二十話〇demon runs into the door.《戦火を扇ぐ黒夜と跨ぐ剣》
中に入ると、たしかに現代的に改装されていた。廊下に至るまで冷暖房完備である。
それにしても広い。歴史の資料集に乗っている地図付きの屋敷と比べても遜色なく、一日二日では構造を覚えられそうにない。
「むこうに二階建ての棟がある、そこが俺の部屋だ」
「部屋が二階建て…?」
「離れを子供部屋にしたんだよ、そっちだけ二階建てになってる」
日よけがある中庭を通って奥に進む。
「あれだ」
彼が指をさす直線状には屋根が広い家が上に二つ重なった建物がある。五重の塔の二重バージョンのようだ。
「…」
「形については俺もよくわからん。もともと一階建てのつもりで作ったんだろうなとは思うけど」
すぐ下までくると、先ほど抱いたイメージは間違っていたことがわかる。
五重の塔は実際には一階層であるが、この二重の家は二階層建てであり、子供部屋ということで生活空間にもなっている。そのためずっと大きく、家の上に家があるように見える。
それにしても真四角である。扉がどこについているか予想するのは当然のなりゆきといえる。四方向全てについていた。
扉の横にはパネルが取り付けられており、ゆいきはそこに掌をあてる、すると錠が解除される音がした。生体認証だ…。
「おじゃまします」と中に入る。
内装に和風の要素はほとんどなく、黒基調のてかてかした壁が張り巡らされており、小物や家具は暗めの青色で統一されている。
「どうぞごゆっくり」
これが一人用の部屋かと疑うほどだが、まだ上の階があることを思い出す。
見回しても階段は見つからなかった。
「四角くてわかりにくいが扉の向こうに階段がある。二階は姉貴のだけどな」
「お姉さんいたんだ」
「ちょっと面倒な関係だけどな。腹違いってやつ」
おっと。この話題はしないほうがいいな。
だが噂をすればなんとやら。部屋がノックされ、その姉が部屋に入ってくる。
入るとは言っても体半分だけ扉から見えるくらいだ。
「ん」
「さんきゅ」
彼女はゆいきになにかを渡してすぐ帰っていった。一瞬すぎて挨拶もできなかったし、眼鏡をかけているくらいのことしかわからない。
「あんまり気にしないでやってくれ。最近忙しいらしいからな」
「うん」
受験生かなにかだろうか、就職活動かもしれない。なんにせよ気にしてもしょうがない。
そしてゆいきが渡されたものはゲーム機だった。これぞ待ち望んだ最新機である。
「うちでゲームすんの姉貴くらいなんだ。今なら借りれるだろうと踏んでたけど良かった」
電源をONにすると、仮想モニターが出現する。私は慣れた手つきで操作し、ログインメニューから【ノギヤ】でログイン。彼にも操作してもらいゲームセンターで使った【アサルト】でログインを試みる。
アカウントステータスを見てみると、GioGに”Ready”と表示されていた。
「ログインはできるみたい。でもゲームが不安定だから確認してからログインしたい」
そのとき、私のスマホが通知を鳴らした。冬宮とYuhzのグループからだ。
『SMWのメンテナンスが終わった。”GMROOM”を利用不可にできたらしい…。今度こそ集合をかける』
「どうする?」
彼女…冬宮が取引をしていたとして、私になぜそれを打ち明けなかったのか。それなのに電話までして話をした理由は?
「ギルドメンバーが集まるなかゆいきを連れて行くのは無理がある」「それに今日はデートで忙しい」
「だから集合に集まる義理もない」
ノギヤからログアウトして【EgdelWonk】でログインし直す。二人でモニターに手を合わせる。二人で輪をくぐったら、視界を異世界が塗りつぶした。
「ここが有織の好きな世界か。竜が飛んでるぜ、すげえな」
二人の新米冒険者は、戦場となりつつある街に降り立った。
迫りくる炎から逃げ出したのは彼の方が早かった。
「戦争が始まっている!」
「危ない世界だな!」