十三話◎pre Brand New Day.《突き詰めれば用意にも準備万端》
GioGの世界に招待しようとしていた計画がご破算になったので、ゲームセンターに行くことにした。
昨今のゲーム業界はGioGのような超現実システムのゲームをいくつも発売していて、ゲーセンにもいくつかそういう機種があるだろう。
それにもっとリア充向けのゲームもあるに違いない。デートだと意識するなら、むしろそちらの方がいいはずだ。
太陽がおねむなうちに、いつも着ない服のクリーニングの袋を剥いて、タイムセールで買ったブランドものの香水の封をあける。
冴えない私に向けたコーディネートだ。これくらいしか頑張りようがないのがどうしようもなく悔しい。
無造作に左右にわけた髪も整える。後から前にかけて髪を集めて三つ編みに編み込んで、髪の色より黒いリボンを織り込んだ。すこしやりすぎか?
最初のデートくらい頑張りすぎの方が吉だろう。
鏡をみてみると、そこには気合を入れた”女子”がいた。普段意識することのない存在である。
「がんばれ。わたし」
やらなければいけないことを後回しにするのはダメだと教わったが、気合をいれておけば多分大丈夫だ。
あいにくなことに今日はさんさんたる晴れであり、まごうことなくデート日和だ。
およそ11時。
集合場所にちょうどいいオブジェクトなんかない辺境の街では、おしゃれなカフェですら探すのに一苦労する。
裏道通りで偶然見つけた喫茶店”梓華”を待ち合わせ場所に提案したが、この店の実態はバリエーション豊富なメニューが売りのテーマパークのようだった。
しょうがないので適当な飲み物を探そうとメニューをめくるが、パンプキンサイダーをはじめ、奇特なメニューしか載っていなかった。
隅々までメニュー冊子を見ると、表紙にメニューCと書いてあった。ちなみに、私の座る席にはそれ以外のメニューは用意されてない。
「ほかのメニューありませんか」と店員を呼んでみるが、私の声が小さすぎたのか来る気配もない。
カランコロン。店の扉が鈴をならして、布竜が入ってきた。一瞬だけ躊躇してから手を振って呼んだ。
「こっち」
布竜の全形をみて目を疑った。侍みたいな紺色の袴に、上は桜色の星を散らした黒色のパーカーを羽織るという、独特な服装だったのだ。しかしもっとよく観察したくなる。
彼の身長は高くないので、そこまで大仰には見えないが、一見してコスプレかとも思うほどにとんがっていた。そしてよく似合っている。
「なにそれ、かっこいい」
「だろ? 家にあるやつ引っ張ってきた。うちたくさんあるんだよなこういうの」
「へえ。じゃあ剣とかもあったりするの?」
この地域一帯は戦国時代の勝者の末裔がすんでいたというから、歴史ある旧家がおおい。彼の家もそのうちの一つなのだろうか。
「剣っていうか刀なら沢山あるよ。錆避けが面倒だからって処分するかよく悩んでる」
「処分するなら一個欲しいかも」
「あぶねえからやめとけ」
「結構振り回すの慣れてるから平気だよ」
「ゲームだろ。侍のやつとかあるのか?」
「いちおうあるよ。魔法使いを斬ったり、化け物狐を斬ったりできる」
GioGのクラスにはサムライもある。それなりに強いが操作難度が高い。
「それやろう、それ」
「うーん…やろうと思えばできないことはない…んだけどちょっと面倒。それよりゲーセンいこう」
「最近のプリクラがな……
そんな会話を続けていると、奥から店主が現れた。
「お待たせしました。注文があればどうぞ」
彼に目くばせしてみたが、布竜はメニューの異常さに気づいていなかったみたいだ。
「ほかのメニューください」
メニューCを机に広げてその意味を暗に説明する、だが布竜は目を輝かせて指を宙に右往左往させてから【トマトスフレライス】に指をさし「これをくれ。ください」と言う。
「【ピーマンシュガーサンド】と迷ったんだが、今は昼飯時だからな」と意味不明な事も呟いている。
「……じゃあ私はこの、パンプキンサイダーをください」話を長引かせたくなかったので「瓶で」と早足に付け加えた。
店主は私に細い目を一瞬むけてから笑顔で「かしこまりました」と奥に引っ込んでいった。
首をかしげてみるが、布竜はトマトスフレライスが楽しみらしく、笑顔で返された。




