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不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第零章  おお〇〇よ!死んでしまうとは情けない!
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第三話  再生



「現状を理解してもらえたみたいだし、次の話に移ろうか」


 半分少女グレアモルの説明が終わると、白い歯車ソリストネがまたせり出してくる。

 自分が説明しようとしていたところを半分少女グレアモルに横取りされた為か、少し不機嫌そうな感じだ。

 ――――歯車に表情は無いが―――



「まずキミがこれから転移する世界『アクゼリート』、僕らの神様がいる世界だね。

 文明はそれ程進んでいる訳では無いね。大体キミのいた世界の中世レベルってところかな?

 あ、でもキミのいた世界より神々の力が強いから、俗に言う『魔法』みたいなものがあるね」


(――なるほど……魔法があるのか……そうすると本当に剣と魔法のファンタジー世界って感じなんか?

 そうすると、今流行りのアニメみたいに『俺Tueee』みたいな?)


 少々、御都合主義ポジティブな未来を夢見ながら、九郎は白い歯車ソリストネの話に耳を傾ける。


「あまり世界について詳しく話すと行った後に知る楽しみが無くなっちゃうだろうし、詳しくはしないね。

 でだ、その世界にキミが行った後、キミがすべき神の指針クエストをまず伝えようと思う」


 そう宣言すると、ソリストネはグレアモルと後ろを向いて何やらこそこそと話しながら何枚かの羊皮紙を見比べだした。


「……コレ大丈夫かなぁ?」

「これは他のでも達成できそう……彼ならこの辺が……」

「―――これかぁ……まぁ、いつも来る奴らよりは可能性ありそうだけどさー……」


 ―――なんとも不安を掻き立てる相談が聞こえてくる……。

 所在なく今は見えない左手の感覚を不思議そうに確かめていた九郎に、話し合いが終わったのか白い歯車ソリストネは一枚の羊皮紙を掲げて咳払いをする。


「―――えー、富士 九郎。汝に我が世界における神の指針を伝える!

  『10人分の真実の愛を集めよ』!!」

「は?」


 高らかに下された宣言に単語のみの疑問の声。


(何言ってんの?)


 九郎は怪訝な顔でソリストネを見上げる。


「おほん、えー『10人分の真実の愛を集めよ』!!」

「そうじゃねえよ! 意味を聞いてんだよ! 大体なんだ『真実の愛』って!? 今さっき女に浮気されて、振られて、死んじまった人間の傷口えぐるような事言ってんじゃねぇ!!!

 それによ! その結果、このバラバラ死体状態の、ゾンビも真っ青なこの姿で誰が愛を囁くんだよ!? 寄ってくんのは精々犬や鴉しかいねーよ!!!」


 九郎は声を荒げてがなりたてる。


「じゃあ先ずその心配を解決してあげましょう」


 ふいに九郎の隣に半分少女グレアモルが寄ると、九郎の潰れた胸に手を当て何やらぶつぶつと呟く。


 ―――赤い空気。

 例えるならそんな風な、赤い粒子のような光が九郎の見えない左手や左足、腹、顔、右腕に絡みつく。


 程なくして九郎の体に異変が起こる。

 見えない左手から骨が伸びるように生成され、筋、筋肉、皮膚と現れてくる。

 さながら映画の『透明人間』を逆再生したかのように九郎の体が元に戻り、ものの1分程度で九郎の見慣れた体が現れる。


 ついぞがなり立てていたことも忘れ、九郎は見慣れた自分の腕をぺたぺたと触る


「すげぇな……これが魔法てやつか……」

「………違うわ。これは私の神からの贈り物ギフト。先渡しになっちゃったけど驚いた?」


 そう答えてグレアモルは薄く微笑む。


 ――――神の力ギフト―――

 成程、確かに凄い力だ……。1秒後には死ぬと宣言された体。その状態からの復活。まさに神の力と言い得て良い。人生を続けない? と言ったグレアモルはその言葉通り九郎を死から甦らせたのだから……。


「えー。グレアモルずるい! せっかく僕がらして復活させようと思ってたのにー。まーた話の腰おっちゃうしさー」


 ソリストネはまたも不満気に翼をばたつかせる。

 どうもこの歯車の形をした天使はおしゃべり好きな性格のようだ。

 九郎は自分の掌の感触を確かめながら、ソリストネに向き直る。


「あー悪い悪い。しかしすげえな、神の力ギフト。けどソリストネ。最初の質問には答えてねーぞ?

 『真実の愛』てなんだよ? しかも10人分て。ハーレムでも作れってか?」


「ん~。あながち間違っちゃいないんだろうけど……」


 ソリストネは翼を器用に絡ませ、腕組みを形づくりながら言い淀む。


「この神の指針クエストってのはさ。言うなれば神様が僕たち天使や死神に授ける発注書みたいなものなんだ」


 ソリストネが言うには、天使や死神は世界そのものには干渉できない決まりになっているそうだ。。

 唯一関われるのは死に行く直前の魂だけ。

 しかし魂の殆んどは既に行き先が決まっていて彼らに手出しは出来ない。

 だが行き先が決まらなかった魂。九郎のように、善行と悪行が吊りあってしまったニュートラルな魂は、続きの生を与えることで続きの人生の前に彼らが関わることができる。

 そこでそういった人間に力を授けて、『神の指針クエスト』を捌いているらしい。


「分かり易く言うと神様が親会社。僕たちが子会社。そんでキミ達がその社員って考えればわかり易いかな?」


 身も蓋もない例え話で説明をするソリストネ。


「そんで先の質問。『真実の愛』とは何かって事だけど……。これは申し訳ないんだけど僕らにもよく解らない。『純粋な好意』みたいなものだとは思ってはいるんだけど。だからそういった、皆に愛される英雄! みたいになればいいんじゃないかなぁ……」


 なんともフワフワとした指示もあったもんだ。しかし、先の説明からまた疑問が一つ生まれる。


「じゃあ別のもっとわかり易い『神の指針クエスト』でいーじゃん? 話聞く限りお前らは神様からの指示を俺らに振り分けてんだろ? だったらもっと分かり易い別のをくれよ」


 九郎の意見にソリストネは肩をすくめるように翼を動かす。


「その辺はこっちの都合もあるから言いにくいんだけど……。キミはさ、見た目も悪くないし、歳も若い。キミならこの神の指針クエストを達成できると思ったんだよ!」


 九郎の言葉にソリストネは身を乗り出すようにして捲し立ててくる。

 

「さっきグレアモルが話したように、この部屋に来る魂ってのはさ、だいたい何もしてこなかったニート人間か、仕事に疲れたワープア人間か、人と話すことの出コミュしょう来ない人間がほとんどなんだだ。

 その点キミはモテそうだよね? 背も高いしカッコ良いし! 性格も明るそうだし、この部屋に来る魂の中でまれに見る逸材なんだ。

 大丈夫! キミなら出来るって! お願いだよ。特別に! そう! 特別に僕からもう一つ『神の贈り物ギフト』をあげるからさぁ。ね?」


 ―――必死だ……それはもう新聞の勧誘ごとき必死さだ。洗剤と同じ扱いで『神の贈り物ギフト』を持ち出すのはどうかと思うが……。


(こいつらはこいつらで苦労してんのかなぁ……)


 凄い勢いで持て囃されて、半ば呆れて九郎は溜息を吐く。

 初対面の相手にここまで誉めそやされると悪い気はしない。


「わーったよ。どの道この部屋でぐちゃぐちゃ言ってても始まらなさそうだし、続きの人生ってのは確かに魅力だしな。振られたばっかの俺には、ちと心に痛えもんがあるが……。但し、その『神の指針クエスト』を受ける前に確認しときたいことがある」


「うんうん! 受けてくれるなら何だって確認してよ」


 ソリストネは喜色溢れる声でガクガクと歯車を回転させる。


(―――ソリストネこいつ……表情読めねえから、いまいち騙されているようで怖ぇしな……)


 声色から感情が見え隠れしているが、流石に歯車の表情など分かる筈も無い。

 九郎はここが山場だと感じて、舐められない様心を強く持ち直す。


「まずは報酬の話だ。俺がその『神の指針クエスト』を達成できたらどうなるんだ?

 言っちゃなんだが死ぬ直前からグレアモルの『神の力ギフト』で元の姿に戻ってるが、お前らにとっちゃ俺の魂がどっちの神に行くかを決める事がこの話しの要だろ?

 だとすると、俺はその神の指針クエストを達成したら死んじまうんじゃね?

 そういう事だと、俺は死ぬために神の指針クエストを遂行することになる。

 そんなんじゃ、やる気も起きねえ」


「ああ。もっともな考えだね。安心するといいよ。もしキミが『神の指針クエスト』を達成できたら、そうだね、僕らは達成までのキミの魂の傾きで行き先を見ることにするよ。

 その後、キミが残りの人生をどう過ごしても僕らは関与しない。だからキミは『今回の死』を無かった事・・・・・にしてその後の人生を歩める。これでどうかな?」


 ―――死ぬ運命にあった自分がよみがえり、この先の人生を歩める―――

 確かに報酬としては上々だ。生きていく為にがんばるのであれば……と九郎は頷く。


「次の質問だ。俺はそっちの世界で10人から惚れられなきゃならねえって話だ。

 そうなるとただ単に生活してただけじゃ、絶世の美男子でもなけりゃ無理って話になる。

 だから、お前も言ったように『愛される英雄』みたいになんなきゃならねえ。

 女は金にも寄ってはくるだろうが今回の『真実の愛』てなると、金に寄ってくる女は違うだろうし……。

 そう考えると俺にはちょっと荷が重い。

 喧嘩できねえって訳じゃないけど『英雄』なんてはまがりなりにも呼べねえ一般庶民だ。そこんとこはどうなるんだ?」


 続けて問う九郎に白い歯車ソリストネは答える。


「そのへんは大丈夫さ。さっき言ったでしょ? ――キミにはもう一つ神の力ギフトをあげるって。

 せっかく難しい『神の指針クエスト』を受けてくれるキミにサービスしよう!

 望むもの! キミの望む『神の力ギフト』を僕から授けることにするよ! だったら大丈夫でしょ?

 それこそ最強の『英雄』にだってなれるんじゃないかな?」


 先程描いていた御都合主義ポジティブな未来が現実味を帯びてきて九郎の頬がゆるむ。


(――――この条件ならいける!!!)


九郎はそう確信し、


「わかった! やってやろうじゃねぇか、その『神の指針クエスト』!」


そう高らかに宣言した。







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