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不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第壱章   青年は荒野に逝く
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第六話  ファフロツキーズ



「お゛お゛お゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」



 死の直前、訪れた部屋で奇妙な天使と死神にであった大学生 富士 九郎は異世界に転移してきた。

 眼下に広がるのは異世界の神々管理する地球とは全く違った理の世界『アクゼリート』。


「ぶるあらあ゛あぁぁぁぁぉぁおあああああああああああああああああああ!!!!」


 地球と違い澄み切った、遥か遠くまで見渡せる空気。

 開発や環境汚染などみじんも感じられない、起伏に富んだ緑の大地。


「ひぃぃぃやああ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 遠く空には見たことも無い大きな飛龍が山々に飛び交っている。

 ―――――異世界は…………、『アクゼリート』は驚くほど美しい世界だった―――――――


「おぉぉぉぉぉぉだぁぁぁぁぁすげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!!!」


―――九郎にはその美しい世界を見るだけの余裕は全くなかったが―――――




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 




(こりゅんわんなひょうあぁぁわはずでうはあぉぉぉろは無んりゃむはいかった…………)


 耳に流れてくる自分自身の悲鳴を聞きながら九郎はパニックに陥っていた。

 眼下に映る大地が恐ろしいスピードで迫っている。

 恐らくすさまじいスピードで落下しているだろうに、まだ遥か遠くに感じる大地。

 酸素が薄いのか上手く息ができない。


「ひぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあぁっぁぁぁ!!!!!!」


 豪と体を突き抜けていく風は刺すように冷たく、目から零れた涙が氷となって九郎の上空へ舞い上がっていく。

 突如「ぱん」と耳の奥に痛みが走り、自分の口から流れていた悲鳴が消える。

 ――――どうやら気圧で鼓膜が破れたようだ――――


 偶然か必然か、訪れた静寂に九郎は多少の冷静さを取り戻せた気がした。


「―――どういう事だ!?! 異世界に転移して最初の一歩が上空1万6000?! そんなクソゲー聞いた事もねえよっ!!!」


 未だに大地の様子が見えない事に背筋が凍る思いだ。

 浮遊感に覚える、男特有の股の寒さに、九郎は思わず股間を押さえる。


「大体空から降ってくるのは女の子だろっっ!しかももっとふわ~とした感じでっっ!!

『親方っ!空から凄いスピードで男の人がっっ!!!』って、俺なら助けようとは思わねぇよ!! 迷うことなく落下点からとんずらするよ! って違う!! 冷静に! 冷静になれ!!」


 自身には届かない声で叫びながら必死に考える。

 もうすでに1分はたったはずだが眼下の大地はまだ遠い。


「――――よし……冷静になってきた気がするぞっ!!! まずは現状確認! 現状を認識し体験した近しい状況と比べて対応策を練る!! これだっっ!!

 聞いたところによると上空16000ハイン?から落下中!! 以上!!! そう、落下中………――――――あるかっっ! そんな経験!!!」


 一人考え自分につっこむ。

 そんな場合ではないと分かっていながら、打つべき手が見当たらずどうしようも無い。


「―――いや? あるな……どこで………?

 ………そうだっ!夢の中で落ちる夢を見たことがある! よしっ! これは夢だっ!! 目を閉じて3つ数えて目を開けば俺は自宅の布団で目を覚ますんだ!!!

 3・2・1はいっっっっ!! ―――――夢じゃねぇっっ!?!」


 音は聞こえなくなっていても肌を刺す冷たい風も、体を撫でていく強烈な空気圧も、そして何より耳の奥の痛みが夢でないことを九郎に如実に認識させていた。


「そうだ、考えるんだ! まず時間を! 考える時間をかせがないと!

 スカイダイビング! テレビで見た! まず体を広げて風を受けるんだっ!!!」


 手足を目いっぱい広げて風を受ける。身体前面から風の抵抗を受けて九郎は「うっ」と呻く。

 が、その甲斐あったか、フワリと体の重さが無くなるような感覚が走る。

 ―――未だ落下中ではあるのだけれども……。


「っよしっ!! これで少し時間が稼げる! ――――さあ、考えるんだ俺!」


 彼女に浮気されたあげくに車に轢かれて死んだと思っていたが、気付けば白い部屋にいた。

 だがそこで出会った神を称する白い歯車と半老半幼の死神に異世界で人生の続きをして見ないかと持ちかけられた。『真実の愛を10人分受け取る』と言う『神の指針クエスト』を遂行する事と引き換えに……。

 自分はそれを承諾し、『神のギフト』と言う力を貰ってこの世界に放り出されたはずだ。


 再び「ゴッ」と耳に飛び込んできた風の音に驚きつつも、九郎は脳をフル回転させ、事態の解決策を模索する。

 眼前の大地との距離は最初の3分の2を過ぎた頃か、地表の輪郭がハッキリと視認できるようになってきた。

 緑の大地に転々と転がる赤茶けた岩々が恐怖を伴って迫ってくる。


「―――そうだ! 『神の力ギフト』だ! 『神の力ギフト』でこの局面を乗り切るんだ!!

 グレアモルの力『不老不死』か!?! どんな能力だ? 死なない力? じゃあこのまま落ちても大丈夫か?

 ――――いやだめだっ! 『不死』ていや、ゾンビ物の映画でも思うがあいつ等結構あっさりと行動不能になっちまう。それに落ちてみてから『やっぱダメでした(てへペロ)』なんて洒落にならん!!」


 ―――――もうそこまで大地が迫っている。距離が近くになったことで鮮明になったスピードが、九郎を急き立てる。


「じゃあソリストネの力か? てかなんだよ『変質者』って!? 全裸にコートでも着てコート広げて空でも飛ぶのか? 阿呆かっ! いや! きっと聞き間違いだ! 上から特例許可まで取ってきて俺に依頼した『神の指針クエスト』だ。しょっぱなからゲームオーバーなんて目も当てられん。ならやっぱりあいつの力か?」


 残された時間は後わずか。

 焦る気持ちは九郎の考える力を奪っていく。

 そうなると思いつくのは都合の良い現実逃避で……。


「『ヘンシツシャ』じゃなく『変異者』と聞き間違えたか?!? なら俺は全能の力を以ってこの局面を乗り切れるはずっっ!!

 鳥だっ! 空を飛べるように『変異』するんだ! よし! イメージしろ! 集中するんだ! 心を静めて……」


 もう高さは高層ビルと同等くらいだ。

 覚悟を決めた九郎は声高に叫ぶ。

 全身の力を込め、最後の希望にすがって大声で。


「よし! いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 『変異』!!!!!!

  アぁぁぁぁイ キャぁぁぁぁぁン フラぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!! ぶべらっっっっっ!!!!」





 ――――――『アクゼリート』の緑の大地に――――――赤い花が咲いた――――――




2017/4/30

主人公の長文セリフを少し短くしました。

言っている事は何ら変わっておりません。

少しでも読みやすくなっていればと思っております。

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