騙された商人/選択の奴隷
「今日はかなり儲かりましたね旦那」
屈強の男は札束を数えながら男にそういった。
「当たり前だろ、デーボ。俺は誰だ?商品の売買で右に出るものはいないと言われたペレルア・パスカード様だぞ?」
ペレルアと名乗る男は葉巻を吸いながら恥ずかしげもなく言い放った。
「でも旦那、もうそろそろこの仕事から手を引かないとまずいっすよ」
「だな、かなり金は溜まったし、引き際は今この時なんだがなぁ〜・・・問題はあれだよ」
ペレルアが指をさした方向には3つの牢があった。
「だからやめましょうっていったんですよ、だいたいなんで今引き受けるんですか」
「俺だってまさか、人が売り物なんて聞いてねぇよ・・・」
砂漠の国グラド
この国は広大な砂漠の中心にあると言われている唯一の国。そのため砂漠横断の際、旅人はここで旅に必要な品々を補給する。この街は他国と孤立しているため独自の文化が多数存在する。その中でも【奴隷売買】はこの国では当たり前のように存在する。
金に困った親が我が子を売る、親がいない子は飢えに負けて自分を売る。貧しい人たちが孤立した国で生きるためには豊かな人に飼われるが生きるのに一番の近道である。しかし、そんなこの国も他国との交流の中で奴隷売買の批判的意見を受け奴隷売買の禁止、奴隷所持の禁止を法として組み込まれることになった。奴隷売買で生活したものからは反対意見も少なからずあったが、そんな声は届くはずもなく7日後には法として正式決定が決まっている。
奴隷売りたちは必死で買い手を探すのに必死だった。しかし、ペレルアは違った。他国との交流が多くなれば遅かれ早かれこの現状は目に見えていた。商人ならばこの程度の考えは思いつくはずだが、奴隷売りを合法的に認めてきたこともあり奴隷売買禁止を信じなかったのだろう。そのため商品売買の中で奴隷との交換は決してしなかった。この国で最も情報が早く手に入るのは商人ではなく金持ちだからである。禁止されるものは誰も買わない。そのためペレルアは今の今まで奴隷売買をしたことはなかったが・・・
「旦那〜どうするんですか彼女ら、もう買い手なんていませんぜ?」
馬車を運転しながら横に座るペレルアに話しかけた。
「それは問題ねぇよ、手はある。今俺が悩んでんのは俺に商品を売りつけたエピットのことだよ」
エピット。声は中性的だったがフードで顔を隠し性別不明。
「まさか、石像の中にそれぞれ人が縛られて入ってたなんて知りませんでしたよ、通りで巨大だと思った」
「酒場の代金がわりに石像なんてよ。野郎には仕置きが必要だな」
「他の商人の慌てぶりをつまみに酒をべろんべろんに飲んだ旦那も悪いですよ」
そんなことをぐちぐち話していると目的の場所、マイホームに到着した。
「ッヒョエー旦那、立派っすねぇまるで富豪の家ですよ」
「まぁ、大金使ってさらには建築家の奴らの弱みを握って豪勢に作らしたからな。ここでも嘘つかれてたら惨殺してやるよ」
ジョーダンのつもりなのか本気なのかわからない笑みで答えた。
「それで旦那、着きましたけどどうするんですか、彼女ら?」
馬車から飛び降りたペレルアは荷台に向かって歩きながら大きめの声で言った。
「おいデーボ、今日から男ふたり旅は終わりマイホームで過ごすことになるが、ちと寂しいと思わないか?」
「まぁ、寂しいと言われりゃ寂しいですけど」
「奴隷売買と奴隷所持は7日後には法として認められる。そいつはいいことだがそれをよく思わないと思う奴もいる、それは誰だデーボ」
「金持ちですかね」
即答するデーボに対してペレルアは半分正解だと言い続けて言った。
「奴隷だよ、売り手は売れないとわかると奴隷を捨て、また買い手は奴隷の処理に困り捨てる、運が悪ければ処分ってことにもなるわけだ。奴隷制度廃止で奴隷は解放されるが生きる当てがない。元奴隷を雇う善人は少ないだろうな。そこでだデーボ、雇おうじゃないか、奴隷としてではなく他国の文化、メイドとして彼女らをな!」
「め、メイド?」
「メイドだ、お前は他文化に興味なかったみたいだが俺は色々調べてて知ったんだよ。他国には人を雇って家事洗濯を代わりにしてくれるメイドって職業があるってな」
ペレルアは馬車の裏に周り、牢に繋がれている彼女達に向かって言った。
「とまぁ、勝手にペラペラ話したわけだが、決定権は俺にはない、決めるのは君らにある。メイドとして働くなら給料は出す、嫌なら町まで送ろうじゃないか。そこから君らがなにしようと自由だ」
「我が家パスカードでメイドとして働くか、町で自分の運を試すか、好きな方を選びな」
牢から声は聞こえてこない。考えているのか、答えられないのかはわからない。普通の人なら前者一択かもしれないが奴隷を経験した彼女達にとって決定することは人生ではほとんどなかったからである。売られて、飼い主の命令に従うだけの人生を送った彼女達には。
「・・・ま、奴隷制度廃止まで時間はある。時が来れば答えりゃいいさ、デーボ」
パンパンと手を叩きデーボに合図を送る
「へい、旦那」
運転席からデーボが駆け寄る。
「彼女達を客として迎えようじゃないか」
「旦那がそう言うなら何も言いません、俺も彼女達を歓迎します」
デーボは手に持った鍵を使い一つ一つの牢を解錠していく。彼女達が馬車から降りるとペレルアは笑顔で一言言い放った。
「ようこそ、我が家へ」