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10 悩める週末に美女の影



 これほど足取りが重たいと感じたことはない。

 電車を降りてから一層、体が恐怖心からか登校を拒絶しているようだ。


 俺の中では夢に近い感覚だった。どこかリアリティーはあったものの、怒らせてしまった一昨日から何度も解決の妄想を膨らませたせいだろう、自分の部屋に水谷さんというシチュエーションがどうにも現実として捉えることができなかった。


「嫌なわけない、好きなんだからーー」


 俺は確かにそう口走った。そして肝心なのは、そのあとの水谷さんのリアクションをあまり覚えていないところ……。


 ヤバい。いくら彼氏役とは言え、調子に乗った感ハンパない。

 ただでさえ変態発言を撤回して謝りたいのに、この上あれは妄想でした、なんて死んでも言えない。


 考えただけで冷や汗が止まらず、校門から下駄箱、そして徐々に教室が近付くにつれ、息を飲む回数だけが増えた。



「おはよ」


 一瞬、背筋が凍るようにビクッ!!となった。


 水谷さん!?

 俺のMy天使!!

 あぁ、振り返って抱き締めたい!!

 君の匂いと君の胸に飛びこ……奥井駿太ぁぁ!!

 今は自重せよだろうがぁぁ!!

 謝りたいんだろ!?

 ごめんって言いたいんだろ!?

 今から謝るやつがそんな変態妄想広げてどうする!!

 そ、そうだ! 落ち着け、俺!

 今は本当に謝りたいんだ!!


 俺はそっと振り返ろうとする。

 しかし緊張からか、あと一段で上りきる階段を踏み外した。


 ビクビクするな奥井駿太!!

 変態発言も妄想発言も、全て俺が言ったこと!!

 昨日眠れなかった夜、あれだけ予習しただろ!?

 ちゃんと向き合え!!!



 よし!

 なんとか堪えて、俺はもう一度勢いよく振り返る。



「ご、ごめん!!!」


「……ん?」


「ストーカーの奴と、変な言い合いしちゃって、ごめん!!」


「あー……。別にいいよ?もう。なんにも思ってないから」



 なんにも、思って、ない……?

 だ、駄目だ……!

 薄い心が砕け散りそうだ……!

 し、しかし!!

 耐えろ、耐えてくれガラスのハートよ!!

 もう一つ……!!

 俺にはもう一つ聞かなくちゃならないことがあるんだ!!



「……昨日さ、お、俺の家……きた?」


「うん」


「あっ……。えっと、俺、なんか変なこと、言ってなかった?」


「……。別に? あー、なんか滑舌良かったかも」


 か、滑舌!? 

 なんの話!?



 あれ……?

 でもなんか全然いつもと変わらない気がする。

 刺々しさも、距離を置かれている感じも、何もしない。元々俺に興味がないと考えればおかしなことではないが、どこか素っ気ないような淡々とした口調と態度。気のせいだろうか……?

 


 水谷さんはそのまま俺を追い越して先に教室へと入って行った。


 俺は残り香を楽しむ余裕もないまま、その場で呆然と立ち尽くす。

 拍子抜けというか、なんだかあまりにも想像と駆け離れた何事もなさすぎる展開に途惑っていた。


 俺は昨日、間違いなく「好きなんだから」と口にしたはずだが、水谷さんからは怒っている様子も呆れている素振りも見受けられなかった。本当にごく普通だった。

 一体どうなってるんだ? 俺は呟くように首を傾げ、狐に摘ままれたような顔で水谷さんのあとを追うように教室へと向かった。


 このとき感じた違和感が、これからの自分を苦しめるとも知らずにーー



 


 

 放課後、水谷さんといつも通り下校。なんだが普段よりも水谷さんの口数が多く感じたが、その大半が目立つもののないありふれた日常会話。


 話題を広げる術もなく、会話を弾ませる手段もない。面と向かって謝ることができたはずなのに、今朝のモヤモヤした感じが頭から離れず相槌しか打てない帰り道。今の水谷さんを見ていると、なんだか昨日のことが気のせいに感じてしまうほどだった。




「じゃ、また月曜日」


 駅前で別れるときの水谷さんの言葉。そう言えばもう週末だった……と、ここで初めて気が付いた。


 なんかすごい一週間だったよな。

 美女中の美女、水谷さんの彼氏役を引き受けた初日から始まり、バイト仲間の清水さんには人生初の告白をされ、水谷さんに付き纏うイケメンストーカーとは、自身の黒歴史となる変態バトルトークみたいな展開を繰り広げてしまった。


「俺は水谷さんの!! ーー毎日想像して!!」


 今から思えば完全に馬鹿。我ながら言い訳に苦しいほどの変態っぷりだった。あれでよく怒られなかったな……と、やはり今朝の水谷さんに違和感を覚えながらとぼとぼと帰路を歩く。





 そして翌日からの週末。


 フルで入っているバイトの時間以外、いや、バイト中にでさえ頭の中は水谷さんのことで一杯になっていた。未だに頭にこびりつくモヤモヤした感じがどうにも気になって仕方ない。


 どうやらここにきて自分の彼女いない歴が深刻化し始めたようだ。考えれば考えるほど、今の俺には水谷さんの気持ちがわからない。怒っているのか、見放しているのか、言葉通り、なんにも思っていないのか。だとしたら、俺はこのまま彼氏役を続けていいものなのか……。


 目まぐるしい週末は、答えの見つからない俺のネガティブから成る悪循環の考えによって一瞬の内に過ぎ去っていった。



 そして俺は、ある一つの答えともいうべき存在にたどり着く。

 水谷さんの彼氏役として、あってはならない感情の存在に。

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