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三話●BloodMage in the Winter'sGame.《世界=異世界、だが似ない》

午後11時ごろ。




長夜鬼症候群のケアの一環で、私は高校生ながらに深夜のバイトを許可されている。普通の場合、長い夜に耐えかねて精神をきたしてしまうので、なにかしら時間のはけ口を用意しないとならないらしいのだ。

私が普通じゃないと言える理由はもちろんゲームである。

永遠にプレイできる仕掛けがあるゲームもあるし、自分の腕を鍛える目的であればむしろ時間が足りなくなる。

特に今はMMOにはまっており、MMOなんてことさら時間泥棒と名高い。

レベルをあげ装備を整えクエストを進め、人とコミュニケーションをとれるだけなのになぜこんなにも心を奪われるのだろう。

特に今は大規模イベントも控えている。ちなみに魔王戦の詳細はまだ明かされていない。そもそも魔王と呼ばれるキャラクターすらおらず、そのキャラクターのお披露目PVEになるのではという噂が広まっているだけだ。

以前もこういったイベントはあったが、その時は”銃”が実装された直後で、銃と弾丸集めがメインとなってしまい、最後には山積みになった弾丸で遠くから撃ち続ける射的と化していた。

そしてうちのギルドは弾丸を集めると言っている、確かに準備ありきのイベント事というイメージは大事だが、時間をはたいてまですることかなとも少し考える。なんにせよ私にはあまり関係ない。

一方私に課された任務にはある意味とても気に入っている。

名指しで選ばれたこともそうだが、culuma(クルマ)さんとyuhz(ユーズ)さんは深夜にもログインすることがあってお近づきになりたいと思っていたのだ。このギルドはすこし真面目なところがあって、(冬宮がそうだからだろうか)夜中遊ぶ相手が少なくて寂しい。


Gioleo(ジオレオ)-grove(グルーブ)』を起動する。昨今の技術の進歩は目覚ましく、ただのゲームのための道具とは思えないほど英知の塊は私の持つ知識では少しも理屈を説明できない。

掌をモニターに触れると、突然と視界を”異世界”が覆った。


私は『ノギヤ』のアカウントでゲームの世界に入場した。ちなみに、有織としてのサブアカウントも持っており、そちらは常識的女子高生のリズムで運用している。

前回ゲームを終えた場所、B国(おにのくに)の都市にあるマイホームにて目覚めた。無音設定にしてあり、いわゆるBGMはない。そのぶん自然でいいのだ。


GioGの世界観の説明書きにはこう書いてある。『AとBとCの三つの国に分かれている異世界で冒険者となり、竜と邪神が紡ぐ御伽噺の主人公となれ』

ちなみに、AもBもCも実際の記述である。それぞれは国と名乗っているが、現実に言う国とは少しくくりが違う。

そも、種族が違うのだ。というのもGioG世界には”人間”がいない。Aはエルフ、Bは鬼、Cは天使と悪魔が統治しており、国というより”世界”なのだ。

私たちが住む”世界”にも名前がないように、彼らの国にも名前が必要なかったから、ただ記号的にAとかBとかCとか呼ばれている。


B国は鬼が統治しているといったが、私はエルフである。肌の色ステータスを褐色にしてあるので、ダークエルフと呼んでもいい。三国志真っ最中だとしても、MMOだから別の種族も入り放題だし、種族が問題になることもない。

B国で一番高級な住居エリアに向かっていった。その途中鏡写しのガラスがあり、ふと自分の姿を見た。メルヘンチックな魔法使いといったいで立ちであるが、細部の調整に並々ならぬ時間と細工を加えてある。黒が二重に重なるレイヤーを片方だけ真っ赤にしたり、見えもしないインナーに高級素材を使ったり、影描写色を薄くして妙なふわふわ感を演出したりそれこそ時間が湯水のように湧き出なければしないような工夫を山盛りに。己惚れながら歩き続けると、一軒の装飾華やかな建物が見えてくる。

そこは我らが『冬宮』が所有しているギルドである。ゲームシステム上ギルドと指定した住居は様々な特権が与えられる。広告であったり、リアルマネートレード用の窓口であったり様々な工夫ができるようになっているが、冬宮はその機能を利用しない。ゲーム内にある最高に贅沢な装飾を施されているだけだ。

ドアまで着いた。このゲームは至高のデジタルのはずなのに、細かいところにリアリティを散らされている。

例えばこのドア。私をギルドメンバーと自動で認識して開いたりしない。鍵がかかっているなら鍵をよこせというのだ。「鍵がかかっています」と。

しょうがないので、システムパネルを呼び出し、鍵を選択する。すると、ドアが唐突に光となって消える。「鍵の形じゃなくて鍵を認識したぞ」と言わんばかりだが、どうせなら私を認識しろよ。


通路の暗がりの奥から、メイド装束のエルフ女が現れた。彼女もまたキャラクターメイクに力を入れており、それなりにぐっと来た。

「ハロハロッす! 待ってましたよノギヤっち!」

私のほうは彼女のことを知らなかったが、マップ情報を見てみると、そこにいる人物の名前は『ビス=ビスオ』だと分かった。

その仕草から初対面と思い出したのか、更にテンションを高くして自己紹介をはじめた。

「あれ? もしかして初めまして?? マイネームイズビスオ、ビスビスオ! おみしりしといてね」

「ナイストゥーミートユートゥー 私はノギヤ。一応ギルドの幹部ってことになってます」

幹部は私を含めて四人おり、依頼をうけた【culuma】【yuhz】と私、残り一名は銃使いの【げんしろう】という人で、最近は別のゲームに手を出したのでこちらに顔を出すことは少なくなっているようだ。まあ幹部といってもステータスやこのゲームへの愛を適当に測って上から呼んだだけのものだが。


どうして私を待っていたのかというと、単純にほかのメンバーがすでにいたからである。

通路を通ってすぐにメインホールにでる。そこには10人あまりのギルドメンバーが集合していた。何人かはいないみたいだが、欠席ということをチャットで聞いている。

「もうしわけないです。遅れました」

「ノギヤがおそいんじゃない、こいつらがせっかちなだけだ」

私を擁護する彼が冬宮である。種族は混者とよればれる天使と悪魔の合いの子で、アンロックするのは面倒くさい。

「5分…いや3分まえには来てますよ。十分せっかちでしょう」そういったのはculuma。彼は強そうな尻尾を首元で揺らめかせている悪魔で、キャラクターメイクの功か敵キャラにしかみえない。

「私はできるだけ速く終えてもらったほうが嬉しいですがね。ははは」煽りをあげたのはげんしろうで、彼のキャラクターは翼人というなかなか見ない種族だ。どうやってアンロックしたのだろうか。

冬宮は黄金の椅子の前に立っており、そこから右にyuhz、その右隣に先ほどのビスオという順番で、他の幹部であるculumaとげんしろうは冬宮の左側にいる。

私は冬宮の対角線を位置どることにした。

「今日は魔王戦準備のため号令をかけた、感謝する。まず皆に物資を供給する。存分に活用し取り急いでくれ」

そういいながらシステムパネルを操作して、タップするたびに地図や回復薬、弾丸などが出現する。

「霊峰探査組は戦闘用品、弾丸収集組は金策アイテムや取引用アイテムを」yuhzがギルドメンバーを素早い手さばきで案内する。


メインホールがごたごたするなか、冬宮に肩を叩かれた。

「yuhzが連れてきたビスオを、霊峰調査組に入れることになった、連絡が遅れもうしわけない」

「霊峰は強いですから手数はあったほうがいいですしね。冬宮さんは来ますか」

「もちろん。夜中は任せるが」


集めるべき資材の説明が一通り終わると、メインホールに残るのは霊峰調査組の5人だけとなった。

ただ、その5人も別のアプローチで情報収集するということになったので、別々の方向に向かっていった。

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