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不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第壱章   青年は荒野に逝く
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第八話  先人に倣って



「…………さて…………」


 小一時間程大地に仰向けで転がって空を眺めていた九郎だったが、流石に変化の無い空を見ていても何も起こらない。雲一つない晴天が広がっている。今までの3時間ほどで色々と起こり過ぎたせいか、その場その場では冷静であろうと努めていたつもりが、やはり自分でも大いに混乱していたのだろう。


(普通、あんなソリストネや変なのグレアモルが目の前で話しかけてきたら警戒すっだろに……。自分じゃ絶対詐欺なんかにゃひっかからねぇ! 騙された奴Pgrとか思ってたけど……)


 心が弱ふられたっているばかりの人間に付け込んで、恐怖感を煽りあんなすがたをみせ、譲歩したように見せて契約を迫る。

 よくよく考えてみればまんま詐欺師の手口ではないか……。

 常日頃ノリとその場の空気で生きてきた九郎は、詐欺師にとってはカモ同然の性格ではあるのだが、残念ながら本人に自覚が毛ほども無い。


「しっかし本当に来ちまったんだよなぁ……異世界……」


 改めて周りを見渡す。

 九郎の周囲は落下の衝撃だろうか、5メートルくらいの範囲の浅いクレーターができている。


(――どうして俺は体を広げて落下したんだ……。どうせ落下するんだったら、こんな漫画みたいなクレーターができるんだったら、『右肩を下にしてでんせつの抱き枕を抱いて寝ているようたおれかたなポーズ』でもしておけば笑いの一つもとれただろうにっ!)


 誰にとか、なぜ笑いを取る必要がとかは考えない。――まあ、そのキャラクターはその結果、死んでしまったので縁起は良くないのだが……。

 真剣に考えるほどに、頭の中ではくだらないことで茶々入れをしようとする。


「こうなった時に先人はどうやってたっけなぁ……」


 先人と言ったところで九郎には異世界なんてものはゲームや小説の中での知識しか無い。

 仕方なしに、もう一度周りを観察してみる。


 ――かなり殺風景な場所に落ちてきたようだ。

 短く生えた植物の広がる灰色の土の大地。空から見えた時には起伏に富んだように見えたのだが、いざ自分がその場所に立ってみると、結構なだらかな丘陵地帯のようだ。

 小さな岩から身の丈を越すほどの巨大な岩まで、ポツンポツンと点在している。

 見たところ背丈を越すほどの木々は生えてはおらず道らしい道も見当たらない。


(まず何処へ行けばいいのかすらわかんねえ…………)


 頭上に輝く太陽を見上げ九郎はさっそく途方に暮れた………。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



(最初っから落ち込んでも何もなんねって!)


 軽く自分の現状に眩暈を覚えたが九郎はとりあえず問題を先送りすることにして、読んだことのある小説を思い出す。

 異世界に転移した小説の主人公たちはその持前の現代知識や道具で苦難を乗り越えていた。


(そうだ! 俺は地球から文明の利器を持ってきていたはずだっ!)


 さっそくハーフパンツのポケットに手を突っ込むと中に入っていた物を確認し始める。

 尻のポケットから革製の財布……レンタルビデオ店のショップカードやキャッシュカード。数枚の紙幣と小銭。

 右のポケットからは百円ライター。

 左のポケットにはこれぞ文明の利器たる携帯電話が入っていたが……落下の衝撃か最初の事故でか、バラバラに砕けた状態でポケットの中に鎮座していた。


「っつっかえねぇ! もう少し何か持ってろよ俺!」


 自分の常日頃の身軽さに悪態を吐きつつもう少し思い出す。

 主人公たちは自身に与えられた能力を確認し、その強大な能力で成り上がっていったはずだった。


「『不老不死』の能力は……あんま確認したくねえよなあ…………」


 先程の光景を見た限りよっぽどの事でも『死なない』のは解ったが、かと言って「いろんな死に方を試してみよう!」とは成らない。当然だが九郎は痛いのも苦しいのも嫌だ。

 復活する際の赤い粒子には興味を惹かれるが、その為にまた腕を切り離すのはやはり躊躇する。


「となるとやっぱりソリストネの『変質者』かぁ……」


 異世界に転移して来た時の声は確かに『ヘンシツシャ』と言っていた…。落下中の九郎は何とか現実を直視するまいと『ヘンイシャ』と聞き間違えたと思おうとしたが。

 九郎は諦めたようにため息を一つ吐くと、もう一度周囲を見渡す。人っ子一人いない荒野が広がっている。

 九郎は立ち上がって近くにあった大きめの岩の陰に移動する。

 おもむろに着ていたTシャツを脱ぐ。

 ハーフパンツも脱ぐ。

 トランクスも脱ぐ。

 もちろん、靴下と靴はそのままだ。

 岩陰に一度身を隠すと颯爽と飛び出す。


「はあはあはあ! お、お、おじょうさぁぁぁぁんんんんん!」

「ぼぼぼ僕を見てぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ふぅぅぅぅぅぅはぁあぁぁっぁあああ!!!」


 全裸に靴下と靴だけの姿で誰もいない荒野で局部をさらけだす。


「ほれほれほれほれ!」

「ほ~らみてごらぁ~ん? ぞうさんだよ~う?」

「ふぉかぬぽぅふぉかぬぽぅ!!!」


 ひとしきりカニのような動きをしていた九郎だったが何も起こらない。九郎は真顔で服を着直すと膝から崩れ落ちた。


「…………なにこれ死にたぁい…………」


 九郎は大地に再び突っ伏した……。しょっぱい水が地面にぽたりと吸い込まれていった。

 しばらくその状態で固まっていた九郎は、スクと立ち上がると落下地点クレーターまで戻り中心に座る。


「となるとやっぱりソリストネの『変質者』かぁ……」


 ――――今の行動を無かった事にして精神の平静をたもつ。


「『変質者』……。『変質』ねぇ…。」


 意味だけを考えると『モノの性質が変わる』と言う意味だが…。

 ―――何の性質が変わるのか?どのような性質に変わるのか?『変質者・・・』なのだから変わると すれば自分自身なのだろうか。

 試しに手のひらを見つめて力を込める。

 じんわりと汗を掻いてくる。


「ふんっ……!!」


 手のひらから先程の復活の際に取り込んでしまった残りだろうか?砂の粒が浮き出てくる。

 よくよく考えるとこの現象も普通なら考えられない。これかと考え、九郎はさらに手のひらに力を込める。


「ふんぐっ……!!!」


 ―――――――結果、手のひらの皮が少しぶ厚くなった気がした………。

 九郎は諦めてとりあえず動き出すことにした――――――――。




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