表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えびフライ  作者: 魔桜
1
2/22

※02※あずさ屋での遅すぎる朝シャン

 弁当屋――あずさ屋。

 自分の娘の名前を店につけるぐらい、娘のことを溺愛している。

 それは、あずさ屋の父親も母親もなのだろうが、特に父親の方は娘に甘すぎるような気がする。

「おじさん! またあんたあずさが朝シャンするのとめなかっただろ!? 昨日の夜も風呂に入ったんだろ!? だったら、ちゃんととめろよ!」

「なにをぉ! 綺麗付きなのは悪いことじゃないだろうが! それともあれか? お前の家は夜に入らないとガス代がもったいとか怒られちゃう家なのか!?」

「そういうことじゃねぇよ! 時間だよ! いつもあいつのせいで遅刻しそうになってんだろうが! あんたも父親ならあずさのこととめろよ!」

「…………だって、だって、あずさに嫌われたくないもんっ!」

 なにが、『もん』だ……。

 相変わらず、糞気持ち悪いオヤジだ。

 無精ひげに、十円禿の、確か四十代。

 三段腹で油ぎったチャーシューみたいな人だが、気のいいおっさんという印象。

 あまり他人と深く関わらない俺でも、かなり心を許せている。

 少なくとも、今こんな風に食卓を囲みながら、米粒をその辺に吹き飛ばしちゃうぐらいに仲良い奴はかなり限られている。

 早朝。

 いつもこうしてあずさ屋で朝ご飯をいただくのが日課になっている。

 俺の両親は仕事で忙しい。

 それに母親は料理が致命的に下手で、なかおつ作る気がない人なので、いつもインスタントラーメンか、コンビニ弁当だった。

 それを見かねたおっさんが、『だったら家で朝飯を喰えばいい! 金? そんなもんいらん! どうしてもって言ううなら、うちの弁当を昼飯用に買え! いいんだよ。手間暇のことなら。一人分ぐらいだったら何も変わらな――ってか、かか母ちゃん! おたまで殴りかかってこないで! 悪かったって! 作るのはお前だから勝手に決めるなよってことでしょ! ごめん! ごめん……。……え? 違う? 私だってそのつもりだったのに、俺がかっこつけたのがムカついた!? そ、そんな~』とか、情けない声を上げて、完全に尻に敷かれていた。

 まあ、弁当屋なので、朝出てくるものは実際に売りに出している弁当屋のおかずが多かったりするのだが、温かさが違う。

 できたてだから温かいとかではなく、誰かとこうして飯を食べるという行為そのものが温かい。

 誰かと食べる朝飯がこんなにも美味くなるとは思わなかった。

「……って、うわー。カケル君、相変わらずえびフライ尻尾まで食べてるぅ。俺の喰いきれなかったえびフライの尻尾いる?」

「あんたの唾液のついた尻尾なんているか!? 最初にナイフとかで切り分けとけ!」

 食卓には、弁当屋の定番であるえびフライが複数個並んでいた。

 全部喰いきってやりたいのだが、あずさはまだ朝食を済ませていない。

「ちょっと! あんた! そろそろ手伝ってくれない!?」

「は、はーい!」

 あずさの母親の苛立ち声に、そそくさと夫は食器を片づけ始める。

 基本的にあずさ屋は年中無休。

 たまに企業や学校から弁当の大量の発注がある場合だけ、臨時休業をとる時もあるが、大体毎日営業している。

 土日も休みがない上に、父親と母親で弁当を作っているのだから大変だ。

 バイトの人もたまに雇っているみたいだが、あまり長続きしないらしい。たまに俺も手伝っているのだが、確かに大変だ。

 パンッ! と真理の扉を開けた錬金術師みたいに両手を合わせると、

「ごちそうさまでした!」

 大声で感謝の声を上げる。

 流し台に食器を持っていくと、あずさの父親と母親がきびきびと動いていた。ごちそうさまの一言でも言おうとしたが、どうやら忙しそうだ。

 食器を洗うのは後回し。

 とりあえず、後で洗いやすいように水につけておいて、とりあえず朝から優雅にシャワーを浴びているお姫様に喝を入れてやらねばならない。

「しっかし、あいつもおっせぇーな! シャワーだけにするって言ってただろ。もしかして、湯船につかって鼻歌でも歌ってんじゃねぇーだろうな」

 ガラガラと、脱衣所の扉を横にスライドさせると、

「おい! あずさ! いつまで入って――」


 そこには全裸のあずさが棒立ちになっていた。


 どうやら、つい今しがた風呂から出てきたらしい。

 ショートヘアからは、まだ水滴がついていて艶やか。

 バスタオルを首にかけているが、下半分の胸の輪郭ははっきりと視界に捉えることができた。

「お前、意外に成長しているな。着やせするタイプか? やっぱり高校生になると違うな。Cカップぐらいにはなったか?」

 まな板ぐらいのものだと思っていたが、意外や意外。想像より遥かに大きい。できればもう少し大きいぐらいが個人的には好みだ。

 唖然と見開いていた瞳に、俺の一言でボッ! と炎を灯してしまう。

 ギュッ、とあずさは拳を握る。

 白くて細い腕を振りかぶると、


「こんのお、ど変態がああああああああああああああああああああああああ!」

 

 バスタオルを床に落としながら、握った拳で俺の頬を強打した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ