※05※ビーフチキンズの久しぶりな試合
週末の日曜日。
今日は、草野球の日。
部活動とか正式な野球なんてやる気なんてないが、草野球なら話はまた別。
特に公式試合をするとか、そういうものではない。
俺が今日野球するのは、主におっさん達と。
運動不足解消のために何かしようか。
でも、毎日練習するのは、仕事もあるしんどい。
だから楽しく適当に楽しむために、自分の好きなスポーツをしよう。
だったら、野球だ! っていうコンセプトのもと集まった集団。
大学野球とかでもないし、団体ってほどじゃない。
「よーし。準備運動はこんなものか。とりあえず、みんな守備位置について、ついてー。守備練習しまーす」
「うぃーす」
あずさ屋の父親の呑気な声を背景に、俺達は守備位置につき始める。
ここのメンバーを揃えたのは、あずさの父親。
元々、野球好きなので、友達のおっさんやらを集めてこのチームを作った。
名前は、『ビーフチキンズ』とかいう、頭の悪そうな名前のチーム。
年齢層は、主に、四十代。
完全に一人だけ十代で浮いてしまっているが、俺はまあ、問題ない。
何度も顔合わせしているし、練習にも参加している。
いつもと違う点は、今日は久しぶりの試合ってところだ。
「ファースト」
「バッチコォーイ!」
ノックが始まる。
あずさの父親は打ち分けることができる分、凄いと思う。
高校時代も野球とかやってたんだと思う。
まあ、遅い打球なので、あれぐらいだったらできなくはないが。
「ピッチャー」
「バッチコォーイ!」
野球の花。
9割はピッチャーで試合が決定してしまうともいわれる。
そのピッチャーはというと、俺だ。
ピッチャーフライをぱすんっとグラブでキャッチすると、
「よーし、そろそろ終わりだ。今日の相手チームに挨拶するぞ」
「うぃーす!」
みんなの声がユニゾンする。
相手チームも草野球で、あちらの年齢層もうちと同じくらい。
つまりは、おっさんの集団。
勝ち負けなんてあんまり関係ない。
この緩い感じが結構居心地がいい。
独りで野球練習していることが多いので、こうやってたくさんの人間と『野球』をやれるのは本当に嬉しいし、ワクワクしている。
「今日はよろしく」
「こちらこそ」
あちら側の監督と、あずさの父親が握手する。
二チームが縦に整列している。
人数はどちらも十五人弱ぐらいか。
そこまで多くない。
他の草野球チームだと、三十ぐらいいるところもある。
「ん?」
相手チームに整列していないメンバーがいる。
野球のユニフォームを着ているわけでもなければ、きっと、応援しに来たチームの家族というわけでもない。
二人の女性がベンチに座っている。
そのどちらも見たことがないが、組み合わせがなんだかおかしい。
一人は、金髪ロングで耳にピアス。
別に不良というわけじゃないが、ふんぞり返って座って煙草を吸おうとしている。
それを嗜めるのが、もう一人の、眼鏡を掛けた女性。
これまた変わっていて、パリッとしたキャリアウーマンのようなスーツを着こなしている。
水と油。
まるでタイプの違う二人がいる。
二人とも若くて、二十代か、三十代くらいに見える。
なんか、かなり場違いだ。
キャリアウーマンっぽい人の膝元にはノートパソコンやら、スピードガンやらがある。
なんだろう。
見た目からして、野球道具でも売り捌きに来たんじゃなかって思う。
野球道具の訪問販売員。いや、どちらかというと、保険をすすめてきそうだ。
「じゃあ、始めるぞー」
「うぃーす!」
女性二人がきになるが、そうもいってられない。
試合開始だ。
開始と同時にサイレンでも鳴って欲しいが、そんな設備などない。
掛け声とともに、俺達は守備位置につく。
初回は守備。
攻撃も好きだが、守備はもっと好きだ。
正式な審判はいない。
この回は相手チームがやる。
うちらが攻撃の回は、うちらのチームから審判を出す。
交代交代だ。
ファーストとかには審判がおらず、ホームベースに審判がいるだけ。
まあ、草野球で、そこまで真剣にやってなかったこんなもんだ。
「プレイ!」
審判の掛け声ともに試合が開始される。
キャッチャーのサインを見て、コクン、と頷く。
あまり考えながら投げるタイプじゃない。
頭をからっぽにして、とにかく指示された通りに投げ込む。
それが俺のピッチャーとしてのスタイルだ。
鞭のように腕をしならせ、下から上へ投げる。
身体をぐんと沈ませて投げる。
草野球どころか、プロの試合でも投げる人間が減少していっている。
この投げ方は――
サブマリン投法。