序章二
気がつけば授業は終わり、放課後になっていた。
先生からの注意喚起は特になく、いつも通りの日常だった。
何かあると言えば、いつもなら半径二メートル以内にいるはずのリアナがいないことくらいだった。
「今日は行きつけのお店の店長から、新作出そうかと思ってて味見しに来て欲しい!お金はいらないよ!って言われたの!
行くしかないっしょこんなの!」
とか言って全力ダッシュで帰って行ったけど。
橙色に染まった小焼けの空の下、十階建ての校舎に背を向け歩き始めるイラリア。
騒々しい朝とは打って変わって放課後のこの道はとても静かだった。
リアナもいないので余計静けさが際立ち、風によって道に沿って生えている木々が木霊する。
一人で帰るのは久しぶり。
基本、家以外はいつもリアナがそばに居たから。
でも、一人になりたくない時に限ってリアナはいつもいない。
ただそれも言い出せない。
一人で抱え込もうとするタイプだから、周りに人がいない。
居ても頼れない。
あの首無事件が怖い訳じゃないけど、私の事よりリアナが心配だった。
リアナも魔法の才能が無い訳では無いのだが、単純な知識や技量、実戦の経験の差では圧倒的に私の方が上。
後は単純に友達として心配。
イラリアはそんな事を考えながら家まで帰っていたが、結局何も起こらなかった。
「ただいま。」
家に着き、玄関のすぐ右前にある階段を登り、二階にある自分の部屋へ戻った。
イラリアの部屋は見た目、性格とは裏腹に、ピンク色。
クールな表情をした彼女にはまるで似合わない。
リアナを初めて部屋にあげた時にもはっきり「全く合ってないね!!」と言われた。
自分でも合わないと分かっていてもピンク色が好きだったりする。
ピンク色のベッドに顔からダイブすると、数秒で寝ていた。
「ご飯だから起きなさいよ〜」
ママのご飯コールで目を覚ます。
いつも帰宅するとすぐに寝る癖があるのも意外な所。
そして夜は勿論眠れない。
イラリアはベッドから体を起こして、その場で伸びをする。
それからすぐに部屋を出て、一階のリビングに行く。
「そう言えば、今日はあの事件から丁度五年だって知ってた?」
食事中にしていい会話じゃない。
「食事中。やめてママ。」
「あ、そうね。」
ふふっと笑い返すママ。
こういう事もいつの事だが、ママは少し抜けた所があるからしょうがないと言い聞かせている。
「パパとレクリスはまだ帰ってきてないの?」
イラリアはママに問う。
「パパは今風呂出たところだ。
レクリスはまだバイトだってよ。」
パパが丁度風呂から上がってきた。
「ママもあの事件があるから少し心配。」
ママの気持ちがすっごい分かるイラリアは、口の中にご飯があるので激しく頷く。
イラリアは口の中のものを飲み込んでから、「物凄く頷いてたけど、私後で買い物に行ってくる。
買いたい本が新しく入ったの忘れてた。」
パパとママが「一緒に行こうか?」と言ってくれたが、「魔法使えば何とかなる。」と言って断った。
ご飯も食べ終わって、本を買いに行く。
「ちょっと行ってきまーす」
と言うとイラリアは本屋に向かった。
イラリアの使える魔法は火、風、雷、光、の四種類。
その中でも一番威力が強いのは光。
各属性の威力は、おおまかに一から十段階まであり、イラリアは光だと七まで使える。
だが、今から貰いに行く本は、新しい属性種類の本、空間魔法。
空間魔法は複雑な式であるが故に、ひとつの国に一人使える人が居るか居ないか程度であった。
しかし、行きつけの店の店主が、その空間魔法使いで、近々本を書いて店に並べる、と言っていたのだ。
ママには買いに行くと言ったが、実は無料。
ほぼ店主自作の魔法みたいな物だったので、よく来てくれるイラリアに、と書いてくれたのだ。
空間魔法使いと言っても、皆全く違う空間魔法を使うらしい。
勿論同じ魔法を使える人もいる。
そういう人は継承者か、その生みの親から教えてもらったかの二択という話だけれども。
なので、とりあえずの括りとして、空間使ってるから空間魔法でいいんじゃね?的な、適当な感じで空間魔法使いとして処理されているらしい。
ちなみに店主が使える魔法は〈アポイントタイム〉、と言う魔法らしい。
指定した場所に指定した時間になったらワープさせることが出来るというもの。
これのおかげで本の仕入れが物凄く楽になったと喜んでいた。
本屋はイラリアの家から、歩いて10分程度の距離しか無いのですぐに着いた。
イラリアは店の中に入り、店主を探す。
いた。
長い青髪が非常に目立つ。
店主はとても美しく、周りからは女神と呼ばれているほど。
「ミラさん!こんばんは!」
本屋に来るとテンションが上がるのもあるが、今日はミラ特注の本が見れると言うことでいつも以上にテンションが高い。
「お、イラリアちゃん!いらっしゃい。
今取ってくるからちょっと待っててね。」
ミラはそう言うと、棚に並べていた本をササッと並べ終えて、店の奥、倉庫へと行った。




