旅支度と
婚約者の件から3ヶ月、帝国からの返事が来た。皇帝が一度会ってみたいと書状には書いてあり、二週間後に来るようにとのことだった。移動は馬車で遅くても一週間程度なので十分用意の時間はある。了解の返事をし、準備を進めた。途中途中は町によりつつ、なるべく野宿のないように地図で経路を決め、3日前くらいには帝都にはついておきたい。そんな話をバルトと打ち合わせしているとき、扉を勢いよく開けてアルが入ってきた。
「ベオ義兄さん、いったいどういうことですか?」
机に近いてきたらバン!と両手で机を叩く。
「?、どういうこともなにも帝都へ向かう準備をしているだけだが?」
「なぜ、ベオ義兄さんが帝都へと赴くのでしょうか?」
あれ?アルもしかして今回帝都にいく理由がわかってないのかと、首を傾げバルトを見ると頷き耳打ちしてきた。
「どうやらアールニス様にはまだ今回の婚約者の件や継承権のことはまだお伝えしていないらしく、国王様や王妃様もどう切りだそうか迷われてたようです。」
「あー、つまり俺が説明しなきゃいけない流れか…」と左手で顔を抑えて溜め息をはく。(3ヶ月何してたんだよ!)と思った。
「あー、アル、今回帝都へ行くのは、顔見せだけですぐ戻ってくる予定だ。」
「いえ、それはいいのですが理由が知りたいのです。」
「それは…娘の婿に相応しいかどうか見たいだけなんじゃないか?」
「…義兄さんはこの国の王になられるのですよね?でしたら皇帝の娘を王妃に貰われるのですか。それなら納得も出来ますが…」
「まだ国王は俺を時期国王に使命してないぞ?それに時期国王はアルかクリスのどちらかだ。俺は既に辞退している。」
「!!そんな………本気で仰っているのですか!?」
アルが驚愕を受けた顔をし、俺の肩を揺さぶる。ガクガクと頭が揺れる、あまり揺さぶりすぎないでくれ吐きそう…「うぷっ…」と声に出すと手を止め慌てて「あ、す、すみません!」と謝る。深呼吸して吐き気を静めてから
「なんだ?王になる自信がないのか…どうするかなぁ、クリスを徹底的に教育して王をしてもらうか?」
「い、いえ、そんなことは…ただ王になるのは義兄さんだと思っていたので取り乱してしまいました。」
アルは慌てふためいて、頭を下げる。
「なら弟妹仲良くこの国をまとめろよ?お前達は中から俺は外から国を守ってやるから」
「義兄さん……わかりました。」
ばっと顔を上げて、しっかり前を見据えた返事をした。
「よし、じゃあ気合い入れにバルト!出発までアルに軽く稽古つけてやってくれ。短期間だし、ハードなのは必要ない。」
「かしこまりました。」
「えっ?あ、あの、稽古って…」
「あぁ、バルトから体術を学んでるんだ。組み手中心だからアルは俺がマスターしてから教える予定だったんだが、どんなものか知っておいた方がいいだろうと思ってな。」
精神的に強くなるんであれば、バルトの稽古は一番効果的だろう。トラウマにならなければ…
「え、義兄さんズルいです。僕に隠して稽古受けてたなんて…」
「んー?まぁ、悪かった。だが、あんまりいいもんじゃないぞ?とりあえずバルト、俺の時のような扱いだけはするなよ?」
「心得ております。アールニス様にあった稽古をご用意しますので」
「それはそれで納得いかないんだけど?」
「辛さはさほどお変わりしませんよ。」
「なら、いい。」とアルの肩に手をおき、「死なないよう頑張れ!」と笑顔を贈る。アルの表情が一変し口が引き吊りながら「え?死ぬような稽古なんですか…?」と答える。
「大丈夫!死にはしない。死にかけるだけだ。」
「え、そ、それって大丈夫って言わないんじゃ…」
「では、行きましょうか。」とバルトがアルを肩に抱え部屋を出る。「あ、あのやっぱり稽古はまた今度で…」と答えるが、「時間がありませんので手短にすみますよ。」とバルトは聞く耳持たず連れていった。さて、それじゃあ、往復してだいたい3週間くらいだろうし、手配や支度を済ませないとな。…すまん、たまには稽古受けずにゆっくりしたいと思ったのは内緒だった。