第17話
「じゃ、行くよ。りゃーっ」
ミレイが変な掛け声を掛けてボールを手で打つと、ボールは見当違いな方向へ飛んでいった。
「またじゃん!」
「ちょーごめーん」
今日2度目のホームランに、マナはムッとした様子でボールを追いかけて走り始めた。ミレイは遠慮なくかっ飛ばしたようで、最初の時よりもさらに遠くまで飛んでいってしまって、木立の裏に見えなくなっていた。
「面倒くさいな」
マナはぼそっと呟くと、周りを確認してこっそり結印を行った。
「<発現>」
するとマナの身体がふわりと浮いて高速で飛行し始めた。
トルン市に限らず多くの都市では許可されたところに以外では多くの魔法の使用は禁止になっている上、飛行魔法は交通ルールでも規制されている。なので、飛行魔法は便利だけれども、学校や自分の家以外で使うのは気を付けなければいけない。
もちろん、この島は無人島である上に魔法学園の合宿なので魔法の使用自体は問題はないことになっているのだけれど、交通ルールの方は守らないといけなかった。
「あれはスピード違反ではないのか?」
そして、案の定、規則にうるさいバドルスは、マナがこっそり使った飛行魔法を目敏く見ていたのだった。
「えっと、この辺に落ちたと思うんだけど、……!?」
バドルスに見られていたことに気付く事なく、木立の裏まで飛んで行ったマナは、ボールを探して辺りを見回した。すると、誰もいないと思っていた陰に何かが潜んでいるような気配がした。
気配と言っても物音がしたという訳でもなく、何者かの微弱な固有魔力の存在を気配として感じたというものなので、微弱すぎてどこに何がというのが分かるほどでもなかった。そもそも、マナでなければ気付くすべもないほどの気配だったが。
しかし、何が潜んでいたのかは、すぐに分かることになった。2、3歩歩いたところで人が倒れているのが見えたからだ。
「……、ちょっと?」
「……う、ここは?」
倒れていた人物はすぐに気が付いて体を起こした。さっき神龍探しに出かけた生徒の一人だった。
「そんなとこで寝てても神龍が見つかるわけないわよ」
「おかしいな。確か山の方に向かったはずだったんだけど」
「何、寝ぼけてるの?」
マナは、生徒がただ寝ぼけているだけで特に異常はなさそうだと見ると、生徒のことは放っておいてボールを拾ってビーチバレーのコートへと戻って行った。
「ねえ、カルネ」
「はい、マナ様?」
「一応聞くけど、神龍探しに行った生徒たちに何か異変はあった?」
「いえ、特に何も異常は……、何人かがこちらに走って戻って来ていますわ」
「どうした、再開しないのか?」
マナがカルネとコートに入らず話していると、バドルスが不審がって尋ねてきた。と、そこへ、森の方から生徒が数人駆けこんできた。
「先生、大変です。崖から一人、落ちてしまいましたっ」
生徒たちはシャーミルの姿を見ると、走りながら大きな声を上げた。マナたちにもその内容は聞こえ、驚いてカルネを見ると、カルネ自身も驚いた様子だった。
「おかしいですわね。私の方には何も異常は報告されておりませんわ」
そう言いながらカルネは蜂たちを慌ただしく飛ばして状況を確認しようとしているようだった。もうビーチバレーを続けるというような雰囲気ではなくなってしまった。
「僕も現場に向かうぞ」
シャーミルが報告に来た生徒たちと共に現場に向かうのを見て、バドルスはその後を追いかけていった。シシーもバドルスと行動を共にしたが、ミレイとデミはそちらを気にしながらマナとカルネの様子に注目していた。
「ねえ、カルネ。聞きたいんだけど、あれはどうしてあそこにいるの?」
マナがそう言って指さした先は、さっき木陰で見つけた生徒がちょうどふらふらしながら歩いて出て来ているところだった。
「……、あり得ませんわ」
カルネはそこに生徒がいることが全く予想外だったようで、幽霊でも見たような様子で驚いていた。
「ちょっと、あなた。こっちに来て。……、早く!」
マナにどやされて、生徒は慌ててマナたちのところに駆け寄ってきた。
「あなた、さっき神龍を探しに山の方に行ったわね。なのに、どうしてここにいるの?」
「それが、さっぱり分からないんです……」
「カルネ?」
「私にも分かりませんわ。この方に付いていた蜂の情報は消去されてましたので」
「ん? どういうこと?」
カルネによると、アリアノ蜂は体内に魔晶石を持ち、一定量の情報を蓄えることができる。が、生徒に付けておいた蜂の体内の魔晶石の情報は残っていなかったのだそうだ。通常は自然に消えることはないということなのだが。
誰も生徒がここにいた理由について心当たりがある様子はなさそうだったので、マナはより核心に迫る質問をぶつけて見た。
「山に行った中の1人が崖から落ちたそうだけど、あなた知ってる?」
「え、誰が落ちたんですか?」
「私の知る限り、誰も落ちていませんわ。一人を除いては……」
カルネがそう言うと、全員の視線が生徒に集まった。
「え、僕?」




