表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第壱章   青年は荒野に逝く
24/30

第二五話  生者の行進



6日目



「……ん~……なんか硬いのが難点よねー」


 ベルフラムがミミズの切れ端に歯を立てながら不満を漏らす。


(逞しくなったと思うべきか、荒んだと嘆くべきか……)


 九郎はその光景に苦笑しながら立ち上がる。


(ま、なんか吹っ切れたみたいだし、いいか)


「そろそろ行くぞ? 負ぶってくか?」


 九郎の問いかけにベルフラムは首を横に振ると、ミミズの肉を口に詰め込み立ち上がる。


「ふろうこひょ、ふぇんふぇん食ふぇてなひひゃない」

「何言っているか解んねえよ。ちゃんと食ってから話せ」


 動き出した九郎の後をベルフラムが追いかける。


「ん、ん。もう! クロウこそ全然食べて無いじゃない! 私より体が大きいんだからちゃんと食べないとダメよ?」

「俺も食ってるよっ! 早食いなんだよ、俺は! ったく、子供はそんな心配しなくても良いんだよ!」


 そう言って九郎はベルフラムの頭をワシャワシャ撫でる。


「もうっ! いつも子ども扱いするっ!」


 九郎の手を払いのけながらベルフラムが文句を言う。


「今日は何か見つかると良いんだけどなー」


天気の話でもするように九郎はのんびりと呟く。


「そうねぇ……。ミミズも少なくなってきたものね……」


 九郎の肩に掛かるミミズを見ながらベルフラムも頷く。


「でも、私もう家が落ちぶれても生きていける気がするわっ!」


 自慢げに笑顔を向けるベルフラムに、九郎はもう一度苦笑する。


 洞窟は未だ先の見えない暗闇を映していた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



8日目



「ねえ、クロウー……。これ食べれると思う?」


 ベルフラムが小さな木の枝で生き物をつついている。


「ん~……蝦蛄シャコみたいだしイケそうだなー………」


 九郎がその生き物を掴み首を捻る。


「とりあえず捌いてみっか!」

「そうね。昨日は何も食べれなかったから、食べれると良いんだけど………」

「しっかし、どう捌くんだこいつ……」


 拳大くらいの大きさの螻蛄オケラだ。――見た目は虫だが、エビやカニも初見では食べようとも思わない形だし――と九郎が悩む。


「焼いちゃえば?」

「そだなー……」


 ―――本当に逞しくなって来たな――――とベルフラムを見ながら九郎は木切れに火を点ける。螻蛄はナッツの味がして結構旨かった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



11日目



「ねえクロウ………」

「んー………?」


 暗闇の中、九郎の腕の中でベルフラムが小さい声で呟く。

 ――いったいどのくらい歩いたのか、九郎も解らなくなって来ていた。

 時間も、多分正確では無いだろう。

 起きて、歩いて、寝る。

 暗闇の中で寄り添うように寝るベルフラムがポソリと言った。


「私ちゃんと帰れるのかなあ……」


 声が少し震えている。当然だろうと九郎も思う。

 先の見えない暗闇の中の行進。大人の男の九郎でさえ、心細い。


「心配すんなって……。ちゃんと家まで送り届けてやんよ」

「……そうよね……ここまで歩いたんだもの……もう少しよね………」


 ベルフラムの背中を軽く叩きながら、九郎は何度目かの言葉を口にする。

 ベルフラムも自分を奮い立たせるように呟くと目を閉じた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



15日目



「ねえ、久しぶりの食べ物ね!」


 ベルフラムの喜んだ声に九郎は答える。


「しばらくは持ちそうだなっ!」


 九郎の腕には、頭を落とされた大きめの蛇がのたくっている。


「クロウの言ってた通り、蛇が一番のご馳走になっちゃったね?」


 ベルフラムの言葉に九郎は複雑そうな顔をする。


「あー、俺は螻蛄オケラの方が好きかな~……」

「一昨日の幼虫は不味かったもんね?」


 ―――丸2日振りの食事だ。九郎は慎重に蛇を捌くと、焼きはじめる。


「今考えると、お肉って美味しかったのねー」


 肉の焼ける匂いにベルフラムが感想を述べる。


(―――大分やつれて来た……。どこまで続いてやがんだ、この穴は……)


 九郎の頭に焦りが出てきていた。


(暗闇を進むのも、もう2週間だ。ベルフラムも強がっちゃいるが、限界に近い……)


 九郎はそんな考えを悟られないように努めて明るく答える。


「今考えなくてもうめえよっ!」


 穴の先は未だ見えない。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



16日目



「ふうっ。ごちそうさまっ……」


 ベルフラムが九郎の指から口を放す。

 飲んでいた水をふき取りながら、ベルフラムが九郎に問いかける。


 水はあれから降っては来ていない。

 しかし、九郎はあの時大量の水を削り取っている。


(水の心配はねえ……)


 九郎はそう考えながらベルフラムの頭を軽くなでる。


「今日は負ぶってくから――、楽さしてやんぜ?」

「またそうやって子供扱いする……」

「うっせ! たまには大人に格好つけさせろっ!」

「もーしょうがない大人ね。」


 そう言ってベルフラムは九郎の背中におぶさる。

 九郎は軽々とベルフラムを背負うと歩きはじめる。

 最近は2日に1日はベルフラムを背負いながら歩くことにしている。

 歩幅も体力も違うのだ。ベルフラムがいくら強がっていても、体力が持たない。


「寝ててもいいぞー」

「でも私が寝たら灯りが消えちゃうじゃない……」


 ベルフラムの心配に九郎がかぶりを振る。


「よくよく考えて見りゃあ、一本道で障害物もねえし問題ねえよっ!」


 九郎の首に抱きつきながら、ベルフラムが少し拗ねた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



17日目



 足裏から伝わる感触の変化に、九郎は辺りを見回す。

 後ろを歩くベルフラムから、カツン、カツンと硬質な物を叩く音がする。


 今まで土の床だった洞窟が岩に変わっていた。


「前より歩き易くなったわね」


 ベルフラムがそんな感想を漏らす。

 だが、前を歩く九郎の顔は焦りの色が色濃く出始めていた。

 悪い予感が九郎を苛んでいた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



18日目



 九郎は暗闇の中を歩く。

 背中ではベルフラムが静かな寝息を立てている。

 軽くベルフラムを背負い直すと、九郎は暗闇の先を見据えて歩き出す。


 悪い予感は現実味を帯びてきていた。


 この岩の洞窟に差し掛かってから、九郎は動く物を見ていない・・・・・・・・

 岩盤を削り取ったような巨大な洞窟には、生物の気配がまるで存在していない。

 焦りに九郎は無意識に足を速める。


 ベルフラムが摂った食べ物は、昨日で最後だ……。

 九郎自身が物を食べたのはどれほど前だったか……。

 九郎は暗闇を歩きはじめてから殆んどモノを口にしていない。


(俺は食わなくても死なない・・・・し動くことも出来る……)


 飢餓感には苛まれるが、九郎は餓死する事は無い。

 それはこの世界に来てから、早い段階で証明された事だ。


(急がないと……)


 九郎は暗闇の先を見つめて歩き続ける。


   キュ~クルルル


 暗闇の中、場違いな音が響く。


(死なねえのに腹は鳴んのかよっ……)


 九郎が拳で軽く胃の辺りを殴る。背中でベルフラムがひとつ身じろぎをして、消え入りそうな声で九郎に問いかける。


「…………聞こえた?」

「……いや、聞こえてねえよ?」

「………しっかり聞いてるじゃないの……」


 ベルフラムが羞恥に九郎の背中に顔を埋める。

 九郎はベルフラムを背中から下ろすと、左手のみで九郎の胸まで抱き上げる。


「……どうしたのよ……」


 九郎の腕の中で訝しがるベルフラムに右手の指を当てがう。

 唇に当たる指の感触にベルフラムは何も言わず、指を口に含む。


「……………甘いね」


 九郎の右手を両手で抱え、指を吸っていたベルフラムが顔を上げて、その後恥ずかしそうに呟いた。


「……でも私、赤ちゃんに戻ったみたい………。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ