を創れ、今にも海が押し寄せる》
真昼間というのに、気分が良かった。曇り模様というのも作用するのだろうか、それは分からないが、ゆいきとゲームで遊べるというのは最高に楽しみだ。
楽しみついで、いい気分ついでに本を借りに図書室に向かっていた。
人にそう思われることは少ないが、私は文学少女である。普通の文庫本であれば一夜で読破できるし、気に入れば二周目を読み切ることだってできなくはない。
長夜鬼症候群でお得だと思う事の一つだ。代わりに財布は寂しくなるが、図書室を利用すれば解決できる。新作をすぐに読みたいときはやっぱり買うしかないが。
読み終えた本を抱えて、扉をひらく。左手にカウンターがあり、図書委員が二人も箱詰めになっている。面倒くさそうに本を読んでいる男と、処理用に置かれているPCを操作している女だ。
「すみません返却お願いします」
学生証に貼り付けられたバーコードをスキャンする、私のデータがPCの画面に表示されただろう。ほぼ毎日借りていきすぐに返すことに気付くだろうか、疑われる分には慣れているが、データが公になるのは困る。
何事もなく本の裏表紙にあるバーコードをスキャンして処理も終わりぎわに突然、図書委員の女が話し始めた。
「有織さん。眠たい時」大あくびをして続ける。
「ごめん」「ねみぃとき、どうしてる?」
「?」
いまはそうでもないが、いつもはもしかしたら眠たそうな顔をしているかもしれない。とくにあくびはよくする。
「いやごめん、こんなに大量の本を読めるのなら、ライフハックを聞けるかなって。超ねむてーし」
彼女とは初対面だったと思うが、その変なしゃべり方を置いておいても会話が下手だ。
「魔剤…いやエナジードリンクとか。赤色のやつが一番効くよ。ほんとにねむたいときしか飲まないけど」
ゲーム中によく聞かれるので、この答はすでに用意していたものだ。血の色は赤いし、間違いではない。
「ふーん。おっと、もしかしてGioGプレイヤー?」
なぜばれたのか、最近だけで三人目だ。
PC上に何のデータが表示されているか知らないが、ここでゲームに関連した本を借りた覚えはない。図書だけでなく学校に残されたもっと大きなデータを観覧できるのだろうか。
「ええ一応。でも、借りてく本を探したいのでこのへんでいいですか」
仲がいいわけでもない相手だ。少し悪い気もするが、ばっさりきりあげよう。
「おお、ごめんね。んじゃ今度入荷してほしい本あったら教えてよ、お詫びに。たぶんできる」
考えておこう。お詫びを用意するとは悪い子じゃないのかもしれない。
返却の処理が終わり、本を探し始めた時、扉が開いた。
扉からは我らが生徒会長、庵治ゆらめが現れた。生徒会長なんぞするくらいだから、さぞや賢い本を読むのだろう。目だけでも追いかけることにした。好奇心が少しでも湧けば、わざわざ我慢するのは体に悪い。
彼女は真っ先に新刊コーナーに向かい、一瞥したのちカウンターに向かった。
「図書のリクエストをしたいのだけれど、いいかしら」
箱詰めにされた図書委員の男女が一斉に生徒会長の方に向く。顔からは面倒そうな雰囲気が見て取れる。
女の方が男に何か相談して、女が箱の外にでて準備室に入った。リクエストは中だけでは済まないのだろうか。
「少々お待ちください」男はそういって、PCで何か検索している。
「『--エ--インに--翼』という本なのだけど」
タイトルはよく聞き取れない。はきはきと声も大きいが、うろ覚えだったのかその部分だけ声が小さかったからだ。
「一ヶ月に一度リクエストを先生方に審議してもらって、通った場合入荷されます」
「ええ。ありがとう」
そして、生徒会長は肩をすくめて男に「柄山が帰ってきたらこれを渡していただけますか」と言って図書室から去っていった。
図書委員の男は名残惜しそうにドアの方を見ている。と私は考えてしまう。なにぶん生徒会長庵治ゆらめは美女の分類に入るだろうからだ。JK離れした長身ときらきらした長髪。髪がなぜきらきらするのか原理を教えてほしい。
私が本を選び終えた時、女こと柄山はカウンターに戻ってきていた。
レンタルの処理を終えた後、彼女は言う。
「生徒会長、変わってるよね」
渡された物をひらひらさせて「中身気になるか?」とも。
「気にしない」
GioGのキャラクターが描かれた便箋であることは遠くからでも分かった。
「ゆらめちゃんは『c'iirys』好きなのかな」
柄山はまるで旧知のゲーム友達かのように話しかけてきたが、先ほど決めたように無視することにした。
ちなみにシリスは混者のキャラクターで、ものすごくかっこいいということで評判である。ただ私の好みとは離れているが、おそらくそれは柄山もだろう。
「確かに変わってる」