第18話
発見された生徒は山の中からどうやって海岸まで出て来たのか、その間の記憶を全く持っていないことが分かった。
そこで、それ以上聞いても無駄だと思ったマナたちは、その生徒を連れてシャーミルを追いかけて崖から落ちたという現場に行ってみることにした。
「プーリ! お前、大丈夫なのか!?」
「え、ああ。俺、本当に崖から落ちたのか?」
「お前、頭でも打ったのか? 俺の目の前で急に消えたじゃないか」
「そうだったっけ?」
どうやらやはり、この生徒が崖から落ちた生徒だったようだ。しかし、やはり記憶は完全に失っているようだった。
崖は高さが5メートル以上もあり、落ちたら無事でいられる高さとは思えなかった。崖の中腹には断崖にもかかわらず低木が生えていたけれど、落下の最中に都合よく枝を掴めるとも思えないし、たとえ掴んでも折れてしまうくらいの太さしかなかった。
「ねえ、落ちた場所って、正確にどこ?」
目の前で落ちたのを見たといった生徒に確認をしてみたけれど、特に崖の様子に変わったところは見られなかった。
「あ、ちょっ、マナ!」
下の様子を見るため、マナが崖からぴょんと飛び降りると、周りにいた生徒たちが驚いて崖に駆け寄ったが、マナは平気な様子で崖下に着地して周りを観察していた。ヘータも海から離れて元気になったので、崖の中腹を器用に駆け回っていた。
崖の下には川が流れていて、それは海の方まで続いているようだった。もし落ちた生徒が川に流されたら海までたどり着くということは考えられなくもなさそうだけれども、深さがないので実際に流されたとしても途中で引っ掛かって止まる可能性の方が高そうだった。
「だめ。さっぱり分からないわ」
「こっちもだにゃ」
しばらく調べても手掛かり一つ見つからず、マナは頭を押さえてしまった。ヘータも崖の上から降りてきて前足を上げている。
「まあ、とにかく、神龍がどうかは分からないけど、何か不思議なことが起きている可能性はあるわね」
詳細は未知のままだが、崖から落ちた生徒が無傷で発見されたということで、この件は一応解決ということになった。ただし、危険があるということで、合宿中に森の奥を探索することは禁止ということとなった。
「全く余計なことをして下さいましたわ」
神龍を探す気満々でいたカルネはその決定に不服そうだった。引率のシャーミルが決めたことなので従わざるをえないので、崖から落ちた生徒の方へ怒りの矛先が向いているようだ。
その後、マナたちは発見した間欠泉のところに行って、露天風呂を作り始めた。最低限必要なのは外から覗かれないようにする目隠しで、近くで切り倒して来た木を板にして立てていくことになった。他にも床に丸石を敷き詰めて足が汚れないようにしたり、桶を作ったりとやることはたくさんある。
「板ってどうやって作るんですか?」
「ミレイ!」
「ふふ。魔法使いというのは戦うだけが能じゃないのだよ」
マナたちとは違って生産職のミレイは、こういうところでこそ一番の力を発揮するので、ここぞとばかりに張り切っているようだった。
「じゃ、マナ、ちょっと木を切ってきて」
でも、力仕事になるとマナの力を借りる方が圧倒的に早いのだった。
「僕が取って来よう」
対抗意識を燃やしたのか、マナに頼んだのにバドルスが木を切りに行くことになったが、そのあたりも含めていつものことではある。
「私は洞窟の方へ行ってきますわ」
「一人で中に入るのは危険だ。やめておけ」
「心配無用です。外から観察するだけですわ」
ということで、バドルスは木を切りに、カルネは洞窟に行き、それならばとマナは床に敷く丸石を集めることにした。
「丸石と言えば、河原かな?」
「さっき崖の下に川が流れていたにゃ」
地図に川は描きこまれていなかったけれど、さっき見た位置から流れる向きを推定して河口の位置に当たりを付け、その方向へと向かった。多少ずれていても方向が合っていれば歩いていれば見つかるだろう。
そして、程なくして、川の河口にたどり着いた。ただ、丸石が採取できるのはもう少し上流の方に行く必要があるようだったので、マナたちは川沿いに上流の方へと進んでいった。歩きづらいところがあっても、飛んでいけば問題ない。
「うー。やっぱり調子悪いにゃ」
川の下流域は、海の方から水属性の影響が流れ込んでくるせいか、海から離れてもヘータはあまり調子がよくないようだ。
「待って、この川、さっきのとは違う川じゃない?」
途中で疑問に思ったマナが地図を何度も見直してそう言った。川は少し上流に進んだところで大きく蛇行して、崖のあったところとは別の方向へと進んでいたのだ。もしかすると、どこかで再び逆方向に蛇行して元に戻っているという可能性もないではないけれど。
しかし、今、それを特別追及しなければならない必要性もないので、マナは丸石採取の方を優先して、川がどこに繋がっているかは確認しなかった。
大量に拾った丸石をその辺の木を伐り出して作った箱に詰めて温泉のところに戻った。普通の人間ではとても持てない重量の箱だったが、箱自体に手足を生やして自分で歩かせたのでマナが腕力を使う必要はなかった。
ミレイは露天風呂建築の真っ最中で、今はどうやらデミと一緒に漆喰のようなものを作っているようだった。
「あ、マナ、ちょーいいところに。湯船を作るから、このお湯をちょっと退けてほしいんだけど」
「え?」
また都合のいいお願いを、と思いながらも、注文通りに温泉のお湯だけを別のところに移動してあげた。
そんな風に露天風呂建築は順調に進み、夕方になってようやく完成を迎えたのだった。
「カレーができました」
風呂を作ったのでせっかくだからとテントも移動させて来て、昼の訓練の続きということで、デミにカレーを作ってもらっていた。魔法を使って適度な火力を維持して鍋を温め続けるという訓練だ。疲労困憊で汗だくになっていたけれど、何とか焦がさずにできたようだ。
「……アジのフライがあれば完璧だったのににゃ」
「ねぇ、今更だけど、猫にカレーっていいの?」
「あ……」
マナがしまったという顔をしたが、ヘータは熱いのかふーふー言いながら、玉ねぎまでもうまそうに食べていた。ヘータのことだから、何かあるなら本人が文句を言うはずなので、食べているということは大丈夫なのだろう。
その向こうでは、カルネが隠し味といってカレーの上に持参のマヨネーズをたっぷりかけて、バドルスにドン引きされていた。




