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3 カップル成立後、彼氏と下校する



「迷惑、かな……?」


 固まる俺。


 今、水谷結衣は確かにこう言った。

 「私の彼氏役を買ってくれないか?」と。


 ドキドキが止まらない。生唾をゴクッと飲み込んで、バレないように深く息を吐き、ここは平常心だと強く念じる。


「め、めい……わくじゃ、ないけど……」


「ほんとに? 無理してない?」


「ぜんっ、ぜん! 平常心!」


「(平常心?)……ほんとごめんね、無理言って。えと、条件とかあるんだったら言って?」


 今すぐ君を抱きしめたい。

 毎日その匂いを嗅ぎたい。

 一層のこと一緒に住みたい。

 なんだったら宇宙の果てとか二人で彷徨いたい。


 条件と言う名の欲望は腐るほど沸き上がるが、ぶっちゃけ、条件とかは全然ない。しかし今が己の欲望を叶える人生最大のチャンスだ。そう思い、頭をフル回転させた。


 よし……決めた!

 恋人っぽい条件。言うぞ……言うぞ……!


「れ、れん、ら……れん……」


「ん?」


 頑張れ奥井駿太!!

 人生初の試みだろうが!! 勇気を出すんだ!!


「れ、連絡……先の、こ、ここ……」


「あ、連絡先? うん、交換しよ。なんかあったときに困るもんね」


 うおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁ!!

 やっっっっったああああああああぁぁぁ!! 


「あとさ……」


 ん!?


「奥井くんの都合いい日だけでいいから一緒に帰らない? たぶんだけど……昨日の人の友達がこの学校にいると思う。でなきゃこんなに噂、広まらないし……」


 ちょっと舞い上がりすぎていて気付かなかったが、このときふと、水谷さんが本当に不安で困っているように見えた。


「わ、わかった……」



 緊張しながらも俺は水谷さんとLINEの交換を済ませ、そして二人別々に教室に戻った。先にその場をあとにした水谷さんを追い、少し時間を空けてから俺も教室へと戻る。


 クラスメイトから質問責めにあったのは言うまでもないが、その後の授業から終礼までの時間、ずっと上の空状態で何も手につかなかった。


 俺は終始、一緒に帰ってからの妄想ばかりを描き続けた。


 

 そして放課後ーー





 早速奥井くんと一緒に帰ることになった。もちろん彼氏として。


 ただいくつか気掛かりなことがあって、私はそれを未だに払拭できずにいた。

 ちゃんと彼氏役をお願いしたはずなんだけど、本当に伝わっているかどうかが心配でならないのと、さっきから私の半歩後ろを歩く奥井くんの息づかいと視線が怖くて仕方ないことだ。

 そんな背後霊みたいにぴったりくっついて歩くことないのに……。これだったら昨日の人のほうがいくらかマシに思えてならない。


「あの……普通に歩こうよ」


「だ、大丈夫、です! 平常心、なんで!」


 平常心の使い方がすごい気になる。というかそれが平常心だったら今すぐ病院に行ったほうがいい。

 それとさっきから奥井くん、何話しかけてもずっと「大丈夫です」としか言わない。

 家近いの?って聞いても、二学期の頃、席となり同士だったねって言っても、今回のこと急に頼んだりしちゃってごめんねって言っても、全部「大丈夫です」って返してくる。


 目の前を通りすぎて行く病院を前に、本当に寄らなくて大丈夫か心配だった。




 一緒に帰ると言っても奥井くんとは駅前でお別れ。こればかりは仕方ない、帰る方向が違うのだから。


 私は奥井くんと離れてから……いや、たぶんその前から強い罪悪感に苛まれた。普段だったらこんなに口数も多くないし、人に気を遣うこともない。

 なのに今日だけは違っていた。原因はーー自分。


 あのときは本当に断りの一つくらいにしか思わなかった。彼氏持ちーーそれを言えばあの状況が終わるんだと意気揚々だった。勝手に彼氏呼ばわりされた奥井くんの気も知らないで。


 なんで奥井くんの名前が出たのか自分でもわからない。咄嗟だったと言えばそれまでだけど、彼はクラス一目立たない割りにクラス一優しい一面がある。

 でもそれは私が奥井くんを意識して見ているから知っていることではなくて、クラス皆が知っていること。彼は優しい、誰にでも優しい。一歩間違えれば陰キャラと呼ばれかねない彼が皆に慕われる理由でもある。


 もしかしたら、そんな彼の優しさに無意識のうちに甘えてしまったのかも知れない。

 私は、自分都合で奥井くんに彼氏役をお願いしてしまった。

 噂だけならよかったけど、もしあの人の友達が学校内にいたとして、嘘だとバレたらまたすぐに現れると思った。その恐怖心が奥井くんを彼氏役として巻き込んでしまった。彼の優しさに漬け込んだのだ。私は、最低だ……。



「君! ほら、やっぱり嘘だったんだ!」



 後ろめたさを感じながら歩いていると、突然、前から声を掛けれた。聞き間違いじゃない。

 声の主は、昨日も一昨日もその前からずっと現れ続けている、あの男だ。

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