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「バベルの塔?なんでそれがあると自動で翻訳されるの?」
バベルの塔ってたしか旧約か新約かは忘れたけど聖書にでてくるとても高い塔だったか?それがあるとなんでアメリカ人(多分)のベンさんや異世界人のプシュケさんと会話できるのか、立花さんに聞いてみた。だが帰ってきた言葉は
「わからん」
の一言だった。
「いや、じゃあ何でバベルの塔が原因って分かるのよ?」
「それはここで一番勢力の強い宗教がそう言ってるんだ、実際その宗教に逆らった国は他人の言葉が理解出来なくなったらしいしな」
はぁー、不確かな情報しかないってことか。それにしてもなんで地球と同じ名前のものがあるんだ?もしかして教祖様が日本人だったりしてね。
「うぅ…」
突然何処からか呻き声が聞こえた。多分簀巻きにされた子が起きたのだろう。可哀想だしちょっと楽な体勢にしてあげようか?
「おい造、お前はベンの後ろに下がってろ。こいつが暴れ出した時、攻撃に特化した俺の能力だと守りきれないかもしれんからな」
あっはい、分かりました。という事でベンさんの後ろに隠れる。
「あの、私は?」
プシュケさんが哀しそうにそういった。確かに彼女もか弱き乙女だ、一緒に隠れた方がいいだろう。
「プシュケ、お前は第四の壁があるから大丈夫だろ」
第四の壁がいかなるものかは知らないが、彼女に対しては少し厳しいのかな?大吾さん。
「うっ、ここは、どこだ?」
あ、簀巻きくんが目を覚ました。よく見ると顔はいいんだけど、青タンとかができてて残念なことになってるのがちょっと可哀想だ。
「起きたか、ここは異世界だ。そしてお前はちょっとおイタが過ぎたんでそこの外人―――ベンっていうんだが―――に捕縛されてここに寝転がってるというわけさ」
「そういやそうだったな……あんたは?」
「俺は立花大吾、お前と同じ日本人さ」
「そうか、俺の名前は古舘勝治、高校生2年生、そして―――」
意外と大人しそうだけど暴れたりしなさそう?もしそうなら傷の手当をした方がいいかもしれない。そう思い彼に近づこうとしたがベンさんに押し留められた。なんでだ、その時はそう思ったがすぐにその答えはでた。
「この世界を統べるものだ、食らえ!全てを穿ち統べる槍!」
古舘くんがそう叫ぶと、立花さんの胸を一条の線が貫いた。そして血を口から垂らし、前のめりに倒れる彼に寄ろうとした、だご出来なかった。ベンさんに押し留められているからだ。確かに私を守るためにはそうするのが一番だろう、だが人情は無いのかと思い彼を睨みつけるとそこには余裕の表情があった。
「そんなに睨まないでおくれよ、大丈夫、彼はあの程度で死ぬ男じゃないよ」
だが現に大吾さんはピクリとも動いていない。心臓を貫かれて死なない人間などいないことは常識だ。
「ククククク、油断したな立花大吾ォ。そしてベンだったかぁ?残念だけど俺の全てを穿ち統べる槍は10本ある上にビットに出来るんだよぉ!」
古舘くんが叫んだ。確かに彼の周りには10本のボールペンのようなものが宙に浮いていた。
「武器が泣いてるな」
この世界に来て初めて聞いた声が聞こえた。そして姿も見えた。彼、立花大吾は起き上がり刀を構えて怒りの形相で古舘を睨んでいた。
「あぁん?テメェなんでっ」
「ああ、なんで胸を貫かれたのに死んでいないのかって?簡単だ、俺やそベンの能力は使えば使うほど虫に近づいていくんだよ。俺はある戦争がきっかけで、ちょっと使いすぎちまったからな、内蔵がだいぶ虫のものに置き換わっている。そして虫の心臓となる器官は胸にないだけだ」
「なに?なら身体中を穴だらけにすればいいだけの話だ!」
全てを穿ち統べる槍が動き出し大吾さんを囲もうとするがそれは一刀のもとにきり伏せられた。
「そのビットの名前、全てを穿ち統べる槍なんて名前じゃないだろ、基本俺達みたいな地球人の能力は生き物をモチーフとしているからな、この鋭さはヤマアラシ、いや駄津か?」
「…っ!?」
「ふん、図星か。言っとくがな、俺達の能力で出せる武器の名前はちゃんと言ってやらねぇと真の力は発揮できないんだよ」
「くっ、駄津尖そ!」
古舘くんが武器の真名?を言い終わるよりも早く大吾さんは古舘くんを組み伏せた。
「最後に一つ、俺のこの武器楽無刀は田龜の口吻をモチーフにしていてな、刺すと溶解液を出すんだ。ただの虫の田龜の口吻でも刺されたら指が一関節分中の骨が溶けて短くなったりする事もあるらしいし、勿論中の肉がグチャグチャに溶けるんだ、痛みも半端ないだろう、それがこの大きさだ。一体どうなるんだろうなぁ?」
彼はニタァと笑い刀の先端を古舘くんの左足に突き刺した。