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不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第零章  おお〇〇よ!死んでしまうとは情けない!
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第四話  クエスト



「わかった! やってやろうじゃねぇか、その『神の指針クエスト』!」

「ホント!? やったぁ!」


 そう高らかに宣言した九郎に白い歯車ソリストネはクルクル回転しながら翼を掲げて喜びを表した。


「まかしとけ! 最強の英雄になってびっくりするぐらいの美人ハーレム作ってやんよ!」

「じゃ、じゃあさ、この紙に手をかざしてくれない? ……そうそう、そのへん……」


 ソリストネがどこからともなく取り出した羊皮紙を九郎の前に差し出して来る。

 ―――契約書の様なものだろうか。

 九郎が羊皮紙に手をかざすと淡い光が紙から発せられ小さな魔法陣になって紙に吸い込まれていく。

 見ると羊皮紙にはなにやらハンコの様に魔法陣が押された状態で記されている。


 ソリストネはそれを見て何度か頷くと、体全体で喜びを表す。


「いやーよかったよかった! きっとキミなら受けてくれると思ってたんだ! なに、心配なんてないさ。

 これから僕が授ける『神の力ギフト』でパパッと! できちゃうって! なにせキミの望む力だ。最強までフルスピードで到達できるよ! いやー、こっちも肩の荷が降りたって感じだね」


 契約が取れたサラリーマンように気色ばんだ声色で、ソリストネは白い翼で九郎の手を取りぶんぶん振る。

 先程の勢いからも、『真実の愛を10人分集める』と言う『神の指針クエスト』は長らく担い手のいない題目だったのだろう。

 九郎の手を取り踊り出さんばかりの勢いのソリストネを見て、九郎も段々と気分が良くなってくる。

 剣と魔法のファンタジー世界で無双する自分の姿を想い描き、美女に囲まれる自分の姿を夢想する。

 

 場の空気は九郎がこの部屋に訪れてから一番和やかな物になっていた。


「ソリストネ、注意事項言うの忘れてるわよ」

「あ゛」


 呆れたように半分少女グレアモルが、肩をすくめて九郎とソリストネの間に水を差すまでは……。

 ソリストネは一瞬ビクッと翼を引きつらせる。


(ま、種を持ち込んだり、文化を広めすぎたりしたら大変だもんな。異世界が日本と同じ様な世界になるのもつまんねーし……)


 これから九郎は異世界に行くのだ。

 ある程度その世界配慮しなければ、世界そのものの形を変えかねない。―――特に自分はこれから英雄といった存在を目指すのだから与える影響も大きなものになる。

 九郎は肩を竦めて嘆息し、仕方が無いと先を促す。


「細々とした注意事項だろ? 伝え忘れたのも気にしねえよ。とっとと教えてくれ」

「そう言ってもらえると助かるよ。えっとねぇー……。

 ひとつ、転移者はアクゼリートに新たなる宗教を作ってはならない」


 ソリストネは恐る恐るといった口調で羊皮紙を読み上げて行く。


(――――魂の行き先を決めるのに確かに宗教なんて作っちまったら大事おおごとだ。大体『神の力ギフト』もらっといてそんな不義理もねえしな……)


 九郎はふむと頷く。


「ひとつ、転移者はアクゼリートの世界を征服してはならない」


(そうか、『神の力ギフト』があればそういった事も可能だからこそ、最初に釘を刺しておくって事か……。

 逆説的には転移者は、世界を征服できるだけの力を得るって事だよな? すげー! 夢が広がるなぁ)


 九郎はフムフムと頷く。


「あと、これは今年からなんだけど……ひとつ、転移者はアクゼリートにて子供を残す行為をしてはならない」

「あ゛ぁぁぁん?」


 ビックリするほど低い声が九郎の口から零れていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



「あぁぁぁぁぁん!?!? 何言ってんだてっめ! 俺はこれからお前ん世界でハーレム作りにいくんじゃねーの? それがS〇X禁止だぁ!? 詐欺だろ、んなもん!」


 夢想していた映像がガラガラと音を立てて崩れた気がする。

 想い描いていた理想のハーレム像が淡い夢と消えたのだ。

 手も出せないハーレムにどんな魅力があるのだろう。

 九郎はチンピラの様に怒りを露わにしてソリストネを掴みガクガク揺さぶる。


「馬鹿言ってんじゃねぇぞ!? おうっ? 羽むしっちまうぞ!」

「あぁっ! やめてっ! 理由がっ、理由があって! いたイっ! 羽むしんないでっ!」


 白い羽が白い部屋に撒き散らされる。

 ソリストネが悲鳴を上げて弁解する。

 この部屋に訪れる善行と悪行が吊りあった者。所謂『転移者』はニートやコミュ障、ワープアと言った女に無縁な者達ばかりだと。

 

「そんなっ、奴らがっ『神の力ギフト』を得たらっ、英雄みたいな力を得たらっ! 羽はやめてっ!

 寄ってくる美少女っ、手当たり次第ヤっちゃうでしょっ! そんで結果っ! 溺れちゃうんだよっ! 女性に!!

 困っちゃうんだよっ! そんなっ、『神の力ギフト』の影響を受けた子供が量産されちゃうとっ!」


 そんな童貞達が『神の力ギフト』と言う強力な力を持てば、豹変してしまうのだと言う。

 力に酔い、傍若無人に振る舞う事も珍しくは無い。

 しかしアクゼリートは魔物が蔓延る危険な世界だ。

 力に頼って集まって来る女性も少なくは無く、そんな女性の中に好みの女性がいれば、童貞達が飛び付かない訳が無いのだ。


「おぉん? んなこと知んねーよっ! それは俺とは関係ねーし? 大体お前そりゃ『焼肉作れ』て指示に『火を使うな』って言ってるようなもんじゃねぇかっ! 発注書の不手際だ! 断固改善を要求する!」

「わ、わかった! 一度っ! 上に、確認を取るからっ! だからっ! 羽むしるのやめてーーっ!」


 ソリストネを揺すりながらぶちぶちとその翼をむしり取っていた九郎はやっと手を放したのだった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



「……じゃあ……上に確認してくるからちょっと待ってて…………」


「――おう! しっかり上の神様おやがいしゃに事の重要性を伝えてこいっ!」


 何やらぶつぶつと唱えると白い歯車ソリストネの姿は掻き消えるようにいなくなる。

 九郎はしっしとばかりに手を振り白い歯車ソリストネが消えると舌打ちしながら椅子に腰を下ろす。


(――まったく……。これから『真実の愛』を『10人分』も集めなきゃならねってのに、エロい事できねってそりゃなんて拷問だよ! 向けられる好意に対して手もアレも出せねえってのは! 俺はどこぞの鈍感系ハーレム漫画の草食主人公じゃねえっての!)


 ふてくされて座る九郎を見て、ことの成り行きを見ていた半分少女グレアモルはクスクスと笑いながら近づいて来た。


「―――面白いのね、あなた……。この部屋に来て泣きだす人や呆然とする人、無気力そうな人は数多く見てきたけど、文句を言ったのはあなたが初めてよ」


 面白そうに笑う半分少女グレアモルに九郎は鼻を鳴らす。


「俺は現状に慣れやすい性質たちでね! それに『好意』を向けてるのに手も出さない男ってもんに、女が『愛情』を向けてくれるとも思わねぇ。言うだろうが。Hエッチの後にIあいがあるってよ?」


 九郎は大げさに手を動かしながら現状の不満を表した。


「ますます面白い事を言うのね。気に入ったわ。」

「そりゃどーも。これで後9人分の『愛情』でいーな! 幸先いいぜ。ちくしょう!」


 ふてくされながら軽口を叩く九郎にますます笑みを浮かべた半分少女グレアモルは九郎の額に人差し指を充て、少し困った顔をする。


「残念ながら私たちに『愛』はよく解らないの。でもあなたは本当に気に入ったわ……。

―――だからこれは『愛情』の代わり」


 そう言うと半分少女グレアモルは目を閉じ何か祈るように呟く。


 とたん九郎は体が「ドクン」と脈打つ感覚にとらわれる。なんとも言えない全能感が九郎を包み込む。


「――何を――」


 驚いて自分の体を見渡す九郎に半分少女グレアモルは微笑みながら


「先程あなたに私が授けた神の力ギフト。『超回復』の加護をちょっとだけ強力にしたのよ。私が気に入ったあなたへの贈り物よ」


 そう言いながら半分少女グレアモルは九郎に背を向け元いた場所に戻る。丁度、白い歯車ソリストネが疲れた感を全身で表現しながら戻ってきたので、九郎は何か礼を言うタイミングを逃してばつが悪そうに白い歯車ソリストネに目を向けた。


「………条件付きだけど許可が降りたよ…………」


 疲れ切った声色で白い歯車ソリストネが羊皮紙を九郎に渡す。


「―――条件付きだぁ?」


 羊皮紙を受け取りながら九郎はいぶかしんだ声を上げる。


「――そう……、書いてある通り、キミに本心から体を許しても良いと思う女性が5人現れた時点で、この禁止項目を解除する……。それが僕がなんとか上から引き出せた精一杯……」


 そう言うと白い歯車ソリストネはヘタリと床に落ちる。本当に疲れた様子だ。心なしか羽も減ったような気がする。


(5人か……。英雄になれれば可能――なのか? 街を危機から救って『キャー! 素敵! 抱いてっ!』てなるのか? そんな簡単にはいかねぇよなあ……。――でも数が多けりゃ5人くらいミーハーな奴がいても……)


 意を決して九郎は立ちあがる。

 これ以上ごねて暴れても、譲歩が引き出せるとは思えない。

 逆に御破算にされて、自分の行方が不確かになる方が怖い。


「わかったよ。この条件でやってやるよ。だがもう一つ『神の力ギフト』をくれるって約束はちゃんとはたしてくれよ?」


 転がったソリストネがヨタ付きながら歯車を起こして答える。


「――ああ、ちゃんとキミの望む『神の力ギフト』を授けるよ……」


 力なく起き上がったソリストネは、何とか契約をとれた疲れたサラリーマンに映っていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「それじゃぁ、時間もかかっちゃったし最後の説明だ。

これから僕らはキミを僕らの世界『アクゼリート』に転移させる。場所はランダムだから転移直前にしか分からない。だから、向こうの転移担当者のナビゲートは注意して聞いておいてね。

それから僕からの神の力ギフト。これは転移中にキミの心の中の『一番強い思い』が授けられるようにしておくから、よく考えてね。」


「ああ、了解した」


 短くそう頷く九郎を確認すると白い歯車ソリストネ半分少女グレアモルは大きな丸い魔法陣を展開させる。魔法陣は形を変えながらさらに膨張していき、そして中心部に空間の歪みを発生させた。

 その歪みはやがて九郎を徐々に包み込んで行く。


「じゃあ富士九郎、キミが神の指針クエストを達成できるよう期待してるよ」


「じゃあね九郎。私も期待しているからがんばってね」


 奇妙な天使と死神からの言葉に「まかしとけよ」とでも言うように右手を掲げる。歪みが九郎の倍ほどの大きさになった瞬間、九郎は歪みに飲み込まれるように消えさる。


―――パシュンッ


 弾けるような音とともに白い部屋は静寂に包まれた。





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