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階段  作者: 夢積 涼香
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聞き間違い?

 授業に遅れそうになって、階段を駆け上がる。

 「リッカーっ! 早く早くっ!!」

 一足早く4階に辿りついた葉子ちゃんが急かす。

 それに慌てたのがいけなかったのかもしれない。

 「うわっ」

 4階にたどり着く途中で、思わず足がもつれる。

 (ここで転ぶのは嫌っ!!)

 「リッカ?!」

 頭上から葉子ちゃんの慌てた声が聞こえて、一瞬、胸が危機感に埋め尽くされたけれど。なんとか手すりに手を伸ばして、階段を転げ落ちる事態だけは避ける。


 自分の身体が急激な落下から止まったことを確認して、体勢を立て直す。

 あたしと同じように、4階へと向かっていた生徒も、何も無かったかのように歩き出す。


 「大丈夫?」

 「うん。あー、怖かった。落ちるかと思ったよ」

 「こっちもビックリしたよ。リッカが階段転げ落ちるかと思った」


 駆け足で葉子ちゃんの隣に並び、音楽室へと向かう。

 後ろからバタバタと駆け上がってきた男子に追い越されながら、あたしたちも急ぐ。


 「……落ちれば良かったのに」


 そんな言葉が聞こえてきたのは、音楽室の扉に手をかけると同時で。

 しかも、始業を告げるチャイムが鳴り響く中だった。

 (え?)

 後ろを振り向くことが怖くて、そのまま何事もなかったかのように席に着く。

 (……今の、あたしのことだよね?)

 さっきの声は低く、小さなものだったけれど、それでも、彼の声にはよく耳を澄ましているから、聞き間違いをしたなんてありえない。

 

 案の定、あたしたちの後ろから音楽室に入ってきたのは、

 高宮和志。


 ―――――あたしの好きな人だった。


『落ちれば良かったのに』


 その一言が、頭にこびりついて離れない。

 (何か、高宮くんに悪いことしたかな?)

 普段話しもしない、クラスメイトということ意外なんの接点もない彼に、嫌われるようなことをした覚えはない。

 (もしかして、気づかれないように見てたのが実はバレてたとか?)

 そうだったら、ショックだ。ただ見ていただけで、そんなことを言われるなんて。

 (明らかな拒絶だよね? あれは……)


 「リッカ? どしたの? 元気ないよ??」

 いくら表面を取り繕おうとしても、上手くできないらしい。

 音楽室からの帰り道で、葉子ちゃんが心配そうにこちらを振り返る。

 (でもなぁ。葉子ちゃんに言ったら、きっと高宮くんのところに怒鳴りに行っちゃうもんなぁ)

 今でも、充分嫌われているのだろうけれど、これ以上嫌われるのは、もっと嫌だ。

 「……ん。さっきからちょっと頭痛がして」

 なんでもないと答えるより、体調が悪いことにしてしまった方が、無理に問いただされなくて良い。そう考えると、あたしはちょっと顔を俯かせてみる。

 「大丈夫? 保健室とか行かなくて平気?」

 よっぽど、顔色が悪かったんだろうか。

 あたしの言葉を信じた葉子ちゃんは、そのままあたしを保健室へと連れて行ってしまった。

 

 (次の授業、確か小テストがあったんだけどなぁ)

 一瞬、そんな現実的なことがあたしの頭をよぎったけれど、あたしは素直に甘えて保健室で休むことにしたのだった。


 「失礼しました」

 保健の先生にそう挨拶して保健室を出る。

 いくらなんでも、何時間も保健室のお世話になるわけにはいかないし、明日も明後日も高宮くんとは顔を合わせるのだから、避けるわけにもいかない。

 (でも、結構無意識に視線で追っちゃうこともあるからなぁ。注意しないと)

 

 (…………いっそのこと、落ちちゃえば良いのかなぁ)

 階段からあたしが落ちたと聞けば、彼の気も少しは治まるだろうか。

 休み時間になっても、保健室のある東階段は、用のある生徒しか通らない。だから、あたしが自作自演で落ちるシーンを演じても、誰もそれを見咎めることはない。落ちた後の言い訳も、めまいがしたとかで充分にごまかせる。

 そんなことできるわけもないのに、無茶な考えが浮かんできて、泣きたくなった。そんな自分が情けなくなって、階段の途中でしゃがみ込む。

月間少女漫画によくある(?)読み切りみたいな雰囲気を目指したもの。

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