三十一話●Please run away,It can not be said.《痛みを伴うのに黙っていられない》
ゲームセンターにはいくつも入り口がある。四方向に一つづつで都合四つ。
私たちが向かったその入り口には運悪く、誰かが待ち受けていた。その誰かの足元にはどす黒い液体の水たまりができている。
漫画で見るような悪役のポーズをわざとらしくとって口上を詠みあげる。「僕の名前は伊崎」
「提案をしに来た」「特に羽子さんにね」
耳障りな言葉にゆいきが口悪く静止させる。「邪魔するなよ口下手」
彼も体格があるわけじゃないが伊崎はもっと小さい、目の前に迫るとその差がよくわかる。
「先輩、ふりにしても用心しなきゃ」
鮮血が噴きだした。
伊崎が自身の手首をいつのまにか持っていたナイフで切り落としたのだ。光景が目に焼き付き思考が停止する。
宙に舞う血が物理法則にあらがって作為的に動き出す。針のようにとがったそれは私たちに降りかかる。
「これが僕の『超人能力』!!!」
だが針は私たちの前にはほとんど届かなかった。射程は短いのだ。
さらに、目の前にいたゆいきはいつのまにか伊崎の背後にいて首根っこを掴んでいる。
「使いにくいな、それ」
それでもまだ伊崎は余裕を見せる。
「目を奪われたでしょう?」「見ただけじゃ足りないんですよ」「だから用心しろってね」
足を蹴って払い、首を持ったまま地面にたたきつける。鈍い衝撃音がする。硬い地面にあの速度でぶつかれば無事では済まないだろう。
真っ赤な液体がアスファルトにだらだらと広がる。
そして後から悲鳴が聞こえた。うみのだ。
「だから用心しろっていったじゃん」
先ほど切り落とした腕が宙に浮き羽子うみを持ち上げている。
頭を地面にたたきつけられたはずの伊崎はへらへらと立ち上がっておしゃべりを始めた。
「見た通り僕は【血を操る】能力を得ている」
「血が宙に舞って針を作っただろ?」
「でも手にも血が通っているじゃないか」「当然頭にも」
ゆいきが伊崎の首元を掴む。
「でも痛いからやめてくれよな。」「それに人質だっているんだぜ」
「ゆいき落ち着いて、私が話をする」そういって悔しそうにするゆいきを下がらせ、伊崎の前まで歩く。
「何が目的なの」
そういうと何が面白いのか吹き出し、オウム返しに喋る。
「なにが?!」「今目的の話をしたの?」「悪い奴がいたら倒されるだろ?」「当然にね」