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不死者(ノスフェラトウ)に愛の手を!  作者: 赤丸そふと
第零章  おお〇〇よ!死んでしまうとは情けない!
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第二話 1秒後の死亡宣告



「・・・・え~・・・じゃん・・・・おも・・・・な・・・さぁ」

「そ・・・・・・?う・・・・あ・・・ほか・・・・・・し・・・・・」


 子供のような声と老婆のような声を遠くに聞きつつ、大学生 富士 九郎は頭に霞のかかるような感覚で目を開いた。


「ここは…………?」


 焦点の合わない妙な錯覚に(おちい)り右手で眉間に手を充てる。


「………うん?!?!?!」


 ふと不思議な感覚に驚き左目を擦ろうとして、驚愕する。

左目が無かったのだ。いや無かった訳では無く、あろうはずの場所(・・・・・・・・)に無かったのだ。

九郎の左目は顔の表面にはなく後頭部の方に押しつぶされて(・・・・・・・)其処にあった。


「!?うわぁぁぁぁ!!!!」


 九郎は驚きの声を上げ後ずさろうとしてひっくり返った。そしてパニックに成りながら、体を見渡した。


 左手は無かった。

 肩口は上腕にやけに大きいタイヤの跡が走っていて、Tシャツから覗いた腕が引き千切られたかのように先が無かった。

 右足も無かった。

 ハーフパンツから伸びる筈の右足はちょうど膝あたりで無くなっている。

 腹部は胸から下がやけに薄っぺらい。左腹を見ると何やら大きな穴が開いていて中身が無くなっている。

 右足はあった。

 右手はさらに不可解だった。

 手首より先はあったのだが、腕部分が無いのだ。右手は動くのに腕が無い(・・・・)

 切断されたように浮いている右手。断面には皮の下は黄味がかった白い脂肪と赤い筋肉が、骨の周りに着いているのが見て取れる。


(死んじまったんかぁ……俺……)


あまりにも非現実な自分の姿に九郎は仰向けに倒れ輝くような天井を見上げた。




「そろそろ落ち着いた?」


 子供のような甲高い声がしてそちらを見やると白い翼を持った大きな歯車がゆっくりと回転している。

 今の声はこの奇妙な歯車から聞こえてきたようだが……。


「結構慌てるかと思ったけど、立ち直りが早いね。キミ」


 歯車はカラカラと(わら)う。

 現実にはありえない光景。夢の中にいるような奇妙な、ふわふわとした感覚。先程確認した己の酷い体。

 九郎は早々と深く考えてもさっぱりだと熟考を放棄し、歯車から声がしている不思議を受け入れる。


(―――――どっから声出してんだよ……こいつ?)


 九郎は投げやりに胡乱気な視線を歯車に向ける。


「まあ流石にこんな体で生きてるはずがねえし」


 歯車はさらにカラカラと回転しながら笑うと


「まあそうだろうねぇ。左頭部陥没、左腕欠損、左足欠損、内臓破裂、右腕欠損、その他もろもろ……こんな体で生きてたらびっくりするよね。戦場でもめったに見ないバラバラ具合だ」


 ことさら楽しそうな声色で歯車は回っている。


「んじゃ、ここはあの世って訳か……あっけねぇもんだな……」


 九郎はため息を()きながら天井を仰いだ。最後に見た光景と言えば白く眩しい光と、耳に残るブレーキ音。ああ、あの時車にでもかれて俺はここに来ちまったのか……。


「ここは天国なんか? 地獄に落とされるような悪さはした覚えが無いから大丈夫だとは思うんだが……」


「ところがそう上手くも行かなくてね」


 しゃがれた老婆の様な声で部屋のもう一人? が答える。

 こちらはハロウィンの時に見かけるような黒いフード付きの服を着た少女のようなものだった。

 ような(・・・)と表現したのには理由が有り、少女の半分は老婆であったからだ。

「可憐な」と表現しても良いほどの愛らしい顔と皺が刻まれ今にも老衰しそうな顔が丁度半分ずつで合わさっているような奇妙な顔だ。

 平時で見たら悲鳴のひとつも上げそうな出で立ちだが、それを言ったら今の自分も大概だ。

 しかし、天国行きで無いと聞かされ九郎は少し焦って取り繕う。


「ええっ!? そんな悪い事して無いっスよ?俺、そんな『良い子』でも無かったかも知れないっすけど、人様に迷惑かけたことも無いはずっす!」


 敬語にもなってない、しかしなるだけ悪感情を抱かせないよう精一杯、丁寧口調で抗議する。


「そうなんだよねぇ。それが問題でさあ」


 しゃがれた声で少女が九郎に向って茶色い何かを放り投げた。

 放り投げられた物を手首だけの右手で受け取った九郎はソレを見た。


 ソレは何かの革で出来た紙のようなものだった。羊皮紙と呼ばれるような紙には不思議な文字が書いてある。

 理解出来るはずのない文字であったが、どう謂う訳か九郎に読むことができ、不思議に思いつつ内容を見てみる。羊皮紙には九郎の名前、生年月日、身長、体重、視力等が記載されていて、他にも性交の有無や善行、悪行が事細かに記載されていた。そして羊皮紙の最後に大きく±プラマイ(ゼロ)と書きなぐられていた。


「見ての通りキミは善行と悪行が釣り合ってしまっててね……行き先が決まらないんだ」


 少女のような老婆は左手と右手を交互に見ると天秤のようにしてみせた。


「んなっ!! じゃ、じゃあ俺は浮遊霊か地縛霊みたいになるんすかっ?!?」


 慌てて問いかけると、少女(半分老婆)はニコリと微笑み仰々しく手をひろげながら、こう続けた。


「落ち着きなよ、富士九郎。それは私達も望んでいないわ。そこで提案なのだけれどももう少しやってみない(・・・・・・・・・・)? 人生ってやつをね(・・・・・・・)?」




  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





「急な話だから説明しないとね。混乱しちゃうでしょ? ほらそこのひっくり返ってる椅子にでも座りなよ。 もう立ち上がれる(・・・・・・・・)でしょ?」


 白い翼の歯車はそう言って、翼で九郎の前を指した。

 其処には部屋の色と同じ、真っ白な椅子が転がっている。


(さっきひっくり返ったのは椅子に座ってたからか。てかこの歯車、右足だけでどう立つんだよ!? 今の俺は某不倫不満足さん一歩手前だぞっ!?)


 もぞもぞと体を曲げ右膝を立てる。だが片足のみで立ち上がれるほど九郎はこの現状すがたに慣れていない。バランスを崩し左手をついた(・・・・・・)

 ハッとした九郎は左手を見たが、そこに見慣れた左手は無く、しかし感覚だけは元の左手の感覚がしっかりとあった。左足も見えないだけでちゃんと其処に有るように白い床の感覚を靴越しに伝えている。


「なんか妙な気分だ……」


 九郎は呟きながら白い床に倒れている椅子を手で持ち上げて直すと、のろのろと腰かける。


「そのうち元の姿に戻れるさ。改めて自己紹介しよう、富士 九郎。僕の名前はソリストネ。こちらで言うと第八異界、アクゼリートで死者の魂を天上に送る役目を担っている大天使さ」

「私の名前はグレアモル。死神よ。同じくアクゼリートの地獄への魂の導き手。よろしくね。」

「聞いたことも無い天使と死神だな。大体、アクゼリートとか何処だよそれ……」


 訳が分からない名称に半ば捨て鉢になって来た九郎は、元の口調に戻りつつそう聞き返す。

 

「そうだね。解らないだろうね。だから説明するね」


 白い歯車(ソリストネ)は縦に横にと回転しながら言葉を続ける。


「まずキミのいる場所、ココ!此処は何て言えばいいかなー。んー……そうっ! 案内所! 魂の案内所みたいな所さ。此処は死の直前に魂が来る場所なんだ」


 そう言って白い歯車(ソリストネ)は翼を九郎に向ける。


「死の直前って…………俺まだ死んでねえのかよ?!」

「1秒後には死ぬけどねー」


 驚愕の声を上げた九郎に身も蓋も無い答えが返ってくる。


「そして僕達。キミには聞いたことも無い天使と死神。其処の辺も説明するね」


 白い歯車ソリストネはクルクルと回りながら、羽を使って身振り手振りを加えて話す。


 説明によると、死んだ魂はその魂が信仰している神の下で裁かれて、魂が信仰している地獄か天国に送られるそうだ。

 だが日本人、特に最近の日本人は信仰している神が居ない。

 所謂いわゆる無神論者かと言うとそうでは無いらしい。

 隣の国、中華人民共和国は、そのほとんどが無神論者だが日本人は少し毛色が違うと言う。


「日本人はさ、神を信仰していない(・・・・・・・・・)のに神はいる(・・・・・・)のだ(・・)と信じているんだ」

「あ゛~……」


 九郎は一気に捲くしかけてきたソリストネの言葉に、なんとなくではあるが納得していた。

 クリスマスだの正月だのと楽しんではいるが別段、キリスト教徒でも仏教徒でもない。だからと言って(ただ)単に、商業的なイベントだと割り切っている訳でもない。

 墓石に粗相をする等怖くて出来ないし、悪いことをしようとする時には、誰かが見ているようで躊躇してやらない。神頼みと祈る事は有るのに、どの神に祈っているのか自分自身が分かっていない。

 日本の文化にまで根付いた八百万の信仰は、不確かな形で確実に存在している。


「それでね、そういった神を信じているのに(・・・・・・・・・)どの神も信仰(・・・・・・)していない魂(・・・・・・)はさ、全ての神で持ち回りで獲得できるようになってるんだ。

 地球上だけで無く、『全ての世界』でさ。だから今回のキミの魂はアクゼリートの天使である僕、ソリストネと」


「アクゼリートの死神であるわたし、グレアモルが担当するの」


 そう告げながら白い歯車(ソリストネ)半分少女半分老婆(グレアモル)は九郎に向き直る。


「………そんで俺どっちに行くの?」


「そこなん

「そこが問題なのよ」


 白い歯車(ソリストネ)の言葉に被せ気味に半分少女(グレアモル)が答える。


「通常死に行く魂はその魂が持つ善行か悪行かのどちらかに偏っているものなのよ。善に偏っていれば天国に、悪に偏っていれば地獄に来ることになるわ。

 でも富士 九郎。あなたの魂は丁度で釣り合ってしまっているの。善行と悪行が半々」


 半分少女(グレアモルが言うには、九郎がこの場所に来た理由。

 善行と悪行の釣り合いが原因らしい。


 通常なら滅多に起こらない事らしいが、だが全く無い訳でも無いそうだ。

 何もしていなか(ニート)った者なんかはその行動範囲が限られ過ぎているが為に、この場所に来る率が多いと言う。


 転生物の主人公にニートが多い理由を聞かされて、九郎はどうリアクションをして良いのか迷う。


「で、こういった場合その魂は別の世界に連れて行って、もう少し人生の続きをしてもらうことにしているのよ。

 その結果、魂が善に寄るか、悪に寄るかを見るわけね。

 ここまでは理解してもらえたかしら?」

「――――はぁ……」


 要はロスタイムのようなものかと考えながら九郎は気の抜けた返事をする。


「……ちゃんと聞いてる? そして連れて行った世界で神からの力『ギフト』を与えて、人生の指針『クエスト』を受けてもらうの。連れて行った世界でまた何もせずに終わっちゃったら、此方も困ってしまうからね。

 神からの力(ギフト)を与えて、人生の指針(クエスト)を達成すれば良くも悪くも波瀾万丈になるだろうから、また釣り合ってしまうことは無いだろうしね」


 説明終わり。とばかりに九郎に目をやる半分少女グレアモル


「―――あーー、そのつまり、現在、俺の魂はお二人さんの世界の天国か地獄に行き先が決まっていて、だがどちらにも傾いていない…と。それで『ギフト』とか言うドーピングをしてそっちの世界に放り込む。

 で、『クエスト』とやらを達成するころには行き先が決まる程度には傾いているだろ・・・・てことか?

この認識であってる?」


「理解が早くて助かるよ」


 噛み砕いた感じで尋ねる九郎に半分少女グレアモルは満足した笑みを浮かべた。




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