勘違い?
「新島?」
どうにもならなくて、そのままでいると、階段の上からあたしを呼ぶ声がした。
「 ――― 高宮くん?」
絶対にありえない。
ここは、普段人が通らない階段なのだ。
その上、彼はあたしを嫌っているはずで、こんな風に、心配そうに顔を覗き込んだりも絶対にしない。
そうは思うのだけど、それでも、目の前に居るのは、高宮くん以外の誰にも見えなくて混乱する。
「大丈夫か? 具合悪いんだったら、無理しないで保健室に居た方がいいんじゃ……?」
座り込んでいるあたしの肩を掴んで、付き添うように歩き出そうとする高宮くんに、あたしは意を決して顔をあげた。
「高宮くん、嫌いな人にまで優しくする必要、ないと思う」
「…………は?」
「さっき、言ってたじゃない。あたしが階段で転びそうになったときに……『落ちれば良かったのに』って」
気まずい時間が流れる。
黙っていればよかったのかもしれない。気が付かない振りをして、優しくしてもらえばよ良かったのかもしれない。
そうは思うけれど、高宮くんに無理をしてほしくはなかった。
スッと、高宮くんの手が、肩から離れるのを見て、冷静になる。
(やっぱり。……優しいのも、困りものだよねぇ)
そのまま、何かを振り切るようあたしは、階段を駆け上る。と、上に到着するかどうかのところで、呼び止められた。
「新島!」
切羽詰った高宮くんの声に、ビクッと身体を震わせた後、おそるおそる後ろを振り返る。
「……なに?」
「さっきの……『落ちれば良かったのに』って言ったことだけどっ!」
とても言いにくそうに。だけど、早く言おうと急いて、高宮くんは言葉を続ける。
「……そういう意味で言ったんじゃないんだ」
少し困ったような顔をした彼に、あたしも困って首を傾げる。
(じゃぁ、どういう意味だったの?)
「そういう意味にしか聞こえなかったよ?」
「うん、普通に聞けば、そういう意味に取られても仕方ないと思うんだけど……」
そこで言葉を切って、高宮くんは、階段の上の方にいるあたしをグッと見上げた。
「さっき。俺、ここに居たんだよ」
「え?」
どういうことだかわかってないあたしにもう一度、
「だから! 新島が階段から落ちそうになってたとき、俺は新島のすぐ後ろに居たんだってば」
新島が落ちても、すぐに支えられるところに。
「だから『落ちればよかったのに』っていうのは、そうなれば、新島と話すきかっけが出来るかなとか。……抱き留められないかな、とか、そこから新島が俺のこと意識してくれないかなとか、打算的なことを考えて言ったんであって、新島のことが嫌いだから言ったんじゃないんだよ」
高宮くんは、ここまで言ったらもういいや、と、言いにくそうだったのが嘘のようにすらすらと言葉を連ねて、そのまま階段を上がってくる。一歩一歩近づいてくる彼に呆然をしていると、ようやくあたしの隣に並んだ高宮くんは、とどめの一言を口にした。
「というわけだから、好きな人にだったら優しくしても問題ないと思うんだけど?」
そう言われて、すぐに言葉が出なかったあたしを、誰が責められるだろうか。
具合が悪いわけではないのかと高宮くんが再度問いただすまで、階段立ち止まるあたしの耳には、次の授業のチャイムも聞こえなかった。
前後編、としても良かったかなぁ。
サブタイトル書くの、苦手だなぁ。