※01※一世一代の告白のために必要な勝負
私は見てはいけないものを見てしまっていた。
あの時は10歳の時。
だから、5年前か、6年前ぐらいのことだと思う。
とにかく、高校一年の私にとっては、結構昔のこと。小さかったあの時、切り立った崖とはいえない丘の上から目撃してしまったのだ。
「――あずさをかけて勝負だ」
山の上。
鬱蒼と生い茂る木が、すっぽりと私の身体を隠していた。だけど、唐突に自分の名前が叫ばれてしまい、転がり落ちそうになってしまう。
下には男の子が二人いる。
二人は兄と弟の兄弟。
その兄弟と家が近いせいか、結構仲良し。
異性だというのに、毎日遊んでいた。
三人とも性格が違うけれど、たった一つの共通項があった。
野球だ。
他の子ども達はサッカーやら、バスケにご執心だ。
いつも泥だらけだし、坊主頭にならないといけないし、真夏に何時間も立ち続けなきゃならない。
とにかく、人気がない。
だけど、野球をやっていると楽しい。
最後に残しておいたイチゴを食べる時よりも、プチプチを潰している時よりも、トイレットペーパーを三角に折る時よりも楽しい。
だから、私を置いて二人がどこかに野球をしに行ったのが我慢ならなかった。
仲間外れにされた気分だった。
だけど、追いつけばこれだ。
いつの間にか、賞品扱いされている。
しかも、勝負をふっかけたのは、いつも冷静で大人っぽくカッコいい兄の方だ。
弟の方は不真面目で子どもっぽくてかっこ悪い弟だ。
いつもふざけている。
だから、
「いいよ」
眉を顰めながら、重苦しく応えるとは思わなかった。
もっと軽妙に受け流すと思ったのに。
いや、ほんと。ええええええええええええ!? 一体全体どうしてこんなことになっているのか分からなかった。
本当はこれ、絶対私は聴いちゃいけない話だったはず。
なんて空気が読めない私ッ……!
だって、これってもしかして、二人とも私のことがす、す、す、すすすす――いや、恥ずかしい。勘違い女だ、これ。そういうことじゃなくて、もっと別の意味があるかもしれない。
「三打席勝負にする?」
「――いや、三球勝負でいいよ! どうせ、三球で打てなかった、俺は一生お前の球打てないからな!」
「……分かった」
心の準備をしている間に、私を賭けた野球勝負が始まろうとしている。
今思い返しても、止めるべきだったのか、止めないべきだったのか分からない。
だけど、どっちにしても、止められなかった。
あの二人の真剣勝負を止めることなど、きっと誰にもできなかった。
兄はゆっくりと振りかぶる。
弟はバッドを握った手を後ろに引く。
そして、ボールを投げられた。
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